副腎皮質機能低下症は、副腎や下垂体の病気が原因である場合や、特定の薬により引き起こされることがあります。
副腎皮質機能低下症の原因には、自己免疫反応、がん、感染症、その他の病気などがあります。
副腎皮質機能低下症の人は、脱力感や疲労感が生じ、座ったり横になったりした姿勢から立ち上がるとめまいを起こすほか、皮膚の黒ずみがみられる場合もあります。
ナトリウムとカリウムの血中濃度と、コルチゾール値および副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の値の測定によって診断されます。
コルチコステロイドと水分の投与が行われます。
(副腎の概要 副腎の概要 人間の体には2つの副腎があり、それぞれ左右の腎臓の上部に位置しています。これらは 内分泌腺であり、血液中にホルモンを分泌します。それぞれの副腎には以下の2つの部分があります。 髄質:副腎内部は、アドレナリン(エピネフリン)などのホルモンを分泌し、血圧、心拍数、発汗など、交感神経系によっても調節される身体活動の制御に影響を与えます。... さらに読む も参照のこと。)
副腎皮質機能低下症は以下に大別されます。
いずれのタイプの副腎皮質機能低下症においても、1種類または複数種類の副腎ホルモンが副腎で十分につくられません。
副腎ホルモン
副腎の活動が低下すると、コルチコステロイド(特にコルチゾール)や、ミネラルコルチコイド(特に、血圧や体内の塩分[塩化ナトリウム]とカリウムの濃度を制御するアルドステロン)などのすべての副腎ホルモンの生産が不十分になる傾向があります。副腎は、少量のテストステロンやエストロゲン、その他の類似の性ホルモン(デヒドロエピアンドロステロン[DHEA]などのアンドロゲン)の生産も刺激しており、副腎皮質機能不全のある人ではこれらの濃度も減少します。
したがって、副腎ホルモンの不足は体内の 水分 体内の水分について 水分は体重の約半分から3分の2を占めます。脂肪組織は筋組織より水分の割合が少なく、女性は脂肪が多い傾向があるため、平均的な女性で水分が体重に占める割合は男性より低くなります(男性が60%に対して女性は52~55%)。高齢者や肥満の人も水分が体重に占める割合が低く、反対に出生時や乳幼児期では水分が体重に占める割合が高く(70%)なります。... さらに読む や ナトリウム 体内でのナトリウムの役割の概要 ナトリウムは体内の 電解質のうちの1つで、体内で比較的大量に必要とされる ミネラルです。電解質は血液などの体液に溶けると電荷を帯びます。( 電解質の概要も参照のこと。) 体内のナトリウムは、ほとんどが血液中または細胞の周囲の体液中に存在しています。ナトリウムには体液のバランスを正常に保つ働きがあります( 体内の水分についてを参照)。ナトリウムはまた、神経と筋肉が正常に機能するのに重要な役割を果たしています。... さらに読む と カリウム 体内でのカリウムの役割の概要 カリウムは体内に存在する電解質の1つであり、血液などの液体に溶け込むと電荷を帯びる ミネラルです。( 電解質の概要も参照のこと。) 体内のカリウムのほとんどは細胞内に存在しています。 カリウムは、細胞、神経、筋肉が正常に機能するのに必要な物質です。 血液中のカリウム濃度は、狭い範囲内に維持する必要があります。血液中のカリウム濃度が高すぎたり( 高カリウム血症)、低すぎたり( 低カリウム血症)すると、不整脈や心停止などの重大な結果を招くこ... さらに読む のバランス、さらに 血圧のコントロール 体の血圧調節 高血圧とは、動脈内の圧力が恒常的に高くなっている状態のことです。 高血圧の原因は不明のことも多いですが、腎臓の基礎疾患や内分泌疾患によって起こる場合もあります。 肥満、体を動かさない生活習慣、ストレス、喫煙、過度の飲酒、食事での過剰な塩分摂取などはすべて、遺伝的に高血圧になりやすい人の高血圧の発症に何らかの形で関与しています。... さらに読む やストレスへの反応に影響を及ぼすことがあります。また、アンドロゲンの不足によって、女性は体毛がなくなります。男性では、精巣からのテストステロンによってこの不足分が補われます。DHEAにはアンドロゲンに関係のない別の作用もあります。
