急性横断性脊髄炎は、多発性硬化症、視神経脊髄炎、ライム病、全身性エリテマトーデスなどの特定の病気の人、または特定の薬剤を使用している人に起こります。
突然背中に痛みが生じ、患部を帯状に締めつけられるような感じがします。その後、ときに麻痺などの重度の症状が現れることがあります。
MRI検査が診断の助けになりますが、腰椎穿刺が必要になることもあります。
回復する人、いくつかの障害が残る人、ほとんど回復しない人が、それぞれ約3分の1ずついます。
可能であれば原因に対する治療を行いますが、それができない場合は、コルチコステロイドの投与や、ときに血漿交換を行うこともあります。
(脊髄の病気の概要 脊髄の病気の概要 脊髄の病気は、麻痺または 尿失禁や 便失禁(膀胱や腸の制御障害)などの永久的な重度の問題を引き起こすことがあります。場合によっては、評価と治療を迅速に行うことで、これらの問題を回避するか最小限に抑えることができます。 脊髄の病気の原因には、外傷、感染症、血流の遮断、骨折または腫瘍による圧迫などがあります。... さらに読む も参照のこと。)
米国では毎年約1400人に急性横断性脊髄炎が起こっていると推定されています。また、この病気による何らかの機能障害がある人は約33,000人いると考えられています。
急性横断性脊髄炎では、脊髄(通常は胸部)の1つまたは複数の領域で、脊髄の全幅に炎症が起きます。
原因
何が急性横断性脊髄炎の引き金になるのかは不明ですが、免疫系が自己の体を異物と誤解し、自己の組織を攻撃し損傷する抗体を生産する反応(自己免疫反応 自己免疫疾患 自己免疫疾患とは免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気です。 自己免疫疾患の原因は不明です。 症状は、自己免疫疾患の種類および体の中で攻撃を受ける部位によって異なります。 自己免疫疾患を調べるために、しばしばいくつかの血液検査が行われます。 治療法は自己免疫疾患の種類によって異なりますが、免疫機能を抑制する薬がしばしば使用されます。 さらに読む )が原因である可能性があります。横断性脊髄炎の場合、脊髄がその攻撃の対象となります。
急性横断性脊髄炎は、以下の病気がある人に発生することもあります。
特定の細菌感染症(ライム病 ライム病 ライム病は、ボレリア属(Borrelia)の細菌によって引き起こされ、マダニが媒介する感染症(ダニ媒介性感染症)で、米国でみられるボレリア属細菌は主にライム病ボレリア(Borrelia burgdorferi)、ときにボレリア・マヨニイ(Borrelia mayonii)です。これらのらせん形の細菌はスピロヘータと呼ばれています(図「」を参照)。... さらに読む 、 梅毒 梅毒 梅毒は、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)という細菌によって引き起こされる性感染症です。 梅毒の症状は、見かけ上は健康な時期をはさんで、3段階で生じます。 まず患部に痛みのない潰瘍が現れ、第2期では、発疹、発熱、疲労感、頭痛、食欲減退がみられます。 治療しないでいると、第3期には、大動脈、脳、脊髄、その他の臓器が侵されることがあります。 医師は通常、患者に梅毒があることを確認するために2種類の血液検査... さらに読む 、 結核 結核 結核は、空気感染する細菌である結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる、感染力の強い慢性感染症です。結核は肺を侵しますが、ほぼすべての臓器に影響が及ぼす可能性があります。 結核に感染するのは、主に活動性結核の患者によって汚染された空気を吸い込んだ場合です。... さらに読む など)
全身性エリテマトーデス 全身性エリテマトーデス(SLE) 全身性エリテマトーデスは、関節、腎臓、皮膚、粘膜、血管の壁に起こる慢性かつ 炎症性の自己免疫結合組織疾患です。 関節、神経系、血液、皮膚、腎臓、消化管、肺、その他の組織や臓器に問題が発生します。 診断を下すため、血液検査のほか、ときにその他の検査を行います。 全身性エリテマトーデスの全患者でヒドロキシクロロキンが必要であり、損傷を引き起こし続けている全身性エリテマトーデス(活動性の全身性エリテマトーデス)の患者には、コルチコステロイドな... さらに読む など、血管の炎症(血管炎 血管炎の概要 血管炎疾患は、血管の炎症(血管炎)を原因とする病気です。 血管炎は、特定の感染症や薬によって引き起こされる場合もあれば、原因不明の場合もあります。 発熱や疲労などの全身症状がみられることがあり、その後、侵された臓器に応じて他の症状がみられます。 診断を確定するために、患部の臓器の組織から採取したサンプルの生検を行い、血管の炎症を確認します... さらに読む )
ウイルス性髄膜脳炎(脳とその周囲の組織の感染症)
ヘロインの静脈内注射またはアンフェタミン類の使用
ときに、軽度のウイルス感染症またはワクチン接種の後に発症することもあります。
