典型的な症状としては、かかとの後方部分の腫れ、熱感、痛み、圧痛などがあります。
診断は症状や診察結果のほか、ときにX線検査の結果に基づいて下されます。
治療の目標は、炎症を軽減することと、アキレス腱滑液包炎の位置に応じて、かかと後方の圧迫を解消することです。
(足の問題の概要 足の問題の概要 足の問題の一部は、足のけがなどが原因で、足自体から始まります。問題は足のあらゆる骨、関節、筋肉、腱、靱帯に起こります。 足と足首の骨折が、かなり多くみられます。 そうではなく、 糖尿病や 痛風、その他の関節炎など、体の多くの部位に影響を及ぼす病気が原因で足の問題が起こる問題もあります。... さらに読む も参照のこと。)
アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉とかかとの骨をつないでいる腱です。滑液包炎とは、滑液包(液体で満たされた平らな袋で、皮膚、筋肉、腱、靱帯と骨がこすれる部分で衝撃を吸収し摩擦を軽減する)の痛みを伴う炎症です。
アキレス腱皮下滑液包炎は、主に若い女性にみられますが、男性でも発症します。靴のかかとの後ろを支える硬い部分に、かかとの後ろの軟部組織が繰り返し圧迫される歩き方をすると、滑液包炎を起こしたり、悪化させたりすることがあります。かかとの後方に向かうにつれて鋭く内側へと細くなっていく靴(かかとの高い靴やパンプスなど)が、かかとの後ろの骨の腫大(パンプス瘤またはハグルンド変形と呼ばれます)を引き起こしたり、悪化させたりすることがあり、これがアキレス腱皮下滑液包炎の一因になります。
踵骨後部滑液包炎(アルベルト病やアキレス腱前方滑液包炎とも呼ばれます)は、アキレス腱の緊張を増大させるあらゆる状態によって引き起こされる可能性があります。かかとの損傷(例えば硬い靴や足に合わない靴が原因で起こるもの)や病気(関節リウマチ 関節リウマチ(RA) 関節リウマチは炎症性関節炎の1つで、関節(普通は手足の関節を含む)が炎症を起こし、その結果、関節に腫れと痛みが生じ、しばしば関節が破壊されます。 免疫の働きによって、関節と結合組織に損傷が生じます。 関節(典型的には腕や脚の小さな関節)が痛くなり、起床時やしばらく動かずにいた後に、60分以上持続するこわばりがみられます。 発熱、筋力低下、他の臓器の損傷が起こることもあります。... さらに読む や 痛風 痛風 痛風は、尿酸の血中濃度が高いこと(高尿酸血症)が原因で、尿酸の結晶が関節に沈着し蓄積する病気です。結晶が蓄積することで、関節とその周辺に痛みのある炎症の発作が起きます。 尿酸結晶が蓄積すると、関節や組織に激しい痛みや炎症が断続的に起こることがあります。 炎症を起こした関節から採取した液体に尿酸結晶が認められれば、痛風の診断が下されます。... さらに読む など)も原因となることがあります。
かかとの滑液包炎
正常な状態では、かかとの滑液包は、アキレス腱とかかとの骨(踵骨)の間に1つしかありません。この滑液包が炎症を起こし、腫れて痛むことがあり、その結果として踵骨後部滑液包炎が起きることがあります。 異常な圧迫や足の機能障害があると、それらから組織を保護するために、アキレス腱と皮膚の間に滑液包が形成されることがあります。この滑液包も炎症を起こし、腫れて痛むことがあり、その結果としてアキレス腱皮下滑液包炎が起きることがあります。 |
アキレス腱滑液包炎の症状
症状は滑液包炎の原因と位置によって異なります。
アキレス腱皮下滑液包炎
アキレス腱皮下滑液包炎の初期症状は、かかとの後ろの発赤、痛み、熱感などです。後に、皮膚の一番上の層がすり減ることがあります。数カ月後、隆起した赤色、または肌色の領域(結節)のように見える、圧痛のある軟らかい滑液包ができ、炎症を起こします。アキレス腱皮下滑液包炎が慢性化した場合、その滑液包は硬くうろこのようになることがあります。
