症状は徐々に現れ、疲労やかゆみの悪化がみられるほか、後に黄疸が生じます。
画像検査で診断を確定します。
治療では、症状の緩和に重点が置かれますが、肝移植によって余命を延長することも可能です。
胆汁は、肝臓で作られ消化を助ける液体です。胆汁は、胆汁を送り出すための細い管(胆管)を通って、最初に肝臓内を、続いて肝臓から胆嚢へ、そこからさらに小腸へと送られます。(胆嚢と胆管の病気の概要 胆嚢と胆管の病気の概要 胆汁は、緑がかった黄色の粘り気のある液体で、肝臓で作られます。胆汁はコレステロール、脂肪、脂溶性ビタミンを腸から吸収しやすい形に変えることで、消化を補助します。また、特定の老廃物(主にビリルビンと過剰なコレステロール)や薬の副産物を体外に排出する働きもあります。 胆道は複数の細い管で構成され、胆汁はそれらの管を通って肝臓から胆嚢へ、さらに... さらに読む も参照のこと。)
原発性硬化性胆管炎では、胆管が炎症を起こし、これにより胆管や肝臓の組織の瘢痕化が進行していき、最終的に重症(肝硬変)になります。瘢痕組織は胆管を狭め、ふさいでしまいます。その結果、脂肪の吸収を促す胆汁酸塩が正常に分泌されなくなります。この病気は 原発性胆汁性胆管炎 原発性胆汁性胆管炎(PBC) 原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、肝臓内の胆管が炎症を起こし、進行性の瘢痕化が起こる病気です。最終的には胆管がふさがり(閉塞)、肝臓が瘢痕化して、肝硬変や肝不全を発症します。 原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、おそらく自己免疫反応に起因して発生すると考えられています。 通常、この病気は、かゆみ、疲労、口腔乾燥とドライアイ、 黄疸を引き起こしますが、症状がみられない患者もいます。 通常は、特定の抗体を測定する血液検査で診断を確定できます。... さらに読む に似ていますが、肝臓内だけでなく、肝臓外の胆管にも影響が及ぶ点で異なっています。原因ははっきりしていませんが、 自己免疫 自己免疫疾患 自己免疫疾患とは免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気です。 自己免疫疾患の原因は不明です。 症状は、自己免疫疾患の種類および体の中で攻撃を受ける部位によって異なります。 自己免疫疾患を調べるために、しばしばいくつかの血液検査が行われます。 治療法は自己免疫疾患の種類によって異なりますが、免疫機能を抑制する薬がしばしば使用されます。 さらに読む (免疫系が自分自身の組織を攻撃する反応)が関与していると考えられています。
原発性硬化性胆管炎は若い男性に多くみられ、診断時の平均年齢は40歳です。また 炎症性腸疾患 炎症性腸疾患(IBD)の概要 炎症性腸疾患とは、腸に炎症が起き、しばしば腹痛と下痢が繰り返し起こる病気です。 炎症性腸疾患としては、主に以下の2種類の病気があります。 クローン病 潰瘍性大腸炎 この2つの病気には多くの共通点があり、ときに判別が難しいことがあります。しかし2つの病気にはいくつかの違いがあります。例えば、クローン病は消化管のほぼすべての部分に起こりうるの... さらに読む 、特に 潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎とは、大腸に炎症が起こり、潰瘍が形成される慢性炎症性腸疾患で、出血性の下痢や腹部のけいれん痛、発熱を伴う発作が起きます。潰瘍性大腸炎がない人と比べて、結腸がんの長期リスクが高まります。 この病気の正確な原因は分かっていません。 発作時の典型的な症状は、腹部のけいれん痛、便意の切迫、下痢(血性下痢が典型的)などです。 診断は、S状結腸内視鏡検査か、ときに大腸内視鏡検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む の患者によくみられます。家族内で起こる傾向があり、遺伝子が関与している可能性が示唆されています。この病気にかかりやすい遺伝子をもつ人では、胆管の感染または損傷が発症の引き金となることがあります。
原発性硬化性胆管炎の症状