副腎が感染症やがんで破壊されると、副腎髄質が失われ、アドレナリンをつくることもできなくなります。ただし、このことで症状が起こることはありません。
とりわけアルドステロンが不足すると、大量のナトリウムが排出され、カリウムが保持されるため、血液中の ナトリウム値が低下 低ナトリウム血症(血液中のナトリウム濃度が低いこと) 低ナトリウム血症とは、血液中のナトリウム濃度が非常に低い状態をいいます。 大量の水分摂取、腎不全、心不全、肝硬変、利尿薬の使用など、多くの原因でナトリウム濃度が低下します。 症状は、脳の機能障害によるものです。 まず動作や反応が緩慢になり、錯乱がみられます。低ナトリウム血症が悪化するにつれて、筋肉のひきつりやけいれん発作が発生して無反応状態に進行します。 診断は、ナトリウム濃度を測定する血液検査に基づいて下されます。 さらに読む し、 カリウム値が上昇 高カリウム血症(血液中のカリウム濃度が高いこと) 高カリウム血症とは、血液中のカリウム濃度が非常に高い状態をいいます。 カリウム濃度の上昇には、腎疾患、腎機能に影響する薬剤、カリウムサプリメントの過剰摂取など多くの原因が考えられます。 一般に、不整脈などの症状が現れる頃には、重度の高カリウム血症が起こっているはずです。 高カリウム血症は通常、他の理由で行われた血液検査や心電図検査で発見されます。 カリウムの摂取量を減らす、高カリウム血症を引き起こしうる薬剤の使用を中止する、カリウムの排... さらに読む します。腎臓はナトリウムを容易に保持できるわけではないため、アジソン病の人が大量のナトリウムを失った場合、血液中のナトリウム値が低下し、脱水状態になります。重症の 脱水 脱水 脱水は体内の水分が不足している状態です。 嘔吐、下痢、大量発汗、熱傷(やけど)、腎不全、利尿薬の使用により、脱水になる場合があります。 脱水が進むとのどの渇きを感じ、発汗や排尿も少なくなります。 脱水がひどくなると、錯乱やめまいを感じるようになります。 水を飲むか、場合によっては水分を静脈内投与して、失われた水分と血液中に溶けているナトリウムやカリウムなどの無機塩(電解質)を補給する治療が行われます。 さらに読む とナトリウム低値により血液量が減少し、 ショック ショック ショックとは、臓器に向かう血流が減少することで、酸素の供給量が低下し、それにより臓器不全やときに死にもつながる、生命を脅かす状態です。通常、血圧は低下しています。 ( 低血圧も参照のこと。) ショックの原因には血液量の減少、心臓のポンプ機能の障害、血管の過度の拡張などがあります。 血液量の減少または心臓のポンプ機能の障害によってショックが起きると、脱力感、眠気、錯乱が生じ、皮膚が冷たく湿っぽくなり、皮膚の色が青白くなります。... さらに読む に至る可能性があります。
コルチコステロイドが不足すると、インスリンへの感受性が極めて高くなり、血糖値は危険な値まで低下することがあります(低血糖 低血糖 低血糖とは、血液中のブドウ糖の値(血糖値)が異常に低くなっている状態です。 低血糖は、糖尿病を管理するために服用する薬によるものが最も多くみられます。低血糖のまれな原因としては、他の種類の薬、深刻な病態や臓器不全、炭水化物に対する反応(感受性の高い人において)、膵臓のインスリン産生腫瘍、一部の肥満外科手術(減量のための手術)などがあります。 血糖値が下がると、空腹、発汗、ふるえ、疲労、脱力感、思考力の低下といった症状が生じますが、重度の... さらに読む )。また、細胞が機能するために必要な炭水化物や、感染を適切に防御し炎症を制御するためのタンパク質をつくることができなくなります。筋力は衰え、心臓が弱くなって十分な血液を送ることができなくなります。さらに、血圧は危険なまでに低くなります。
副腎皮質機能低下症の人は、体がストレスを受けたときに必要となるコルチコステロイドを追加でつくれません。そのため、病気、極度の疲労、ひどいけが、手術、重い精神的ストレスに直面したとき、深刻な症状や合併症が起こりやすくなります。
