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ベル麻痺

(顔面神経麻痺)

執筆者:

Michael Rubin

, MDCM, New York Presbyterian Hospital-Cornell Medical Center

レビュー/改訂 2022年 1月
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やさしくわかる病気事典

ベル麻痺(顔面神経麻痺の一種)は、第7脳神経(顔面神経)の機能不全を原因とする、顔の片側の筋肉に起こる突然の筋力低下または麻痺のことです。顔面神経は顔面の筋肉を動かし、唾液腺と涙腺を刺激し、舌の前方3分2の部分で味覚を感じることを可能にし、聴覚に関わる筋肉を制御しています。

  • 原因は、ウイルス感染症または自己免疫疾患によって顔面神経が腫れることです。

  • 最初は耳の後ろに痛みが感じられ、その後、顔の片側に筋力低下または完全な麻痺が生じ、舌の同じ側の前方部分で味が感じられなくなることがあります。

  • 診断は通常、症状に基づいて下されます。

  • コルチコステロイドは神経の腫れを軽減するために使用され、回復と顔面の動きの改善をやや早めます。

  • 治療をしてもしなくても、ほとんどの人は数カ月以内に完全に回復します。

ベル麻痺は、顔面神経麻痺の一種で、もともとは特定できる原因がない病気だと考えられていました(特発性顔面神経麻痺)。しかし現在では、ウイルス感染症などの別の病気によってベル麻痺が起きる可能性があることを示唆した科学的証拠が示されています。

そうした証拠によると、ベル麻痺の一般的な原因として以下のものが考えられます。

その他のウイルス、例えば、 COVID-19 COVID-19 新型コロナウイルス感染症、すなわちCOVID-19(コビット・ナインティーン)は、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)と命名されたコロナウイルスの一種によって引き起こされ、重症化する可能性がある急性呼吸器疾患です。 COVID-19の症状はかなり多彩です。 COVID-19の診断には2種類の検査法が用いられます。... さらに読む の原因ウイルス、コクサッキーウイルス、 サイトメガロウイルス サイトメガロウイルス(CMV)感染症 サイトメガロウイルス感染症はよくみられるヘルペスウイルス感染症で、症状が出ないものから、発熱と疲労感が出るもの(伝染性単核球症に似たもの)、また、眼や脳、その他の内臓を侵す重い症状が生じるものまで、症状は多岐にわたります。 この ウイルスは、体の分泌物と接触(性的接触とそれ以外の接触の両方)することで感染します。 ほとんどの人では何の症状もみられませんが、気分が悪くなって熱が出る場合もあり、免疫機能が低下している人が感染すると、失明など... さらに読む のほか、 流行性耳下腺炎 ムンプス(おたふくかぜ) ムンプスとは、唾液腺が痛んで腫れる、感染力の強い ウイルス感染症です。精巣、脳、膵臓を侵すこともあり、特に成人ではその傾向があります。 ムンプスの原因はウイルスです。 症状としては、悪寒、頭痛、食欲減退、発熱、けん怠感などがあり、その後唾液腺が腫れます。 診断は典型的な症状に基づいて下されます。 たいていの小児は問題なく回復しますが、感染症により髄膜炎や脳炎が起きることもあります。 さらに読む ムンプス(おたふくかぜ) 風疹 風疹 風疹は、典型的には関節痛や発疹などの軽い症状を引き起こす感染力の強いウイルス感染症ですが、妊娠中の母親が風疹に感染すると、新生児に重い先天異常が起きます。 風疹の原因はウイルスです。 典型的な症状としては、リンパ節の腫れ、口蓋(こうがい)に出るバラ色の斑点、特徴的な発疹などがあります。 診断は症状に基づいて下されます。 定期予防接種で予防できます。 さらに読む 風疹 伝染性単核球症 伝染性単核球症 エプスタイン-バーウイルスは、伝染性単核球症をはじめ、いくつかの病気を引き起こします。 この ウイルスはキスを介して広がります。 症状は様々ですが、最も多いのは極度の疲労感、発熱、のどの痛み、リンパ節の腫れです。 血液検査を行って診断を確定します。 アセトアミノフェンや非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は発熱と痛みを和らげます。 さらに読む 伝染性単核球症 、または インフルエンザ インフルエンザ (流感) インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる肺と気道の ウイルス感染症です。感染すると、発熱、鼻水、のどの痛み、せき、頭痛、筋肉痛、全身のだるさ(けん怠感)が生じます。 ウイルスは、感染者のせきやくしゃみで飛散した飛沫を吸い込んだり、感染者の鼻の分泌物に直接触れたりすることで感染します。 まず悪寒が生じ、続いて発熱、筋肉痛、頭痛、のどの痛み、せき、鼻水、全身のだるさが生じます。... さらに読む の原因ウイルスなども、ベル麻痺の原因になることがあります。