症状
通常、急性横断性脊髄炎の症状は突然の背中の痛みで始まり、炎症が起こった部位(胸部や腹部)の周りを帯状に締めつけられるような感覚が現れます。この病気の人は、頭または首にも痛みを有する可能性があります。
数時間から数日以内に、ピリピリ感、しびれ、筋力低下が足に起こり、上に広がっていきます。排尿は困難になりますが、なかには強い尿意(尿意切迫感)を感じるにもかかわらず、排尿は困難であるという人もいます。これらの症状はさらに数日かけて悪化し、重症化すると麻痺、感覚消失、尿閉(膀胱に尿がたまっても排尿できない状態)、尿失禁や便失禁に至ります。
障害の程度は、炎症を起こした脊髄の高さ(レベル)と炎症の重症度によって異なります。
診断
MRI検査
腰椎穿刺
その他の検査による原因の調査
急性横断性脊髄炎は症状から疑われますが、同様の症状を引き起こす他の病気(ギラン-バレー症候群 ギラン-バレー症候群(GBS) ギラン-バレー症候群は、筋力低下を引き起こす多発神経障害の一種で、筋力低下は通常は数日から数週間かけて悪化し、その後は自然にゆっくりと改善するか正常に戻ります。治療を行えば、もっと早く回復します。 ギラン-バレー症候群は、自己免疫反応によって引き起こされると考えられています。 通常、筋力低下は両脚で最初に起こり、それから体の上の方に広がります。 筋電図検査と神経伝導検査が診断の確定に役立ちます。... さらに読む 、 脊髄圧迫 脊髄への血流遮断 脊髄に血液を送る動脈が遮断されると、血液と酸素が脊髄に届かなくなります。すると、脊髄の組織が壊死します(梗塞)。 原因には、重度の動脈硬化、血管の炎症、血栓のほか、ときに腹部大動脈の処置などがあります。 背中に突然の痛みが生じて、痛みが病変部から他の部位に広がり(放散痛)、続いて筋力低下が起こり、病変部では熱さ、冷たさ、痛みが感じられなくなり、ときに麻痺も起こります。 通常はMRI検査または脊髄造影CT検査が行われます。... さらに読む 、 脊髄への血流遮断 脊髄への血流遮断 脊髄に血液を送る動脈が遮断されると、血液と酸素が脊髄に届かなくなります。すると、脊髄の組織が壊死します(梗塞)。 原因には、重度の動脈硬化、血管の炎症、血栓のほか、ときに腹部大動脈の処置などがあります。 背中に突然の痛みが生じて、痛みが病変部から他の部位に広がり(放散痛)、続いて筋力低下が起こり、病変部では熱さ、冷たさ、痛みが感じられなくなり、ときに麻痺も起こります。 通常はMRI検査または脊髄造影CT検査が行われます。... さらに読む など)と区別する必要があります。
まず脊髄のMRI検査が行われます。MRI検査は、脊髄の圧迫など、症状を引き起こしている他の治療可能な原因を否定するのに役立ちます。脊髄炎が重度の場合は、通常、MRI検査で炎症による脊髄の腫れが明らかになります。
原因を探すため、胸部X線検査や血液検査なども行われます。急性横断性脊髄炎を引き起こしうる薬剤の使用についても質問されます。
予後(経過の見通し)
多発性硬化症や全身性エリテマトーデスの人では、ときにこの病気が再発することがあります。原因が特定できない横断性脊髄炎の人の約10~20%は、最終的に多発性硬化症を発症します。
全般的に、症状の進行が速いほど経過の見通しは悪くなります。重度の痛みがある場合は炎症がより重いと考えられます。経過は以下のように均等に分かれます。
約3分の1の人は回復します。
約3分の1の人では、ある程度の筋力低下と排尿障害(尿意切迫感または尿失禁)が続きます。
約3分の1の人はほとんど回復しません。車いすでの生活を余儀なくされるか、寝たきり状態になります。排尿障害や排便障害が残り、日常活動に手助けを必要とします。
治療
原因が特定された場合、その治療
ときにコルチコステロイド
ときに血漿交換
横断性脊髄炎が他の病気によって引き起こされている場合、その病気を治療します。
原因が特定できない場合は、急性横断性脊髄炎に関与していると思われる免疫系を抑制するために、プレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)などのコルチコステロイドが高用量で投与されます。
大量の血漿(血液の液体部分)を取り除き血漿を輸血する治療(血漿交換 血小板献血 通常の 献血と 輸血に加えて、特別な処置が行われることがあります。 血小板献血では、全血ではなく 血小板だけを採取します。供血者から採取した血液を機器で成分毎に分け、血小板だけを選別して、残りの成分は供血者に戻します。血液の大部分が体内に戻るため、全血の場合と比べて、1回に8~10倍の血小板を安全に採取できます。3日毎に1回(ただし、供血は1年に24回まで)と、より頻繁に血小板を採取できます。全血の場合は採血にかかる時間は10分程度です... さらに読む )も行われることがあります。目標は、脊髄を攻撃し損傷を与えるあらゆる抗体を血液から除去することです。
しかし、コルチコステロイドや血漿交換が有用かどうかは分かっていません。
症状に対する治療も行われます。