原発性副腎皮質機能低下症(アジソン病)
アジソン病はあらゆる年齢層の人に、また男女いずれにも同じように発生します。
アジソン病の70%では正確な原因が不明であるものの、体の免疫系が副腎皮質(副腎の外側の部分で、様々なホルモンを産生する内側の部分である副腎髄質とは区別される)を攻撃し破壊する 自己免疫反応 自己免疫疾患 自己免疫疾患とは免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気です。 自己免疫疾患の原因は不明です。 症状は、自己免疫疾患の種類および体の中で攻撃を受ける部位によって異なります。 自己免疫疾患を調べるために、しばしばいくつかの血液検査が行われます。 治療法は自己免疫疾患の種類によって異なりますが、免疫機能を抑制する薬がしばしば使用されます。 さらに読む の影響を受けています。
残りの30%はがん、結核などの感染症、他の不明な病気によって副腎が破壊されたことが原因です。乳児や小児の場合は副腎の遺伝子の異常が原因です(先天性副腎過形成症 先天性副腎過形成症 性器の先天異常は、男児では陰茎、陰嚢、精巣、女児では腟と陰唇に生じます。ときとして、性器が女性のものか男性のものかがはっきりしない性別不明性器であることがあります。 性器の異常の原因としては、胎児の発育中に性ホルモンの濃度が異常であったこと、染色体の異常、環境的な要因、遺伝的な要因があります。 外性器が男性か女性かはっきりしない場合があり(性別不明性器)、このような状態は先天性副腎過形成症の女児で最もよくみられます。... さらに読む を参照)。
アジソン病では 下垂体 下垂体の概要 下垂体はエンドウマメ大の腺で、脳基底部の骨でできた構造(トルコ鞍[あん])の内部に収まっています。トルコ鞍は下垂体を保護していて、下垂体が大きくなる余地はほとんどありません。 下垂体は他の多くの内分泌腺の働きを制御しているため、内分泌中枢とも呼ばれます。また、下垂体は脳内でそのすぐ上に位置している視床下部に大部分を制御されています。視床下... さらに読む が副腎を刺激しようとして、さらに副腎皮質刺激ホルモン(ACTH、コルチコトロピンとも呼ばれます)を生産します。ACTHはメラニンの生産も刺激するため、しばしば皮膚と口内の粘膜に濃い色素沈着を起こします。
二次性副腎皮質機能低下症
二次性副腎皮質機能低下症はアジソン病に似た病気です。この病気は、 下垂体 下垂体の概要 下垂体はエンドウマメ大の腺で、脳基底部の骨でできた構造(トルコ鞍[あん])の内部に収まっています。トルコ鞍は下垂体を保護していて、下垂体が大きくなる余地はほとんどありません。 下垂体は他の多くの内分泌腺の働きを制御しているため、内分泌中枢とも呼ばれます。また、下垂体は脳内でそのすぐ上に位置している視床下部に大部分を制御されています。視床下... さらに読む でACTHが十分につくられないために副腎の機能が低下するもので、副腎が破壊されたり、直接機能が失われているわけではありません。ACTHの不足は、副腎からのアルドステロンの分泌よりもコルチゾールの分泌に大きく影響します。
腫瘍、感染症、または損傷などが原因で、下垂体によりACTHが十分に作られなくなることがあります。また、コルチコステロイドを数週間以上服用すると、下垂体によりACTHが十分に作られなくなるために副腎が十分に刺激されなくなります。
二次性副腎皮質機能低下症の症状はアジソン病に似ていますが、皮膚の黒ずみがみられず、脱水が通常は起こらないという点で異なっています。二次性副腎皮質機能低下症は血液検査によって診断されます。アジソン病とは異なり、二次性副腎皮質機能低下症ではナトリウム値およびカリウム値はほぼ正常に近く、ACTH値は低い傾向があります。二次性副腎皮質機能低下症は、ヒドロコルチゾンやプレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)などの合成コルチコステロイドで治療を行います。
副腎皮質機能低下症の症状