感染症にかかると、神経が腫れます。神経が腫れると、神経が通る頭蓋骨の細い通路の壁に押しつけられて圧迫を受けます。

ベル麻痺の症状

ベル麻痺では、最初の症状として耳の後ろに痛みが現れることがあります。顔の筋力が突然(通常は数時間以内に)低下します。筋力低下の程度は軽度のものから完全な麻痺まで様々です。筋力低下は48~72時間後に最もひどくなります。影響を受けるのは顔の片側だけです。

顔面神経麻痺では、顔が平坦になり、表情がなくなります。しかし、顔の片側だけに影響が出る場合、表情を作るたびに、正常な側の筋肉が顔をそちら側に引っぱる傾向があるため、しばしば顔がねじれたように感じられます。額にしわを寄せる、まばたきをする、顔をしかめる、などの動作が困難または不可能になることがあります。たとえ正常な感覚が残っている場合でも、ほとんどの人が顔面にしびれ感や重さを感じます。

筋力低下が起こった側の眼を閉じるのが困難になることがあります。眼を完全に閉じることができなくなり、まばたきの回数が減少することもあります。眼を閉じると眼球が上方に回転する傾向があります。

唾液や涙の分泌が阻害されることもあります。眼や口腔が乾燥したり、よだれが垂れたりすることがあります。涙の分泌量が少なくなり、まばたきの回数が減るため(まばたきは眼の表面にうるおいを与えます)、眼が乾燥して、痛みや損傷が生じます。眼の損傷は通常は軽度ですが、何らかの方法で眼に水分を補給し眼を保護しなければ、重篤な状態になることがあります。

舌の麻痺が生じた側の前方部分で、味が感じられなくなることがあります。麻痺が生じた側の耳では、鼓膜を伸展させる筋肉が麻痺するために、音が異常に大きく聞こえるようになることがあります(聴覚過敏)。この筋肉は内耳の中にあります。

知っていますか?

  • 口唇ヘルペスや帯状疱疹を引き起こすウイルスがベル麻痺の一般的な原因であることを示す科学的証拠があります。

  • ライム病では、顔面神経麻痺が起こることがあります。

ときとして、顔面神経が治癒するときに異常な接続が形成され、そのためいくつかの顔面筋に予想外の動きが現れたり、唾液の分泌中に眼に涙がたまる「ワニの涙」と呼ばれる現象が発生したりします。

顔面神経が長期間使われなくなるため、筋肉の恒久的な硬直(拘縮)が起こることがあります。

ベル麻痺の診断

  • 医師による評価

  • ときに、疑われる原因に応じた様々な検査

顔面神経麻痺は、通常は症状に基づいて診断を下したり他の病気と区別したりすることができます。例えば、脳卒中による筋力の低下は、顔の片側の全体ではなく顔の片側の下側だけに起こるため、顔面神経麻痺と区別できます。脳卒中が起こった場合は、眼を固く閉じることや、眉を寄せることはできます。また、脳卒中では、片側の腕や脚にも筋力低下が起こるのが典型的です。

通常は、顔面神経麻痺の原因としてあまり一般的でない病気(腫瘍、ライム病、その他の感染症、サルコイドーシス、糖尿病、頭蓋骨骨折など)と、ベル麻痺とを区別することもできます。そのようなその他の病気では、一般に異なる症状がみられ、またこれらのうち多くのものでは、症状がよりゆっくりと発生します。そのため、原因がベル麻痺であると断定できない場合や、症状がゆっくりと発生した場合は、検査を行います。具体的な検査としては以下のものがあります。

  • 血液検査

  • X線検査

  • 脳のMRIまたはCT検査

例えば、ライム病などの顔面神経麻痺のその他の原因がないか確認するためには血液検査、サルコイドーシスがないか確認するためには血液検査と胸部X線検査が行われます。医師は通常、患者の症状やこれらの検査結果に基づいて、他の原因の可能性を否定します。

ベル麻痺の予後(経過の見通し)

顔面の麻痺が部分的な場合は、治療の有無にかかわらず、ほとんどの人が数カ月以内に完全に回復します。

ベル麻痺の治療

  • ときにコルチコステロイド

  • 角膜を保護するための点眼薬または眼帯

症状の発生から48時間以内である場合は、神経の腫れを軽減するため、プレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)などのコルチコステロイドを服用します。コルチコステロイドを服用すると、動きの回復がやや速くかつ良好になる可能性があります。

抗ウイルス薬が役立つかどうかは不明で、ベル麻痺の一般的な原因に効果的な抗ウイルス薬(単純ヘルペスウイルスや帯状疱疹の原因ウイルスに使用されるアシクロビル、ファムシクロビル、バラシクロビルなど)でさえ、効果の有無が分かっていません。しかし、ときにコルチコステロイドに加えて抗ウイルス薬が処方されることもあります。この組合せがコルチコステロイド単独より効果的であるかどうかは、明らかにされていません。

眼を完全に閉じられない場合は、眼の損傷のリスクを減らすために眼を乾燥から保護しなければなりません。人工涙液または生理食塩水を含む点眼薬を、眼が完全に閉じられるようになるまで使用し続けます。時間帯を決めて(特に睡眠時)眼帯を装着する必要が生じることもあります。まれに、重症の場合は、上下のまぶたを縫い合わせることがあります。

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