症状は通常、悪化する疲労とかゆみとして徐々に始まります。その後、 黄疸 成人の黄疸 黄疸では、皮膚や白眼が黄色くなります。黄疸は、血中にビリルビン(黄色の色素)が多すぎる場合に起こります。この病態を高ビリルビン血症と呼びます。 ( 肝疾患の概要と 新生児黄疸も参照のこと。) 写真では、黄色に変色した眼と皮膚(黄疸)がみられます。 ビリルビンは、古くなった赤血球や損傷した赤血球を再利用する正常なプロセスの中で、ヘモグロビン(酸素を運ぶ赤血球の一部)が分解されるときに生成されます。ビリルビンは血流によって肝臓に運ばれ、胆汁... さらに読む (皮膚や白眼の部分が黄色くなる症状)が生じます。
胆管の炎症や繰り返す感染(細菌性胆管炎)が起こることもあります。細菌性胆管炎は上腹部の痛み、黄疸、発熱を引き起こします。
胆汁酸塩が正常に分泌されないと、脂肪と脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収が不十分になります。胆汁分泌に障害が起きると 骨粗しょう症 骨粗しょう症 骨粗しょう症とは、骨密度の低下によって骨がもろくなり、骨折しやすくなる病態です。 加齢、エストロゲンの不足、ビタミンDやカルシウムの摂取不足、およびある種の病気によって、骨密度や骨の強度を維持する成分の量が減少することがあります。 骨粗しょう症による症状は、骨折が起こるまで現れないことがあります。... さらに読む になり、あざや出血が生じやすくなり、脂っぽく悪臭のある便(脂肪便)が出るようになります。原発性硬化性胆管炎患者の約4分の3に、 胆石 胆石 胆石は胆嚢内で固形物(主にコレステロールの結晶)が集積したものです。 肝臓はコレステロールを過剰に分泌することがあり、このコレステロールは胆汁とともに胆嚢に運ばれ、そこで過剰なコレステロールが固体粒子を形成して蓄積します。 胆石は、ときに数時間続く上腹部痛を起こすことがあります。 超音波検査では極めて正確に胆石を検出できます。 胆石によって痛みなどの問題が繰り返し起こる場合は、胆嚢を摘出します。 さらに読む や胆管結石が生じます。肝臓や脾臓の腫大もみられることがあります。
病気が進行すると、 肝硬変の症状 症状 肝硬変は、機能を果たさない瘢痕組織が大量の正常な肝組織と永久に置き換わり、肝臓の内部構造に広範な歪みが生じることです。肝臓が繰り返しまたは継続的に損傷を受けると、瘢痕組織が生じます。肝硬変はかつては不可逆的と考えられていましたが、最近の科学的証拠から一部の症例では可逆的であることが示唆されています。 肝硬変の最も一般的な原因は、慢性的な アルコール乱用、 慢性ウイルス性肝炎、... さらに読む が現れます。進行した肝硬変は以下の症状を引き起こします。
病気が進行して肝硬変が生じるまで症状が現れない人もいます。長ければ10年間、症状がみられないことがあります。
原発性硬化性胆管炎を発症すると、10~15%の人に胆管のがん(胆管がん 胆管と胆嚢の腫瘍 胆管や胆嚢の腫瘍は、悪性か良性かを問わず、まれです。 胆管や胆嚢の腫瘍は通常、超音波検査かMRI/MRCPで検出することができます。 これらのがんは多くの場合致死的ですが、症状の治療はできます。 胆汁は、肝臓で作られ消化を助ける液体です。胆汁は、胆汁を送り出すための細い管(胆管)を通って、最初に肝臓内を、続いて肝臓から胆嚢へ、そこからさらに小腸へと送られます。胆嚢は、肝臓の下にある洋ナシのような形をした小さな袋状の臓器で、胆汁を蓄え、必... さらに読む )が発生します。
この病気は通常、徐々に悪化します。典型的には、平均で診断から12年ほどで肝不全が起こります。
原発性硬化性胆管炎の診断
肝臓の血液検査
超音波検査に続いて、その他の画像検査