踵骨後部滑液包炎
踵骨後部滑液包炎の症状は、けがや痛風の後に滑液包に炎症が起きることで突然出現します。他の病気でこの滑液包炎が発生した場合は、症状は徐々に現れます。かかとの後ろに痛み、腫れ、熱感がみられます。歩行や靴を履くのが困難になります。わずかな発赤、腫れ、圧痛がかかとの後ろにみられます。炎症を起こした滑液包が大きくなると、腫れが、かかとの両側面へと広がります。
アキレス腱滑液包炎の診断
医師の診察
ときにX線検査
踵骨後部滑液包炎とアキレス腱皮下滑液包炎の診断は、まず診察から始まります。
アキレス腱皮下滑液包炎については、医師は赤色または肌色の結節がないか探します。
踵骨後部滑液包炎については、医師は腱とかかとの骨の間を強くつまんで、痛みが起こるかどうかを調べます。 X線検査 X線検査 筋骨格系の病気は、病歴と 診察の結果に基づいて診断されることがよくあります。医師が診断を下したり確定したりするのを助けるために、 臨床検査や 画像検査、 その他の診断方法が必要になることがあります。 筋骨格系の病気の診断には、臨床検査がしばしば役立ちます。例えば、赤血球沈降速度(赤沈)は、血液が入った試験管の中で赤血球が底に沈んでいく速さを測定する検査です。炎症が起きていると、通常は赤沈の値が上昇します。しかし、炎症は非常に多くの病態で... さらに読む では、腱の滑液包炎は診断できませんが、かかとの痛みの他の原因(例えば、かかとの骨折、関節リウマチや他の炎症性関節炎によるかかとの骨の損傷など)を否定するために、X線検査を行うことがあります。
アキレス腱滑液包炎の治療
どちらの場合も、患部の加温または冷却、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)、コルチコステロイドと麻酔薬の混合液の注射
アキレス腱皮下滑液包炎には履物の変更、ときに手術
踵骨後部滑液包炎とアキレス腱皮下滑液包炎には、患部を加温または冷却し、 NSAID 非ステロイド系抗炎症薬 痛み止め(鎮痛薬)は、痛みの治療に使用される主な薬剤です。医師が痛み止めを選択する際には、痛みの種類および持続期間と、それぞれの痛み止めで予想されるベネフィットとリスクを考慮します。ほとんどの痛み止めは侵害受容性疼痛(損傷による痛み)に対しては効果がありますが、 神経障害性疼痛(神経、脊髄、脳の損傷や機能障害による痛み)に対してはあまり効果がありません。多くのタイプの痛み(特に... さらに読む を投与し、炎症を起こしている滑液包にコルチコステロイドと麻酔薬の混合液を注射することで、一時的に痛みと炎症を緩和することができます。医師は混合液を腱の中に注射しないよう注意します。この治療を受けた人は安静にしておくべきです。
アキレス腱皮下滑液包炎の治療では、炎症を軽減することと、かかと後方の圧迫や動きが減るように靴の中での足の位置を調整することが目標になります。フォームラバーやフェルトでできたヒールパッドを靴の中に入れることで、かかとを上げて圧迫をなくすことができます。痛みのある滑液包の部分にゲル状の保護パッドをあてたり、靴の後部を広げて炎症を起こした滑液包の周囲にパッドをあてたりする処置が助けになることがあります。炎症が軽減するまで、かかとを覆う部分がない靴を履くこともあります。ときには、特別な靴(ミッドソールのかかと部分を安定化するようにデザインされたランニングシューズなど)、靴の中に入れる器具(装具)、またはその両方を使用することが、かかとの後部を刺激する一因となる足やかかとの異常な動きをコントロールするのに役立ちます。かかとの後ろやアキレス腱への刺激を和らげるパッド付きの靴もあります。
これらの治療で効果が認められなければ、かかとの骨の一部を手術で切除しなければならないこともあります。