通常は、口の中にいる細菌が肺の中へ吸い込まれることで生じます。
症状には、疲労感、食欲不振、寝汗、発熱、体重減少、たんがからんだせきなどがあります。
通常は、胸部X線検査で診断します。
肺膿瘍が消失するまでの数週間は、通常、抗菌薬を使用する必要があります。
肺膿瘍の原因
肺膿瘍は、通常、口やのどの中にいる細菌が肺の中へ吸い込まれ(誤嚥)、感染症を引き起こすことで発生します。多くの場合、 歯周病 歯周炎 歯周炎は、重症の 歯肉炎で、歯ぐきの炎症が歯を支える構造にまで広がる病気です。 歯垢と 歯石が歯と歯ぐきの間にたまり、さらに歯の下にある骨へと広がります。 歯ぐきが腫れて出血し、口臭が生じ、歯がぐらつくようになります。 X線検査を行い、歯ぐきにできた歯周ポケットの深さを測定し、歯周炎の重症度を調べます。... さらに読む が肺膿瘍の細菌源となります。
細菌が肺の内部へ侵入しないように、体には多くの防御機構(せきなど)が備わっています。鎮静薬、麻酔、アルコールや薬物の乱用、神経の病気などによって、意識がない場合や意識がもうろうとしている場合で、誤嚥した細菌をせきで排出する力が弱まっているときに主に感染がみられます。
免疫機能が低下した人では、口やのどにはほとんどみられない真菌や結核菌(Mycobacterium tuberculosis)(結核 結核 結核は、空気感染する細菌である結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる、感染力の強い慢性感染症です。結核は肺を侵しますが、ほぼすべての臓器に影響が及ぼす可能性があります。 結核に感染するのは、主に活動性結核の患者によって汚染された空気を吸い込んだ場合です。... さらに読む を引き起こす微生物)などの微生物によって、肺膿瘍になることがあります。その他の肺膿瘍の原因としてレンサ球菌と、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus) (MRSA メチシリン耐性黄色ブドウ球菌( Staphylococcus aureus )(MRSA) 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は多くの一般的なブドウ球菌の中で最も危険とされています。この グラム陽性の球状細菌(球菌)(図「 細菌の形状」を参照)は、しばしば皮膚感染症を引き起こしますが、肺炎、心臓弁の感染症、骨の感染症を引き起こすこともあります。... さらに読む )を含むブドウ球菌があり、それは重篤な感染症です。
気道の閉塞によって膿瘍が形成されることもあります。気管が分岐したところ(気管支)が腫瘍や異物でふさがれると、閉塞部の奥に分泌物(粘液)がたまって、膿瘍が形成されることがあります。このような分泌物に細菌が混入することもあります。しかし、気道が閉塞していると、せきをしても細菌を含んだ分泌物を吐き出せなくなります。
まれに、体の別の部位が感染し、病原体を含んだ血栓や細菌が血流に乗って肺に運ばれ、肺膿瘍を起こすことがあります(敗血症性 肺塞栓 肺塞栓症 肺塞栓症は、血液のかたまり(血栓)や、まれに他の固形物が血液の流れに乗って肺の動脈(肺動脈)に運ばれ、そこをふさいでしまう(塞栓)病気です。 肺塞栓症は、一般に血栓によって発生しますが、別の物質が塞栓を形成して動脈をふさぐこともあります。 肺塞栓症の症状は様々ですが、一般に息切れなどがみられます。... さらに読む )。
誤嚥 誤嚥性肺炎と化学性肺炎 誤嚥性肺炎は、口腔内の分泌物、胃の内容物、またはその両方を肺に吸い込んだ場合に発生する肺の感染症です。化学性肺炎は、肺を刺激する物質や肺に有毒な物質を吸い込んだ場合に起こる肺の炎症です。 症状には、せきや息切れなどがあります。 医師は、患者の症状や胸部X線検査に基づいて診断を下します。... さらに読む または気道閉塞が原因の場合は、一般に1カ所だけに肺膿瘍がみられます。肺膿瘍が複数できる場合でも、通常は同じ方の肺にできます。しかし、血流を介して肺に感染した場合は、両方の肺に多数の膿瘍が散らばってできることがあります。これは、汚染された針や殺菌されていない手法を用いて薬物を注射した人に最もよくみられます。