定期健診での診察や別の理由で行われた 肝臓の検査 肝臓の血液検査 肝臓の検査は血液検査として行われますが、これは肝疾患の有無をスクリーニングし(例えば、献血された血液に 肝炎があるかを調べる)、肝疾患の重症度や進行度と治療に対する反応を評価するための検査のうち、体への負担が少ない方法の代表例です。 臨床検査は、一般的に以下の目的に有効です。 肝臓の炎症、損傷、機能障害の検出... さらに読む の結果、異常が見つかり、この病気が疑われることがあります。まず 超音波検査 超音波検査 肝臓、胆嚢、胆管の画像検査には、超音波検査、核医学検査、CT検査、MRI検査、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)検査、経皮経肝胆道造影検査、術中胆道造影検査、単純X線検査などがあります。 ( 肝臓と胆嚢の概要も参照のこと。) 超音波検査では、音波を利用して肝臓や胆嚢、胆管を画像化します。経腹超音波検査は、 肝硬変(肝臓の重度の瘢痕化)や 脂肪肝(肝臓に過剰な脂肪が蓄積している状態)など肝臓全体を一様に侵す異常よりも、腫瘍など肝臓の特... さらに読む を行い、肝臓外の胆管に閉塞があるかどうかを確認します。以下の検査を行って診断を確定します。
磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP)検査: MRI MRI検査 肝臓、胆嚢、胆管の画像検査には、超音波検査、核医学検査、CT検査、MRI検査、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)検査、経皮経肝胆道造影検査、術中胆道造影検査、単純X線検査などがあります。 ( 肝臓と胆嚢の概要も参照のこと。) 超音波検査では、音波を利用して肝臓や胆嚢、胆管を画像化します。経腹超音波検査は、 肝硬変(肝臓の重度の瘢痕化)や 脂肪肝(肝臓に過剰な脂肪が蓄積している状態)など肝臓全体を一様に侵す異常よりも、腫瘍など肝臓の特... さらに読む で胆管と膵管の画像を撮影します。この検査は、原発性硬化性胆管炎の診断を確定し、胆管閉塞の他の原因を除外するために有用です。
内視鏡的逆行性胆道膵管造影 内視鏡的逆行性胆道膵管造影検査 肝臓、胆嚢、胆管の画像検査には、超音波検査、核医学検査、CT検査、MRI検査、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)検査、経皮経肝胆道造影検査、術中胆道造影検査、単純X線検査などがあります。 ( 肝臓と胆嚢の概要も参照のこと。) 超音波検査では、音波を利用して肝臓や胆嚢、胆管を画像化します。経腹超音波検査は、 肝硬変(肝臓の重度の瘢痕化)や 脂肪肝(肝臓に過剰な脂肪が蓄積している状態)など肝臓全体を一様に侵す異常よりも、腫瘍など肝臓の特... さらに読む (ERCP)検査:内視鏡を介して胆管内に造影剤(X線画像に写る物質)を注入してから、X線撮影を行います(図「 内視鏡的逆行性胆道膵管造影検査について 内視鏡的逆行性胆道膵管造影検査について理解する 」を参照)。ERCPは体への負担が大きく、また造影剤を注入する必要があるため、MRCPの方がより望ましい方法といえます。しかし、ERCPは合併症の治療に用いることもできます。
胆管や肝臓の組織のがんがないか調べるため、血液検査とMRCPが定期的に行われることもあります。
原発性硬化性胆管炎と診断された場合は、 炎症性腸疾患 炎症性腸疾患(IBD)の概要 炎症性腸疾患とは、腸に炎症が起き、しばしば腹痛と下痢が繰り返し起こる病気です。 炎症性腸疾患としては、主に以下の2種類の病気があります。 クローン病 潰瘍性大腸炎 この2つの病気には多くの共通点があり、ときに判別が難しいことがあります。しかし2つの病気にはいくつかの違いがあります。例えば、クローン病は消化管のほぼすべての部分に起こりうるの... さらに読む を合併していないか調べるために、生検を伴う大腸内視鏡検査も行う必要があります(内視鏡検査 内視鏡検査 内視鏡検査とは、柔軟な管状の機器(内視鏡)を用いて体内の構造物を観察する検査です。チューブを介して器具を通すことができるため、内視鏡は多くの病気の治療にも使うことができます。 口から挿入する内視鏡検査では、食道(食道鏡検査)、胃(胃鏡検査)、小腸の一部(上部消化管内視鏡検査)が観察できます。 肛門から挿入する内視鏡検査では、直腸(肛門鏡検査)、大腸下部と直腸と肛門(S状結腸内視鏡検査)、大腸全体と直腸と肛門(大腸内視鏡検査)が観察できま... さらに読む を参照)。
原発性硬化性胆管炎の治療
症状を改善する治療と合併症の治療