副腎皮質機能低下症の人は、脱力感や疲労感を経験し、座った姿勢や横になった状態から立ち上がるとめまいを感じます。これらの症状は、徐々に、知らぬ間に進行することがあります。アジソン病では皮膚に黒ずんだ斑点が現れ、日焼けのようにみえますが、日光にさらされていない部分にも現れます。皮膚の色が濃い人では変化が分かりにくいものの、やはり過剰な色素沈着が起きます。黒い斑点は額、顔、肩に現れ、青みがかった黒い斑点は乳首、唇、口、直腸、陰嚢(いんのう)、あるいは腟の周囲に現れることがあります。通常、皮膚の黒ずみは二次性副腎皮質機能低下症の患者ではみられません。
多くの人に、体重減少、脱水、食欲減退、筋肉痛、吐き気、嘔吐、下痢の症状が生じ、寒さに耐えられなくなります。病気が重症でない場合は、ストレスのある間だけ、症状がはっきり現れる傾向があります。低血糖になり、神経過敏や塩辛い食べものに対する強い欲求が発生する時期がありますが、この傾向は特に小児でよくみられます。
副腎クリーゼ
副腎皮質機能低下症を治療しないでおくと、副腎クリーゼに陥る可能性があります。重度の腹痛、強い脱力感、極度の低血圧、腎不全、ショックが起こります。副腎クリーゼは、事故、けが、手術、重症の感染症などで体がストレスにさらされると、しばしば発生します。副腎クリーゼを治療しなければ、短時間のうちに死に至ることがあります。
副腎皮質機能低下症の診断
血液検査
軽微な症状が徐々に現れ、初期段階では単独の臨床検査で確定されないため、初めから副腎皮質機能低下症が疑われることはほとんどありません。大きなストレスがきっかけで急に症状がはっきりと現れ、クリーゼ(症状が急速に悪化する危険な状態)に陥ることもあります。
血液検査でナトリウム値が低くカリウム値が高ければ、腎臓の働きが悪いことを示しています。副腎皮質機能低下症が疑われる場合は、コルチゾール値(低いことがあります)とACTH値を測定します。ACTH値は原発性副腎皮質機能低下症では高く、二次性副腎皮質機能低下症では低い傾向がみられます。ただし、診断を確定するには、合成ACTHを注射してその前後にコルチゾール値を測定する必要がある場合もあります。コルチゾール値が低い場合、原因がアジソン病か二次性副腎皮質機能低下症か、それとも別の病気であるかどうかを判別するには、さらに検査が必要です。
副腎皮質機能低下症の治療
コルチコステロイド
原因が何であれ、副腎皮質機能低下症は生命を脅かす病気ですから、コルチコステロイドと輸液で治療しなければなりません。一般的な治療はヒドロコルチゾン(コルチゾールを製剤化したもの)かプレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)(合成コルチコステロイド)の内服から始めます。しかし、重症の場合は、まず静脈内注射か筋肉内注射でヒドロコルチゾンが投与され、次にヒドロコルチゾンの錠剤を服用することになります。体が正常ならばコルチゾールの生産は朝が最も多いため、ヒドロコルチゾンの補充量は朝に最大になるように、1日分を分割して服用すべきです。生涯にわたって、ヒドロコルチゾンを毎日服用することが必要です。体がストレス下にあるとき、特に病気にかかったときは、ヒドロコルチゾンの必要量が増え、重症の下痢や嘔吐がある場合は、注射による投与が必要になることもあります。
原発性副腎皮質機能低下症の人でナトリウムとカリウムの正常な排泄を回復させるためには、ほとんどの場合、フルドロコルチゾンの錠剤を毎日服用することも必要になります。テストステロンの補充は必要ありませんが、一部の人ではDHEAの補充により生活の質(QOL)が改善されることを示す科学的証拠があります。治療は一生続けなければなりませんが、経過の見通しは極めて良好です。
副腎皮質機能低下症の人は、具合が悪くなり情報を伝えられなくなったときに備えて、この病気であることと、薬の種類や用量の一覧を記したカードを所持するか、同様の機能をもつブレスレットやネックレスを身につけておく必要があります。また、緊急時に使用するために、ヒドロコルチゾンの注射も携帯する必要があります。