ほとんどの膿瘍はやがて破裂し、気道内に入って大量のたんとなり、せきとともに吐き出されます。膿瘍が破裂した後の肺には空洞ができ、中が液体と空気で満たされます。場合によっては、膿瘍が破裂して、膿が肺と胸壁の間の空間(胸腔)に入り、そこが膿で満たされた 膿胸 胸水の種類 胸水とは、胸腔(厳密には2つの胸膜の間)に液体が異常にたまることや、その液体自体のことをいいます。 胸腔に液体がたまる原因としては、感染症、腫瘍、外傷、心不全、腎不全、肝不全、肺血管の血栓( 肺塞栓症)、薬物など、数多くあります。 症状には、呼吸困難や胸痛などがあり、特に呼吸やせきをしたときに現れます。... さらに読む と呼ばれる状態になることもあります。極めてまれですが、膿瘍により血管の壁が破壊され、大量出血をきたすこともあります。
肺膿瘍の症状
症状は徐々に現れるのが最も一般的です。しかし、膿瘍の原因によっては、症状が突然現れることもあります。初期症状としては以下のものがあります。
疲労
食欲不振
夜中の発汗
発熱
たんがからんだせき
悪臭を放つたん(口やのどにいる細菌は悪臭を発する傾向にあります)や、血がすじ状に混ざったたんが出ることがあります。口臭がみられることもあります。また呼吸時、特に肺の外側や胸壁の内側を覆っている胸膜が炎症を起こしている場合に胸痛を感じることもあります。多くの人は、このような症状が数週間から数カ月も続いてから医療機関を受診します。このような患者では膿瘍が慢性化しており、その他の症状に加えて、大幅に体重が減少し、発熱や寝汗が日常的にみられます。これとは対照的に、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)やMRSAによる肺膿瘍では、数日(ときには数時間)以内に死亡することもあります。
肺膿瘍の診断
胸部X線検査
ときに胸部CT検査
ほとんどの場合、胸部X線検査で、肺膿瘍は液体と空気で満たされた空洞として写ります。しかし、X線検査でも、肺膿瘍ががんやサルコイドーシスといった別の病気のようにみえることがあります。ときには、胸部のCT検査を行って初めて膿瘍が発見されることもあります。
たんを採取して、膿瘍の原因になった微生物を増殖させる(培養する)こともありますが、この検査は、特定の微生物を除外する場合を除いて、通常は役に立ちません。
次のような場合、 気管支鏡検査 気管支鏡検査 気管支鏡検査とは、気管支鏡(観察用の管状の機器)を用いて発声器(喉頭)や気道を直接観察することです。 気管支鏡の先端にはカメラが付いていて、これによって太い気道(気管支)から肺の内部を観察できます。医師は、気管支鏡に小さな器具を通し、肺や気道組織のサンプルを採取して、肺疾患の診断や一部の肺疾患の治療に役立てることもできます。気管支鏡には、... さらに読む を行って、気管支の中にある分泌物や組織を採取し、培養することがあります。
抗菌薬が効いていないと思われる場合
気道の閉塞(例えば、腫瘍によって気管支がふさがれる)が疑われる場合
患者の免疫機能が低下している場合
免疫機能が低下していると、通常は肺膿瘍の原因とならないような微生物によって、肺膿瘍が生じることがあります。こういったまれな微生物は、肺膿瘍の一般的な原因微生物とは異なる方法で治療する必要があるため、できるだけ早く特定しなければなりません。
肺膿瘍の治療
抗菌薬
治療には抗菌薬を使用します。ほとんどの場合、最初は静脈内に抗菌薬を投与し、症状が改善して発熱が治まってから経口投与に切り替えます。抗菌薬による治療は、症状がなくなり、胸部X線検査で膿瘍の消失が確認されるまで続けます。抗菌薬療法を開始してから、このような改善がみられるまで、通常3~6週間かかりますが、場合によってはさらに長い治療期間を要することもあります。
膿瘍の原因が気道をふさぐ腫瘍または異物であると考えられる場合、ときに気管支鏡による治療(異物を取り除くなど)が行われます。
ときに、膿胸や抗菌薬に反応しなかった膿瘍は、胸壁から挿入したチューブから排液する必要があります。チューブは気管支鏡を用いて留置するか、手術により挿入します。まれに、感染した肺組織を外科的に切除する必要があります。場合によっては、1つの肺葉全体または片方の肺全体を切除しなければなりません。
ほとんどの患者は治癒します。ただし、患者が衰弱している、免疫機能が低下している、気管支が腫瘍によってふさがれているといった場合は、治療が成功する可能性は低くなります。