ときに肝移植
症状がなければ、治療は必要ありません。しかし、少なくとも年2回は身体診察と血液検査を受けて、病気の進行をモニタリングする必要があります。
ウルソデオキシコール酸とコレスチラミンという薬が、かゆみの軽減に役立ちます。繰り返す細菌性胆管炎は抗菌薬で治療します。閉塞した胆管を広げる(拡張する)ために、必要に応じて、ERCPを行います。場合により、胆管を広げておくためのチューブ(ステント)を一時的に挿入することもあります。
肝移植 肝移植 肝移植とは、健康な肝臓またはときに生きている人から肝臓の一部を手術で摘出し、肝臓が機能しなくなった人に移植することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 肝移植は2番目に多い臓器移植です。肝臓が機能しなくなった人々に残された唯一の選択肢です。 完全な形の肝臓は死亡した人からしか提供を受けられませんが、肝臓の一部であれば生きているドナーでも提供できます。移植用の肝臓は摘出後、最長で18時間保存できます。... さらに読む は、余命を伸ばすことができ、治癒が得られる可能性がある唯一の治療法です。 肝硬変 肝硬変 肝硬変は、機能を果たさない瘢痕組織が大量の正常な肝組織と永久に置き換わり、肝臓の内部構造に広範な歪みが生じることです。肝臓が繰り返しまたは継続的に損傷を受けると、瘢痕組織が生じます。肝硬変はかつては不可逆的と考えられていましたが、最近の科学的証拠から一部の症例では可逆的であることが示唆されています。 肝硬変の最も一般的な原因は、慢性的な アルコール乱用、 慢性ウイルス性肝炎、... さらに読む や関連する重篤な合併症が発生している患者、細菌性胆管炎が再発した患者、胆管がんや肝臓がんがある患者には、肝移植が必要になることがあります。
胆管がん 胆管と胆嚢の腫瘍 胆管や胆嚢の腫瘍は、悪性か良性かを問わず、まれです。 胆管や胆嚢の腫瘍は通常、超音波検査かMRI/MRCPで検出することができます。 これらのがんは多くの場合致死的ですが、症状の治療はできます。 胆汁は、肝臓で作られ消化を助ける液体です。胆汁は、胆汁を送り出すための細い管(胆管)を通って、最初に肝臓内を、続いて肝臓から胆嚢へ、そこからさらに小腸へと送られます。胆嚢は、肝臓の下にある洋ナシのような形をした小さな袋状の臓器で、胆汁を蓄え、必... さらに読む が生じており、それを切除する手術ができない場合は、がんによってふさがれている胆管内に内視鏡を介してステントを設置します。このステントによって、胆管が開かれ、黄疸が改善し、繰り返し感染症が起こることを予防できます。胆管がんが肝臓の底部(肝臓外の胆管と肝臓内の胆管が合流する部分)に限局している場合、 肝移植 肝移植 肝移植とは、健康な肝臓またはときに生きている人から肝臓の一部を手術で摘出し、肝臓が機能しなくなった人に移植することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 肝移植は2番目に多い臓器移植です。肝臓が機能しなくなった人々に残された唯一の選択肢です。 完全な形の肝臓は死亡した人からしか提供を受けられませんが、肝臓の一部であれば生きているドナーでも提供できます。移植用の肝臓は摘出後、最長で18時間保存できます。... さらに読む が治癒を期待できる選択肢となることがあります。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
国際機能性消化管疾患財団(IFFGD)(International Foundation for Functional Gastrointestinal Disorders[IFFGD]):消化器疾患の患者が自身の健康を管理していく上で役立つ信頼できる情報源。
米国国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所(NIDDK)(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases[NIDDK]):消化器系の仕組みに関する包括的な情報と、研究や治療選択肢など関連するトピックへのリンク。