多くの病気で血液中のリンパ球数の減少がみられることがありますが、最も多いのはウイルス感染(エイズなど)や低栄養です。
症状がまったくみられない人もいれば、発熱などの感染症状がみられる人もいます。
血液サンプルを採取して、リンパ球減少症の診断を下しますが、その原因を確定するには骨髄やリンパ節のサンプルが必要になる場合もあります。
リンパ球減少症の原因になる病気を治療します。
ガンマグロブリンを投与することもあり、幹細胞移植で効果が得られる場合もあります。
リンパ球 リンパ球 体の防衛線( 免疫系)の一部には 白血球が関わっていて、それらの白血球は血流に乗って体内を移動して組織の中に入り込み、微生物などの異物を見つけ出して攻撃します。( 免疫系の概要も参照のこと。) この防衛線は以下の2つの部分で構成されています。 自然免疫 獲得免疫 獲得免疫(適応または特異免疫)は、生まれたときには備わっておらず、後天的に獲得されるものです。獲得のプロセスは、免疫系が異物に遭遇して、非自己の物質(抗原)であることを認識した... さらに読む は白血球の一種で、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫に対する防御など、免疫系でいくつかの役割を果たしています。リンパ球は血液中にある全白血球の20~40%を占めています。リンパ球数の正常値は、成人で血液1マイクロリットル当たり1500個(1リットル当たり1.5 × 109個)以上、小児で血液1マイクロリットル当たり3000個(1リットル当たり3 × 109個)以上です。リンパ球数が減少しても、白血球の総数が検出できるほど低下しないことがあります。
リンパ球の種類
リンパ球には以下の3種類があります。
Bリンパ球(B細胞)
Tリンパ球(T細胞)
ナチュラルキラー細胞(NK細胞)
3種類のリンパ球には、いずれも 免疫系 免疫系の構成要素 人間の体には、異物や危険な侵入物から体を守る仕組みとして、免疫系が備わっています。侵入物としては以下のものがあります。 微生物( 細菌、 ウイルス、 真菌など) 寄生虫(蠕虫[ぜんちゅう]など) がん細胞 移植された臓器や組織 さらに読む で重要な機能があります。B細胞が少なすぎると、抗体を生産する形質細胞が減少します。抗体の生産が減少すると、細菌に感染しやすくなります。
T細胞またはナチュラルキラー細胞が少なすぎると、特定の感染(特にウイルス、真菌、寄生虫)を制御しにくくなります。重度のリンパ球減少症があると感染を制御できなくなり、死に至ることがあります。
リンパ球減少症の原因
エイズの原因ウイルスである ヒト免疫不全ウイルス ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症とは、ある種の白血球を次第に破壊し、後天性免疫不全症候群(エイズ)を引き起こすことのあるウイルス感染症です。 HIVは、ウイルスやウイルスに感染した細胞を含む体液(血液、精液、腟分泌液)と濃厚に接触することで感染します。 HIVはある種の白血球を破壊し、感染症やがんに対する体の防御機能を低下させます。... さらに読む (HIV)や インフルエンザウイルス インフルエンザ (流感) インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる肺と気道の ウイルス感染症です。感染すると、発熱、鼻水、のどの痛み、せき、頭痛、筋肉痛、全身のだるさ(けん怠感)が生じます。 ウイルスは、感染者のせきやくしゃみで飛散した飛沫を吸い込んだり、感染者の鼻の分泌物に直接触れたりすることで感染します。 まず悪寒が生じ、続いて発熱、筋肉痛、頭痛、のどの痛み、せき、鼻水、全身のだるさが生じます。... さらに読む 、 SARSコロナウイルス2 COVID-19 新型コロナウイルス感染症、すなわちCOVID-19(コビット・ナインティーン)は、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)と命名されたコロナウイルスの一種によって引き起こされ、重症化する可能性がある急性呼吸器疾患です。 COVID-19の症状はかなり多彩です。 COVID-19の診断には2種類の検査法が用いられます。... さらに読む によるウイルス感染症など、様々な病気や病態が血液中のリンパ球の数を減少させる可能性があります。リンパ球減少症は以下の経過を示すことがあります。
急性:特定の病気で短期間に発生し、通常はその後回復
慢性:長く続く病気であるため、長期間にわたり持続
急性リンパ球減少症の原因
以下の場合にリンパ球の数が一時的に低下することがあります。
特定のウイルス感染(インフルエンザ インフルエンザ (流感) インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる肺と気道の ウイルス感染症です。感染すると、発熱、鼻水、のどの痛み、せき、頭痛、筋肉痛、全身のだるさ(けん怠感)が生じます。 ウイルスは、感染者のせきやくしゃみで飛散した飛沫を吸い込んだり、感染者の鼻の分泌物に直接触れたりすることで感染します。 まず悪寒が生じ、続いて発熱、筋肉痛、頭痛、のどの痛み、せき、鼻水、全身のだるさが生じます。... さらに読む や 肝炎 急性ウイルス性肝炎の概要 急性ウイルス性肝炎は、肝臓の炎症で、一般的には5種類の肝炎ウイルスのいずれかの感染によって起こる炎症を意味します。多くの場合、炎症は突然始まり数週間続きます。 症状は、何もみられない場合から重症の場合まであります。 感染すると、食欲不振、吐き気、嘔吐、発熱、右上腹部の痛み、黄疸などの症状がみられます。 医師は、肝炎の診断を下しその原因を特定するための血液検査を行います。 ワクチンはA型、B型、E型の肝炎を予防できます(E型肝炎ワクチンは... さらに読む 、 COVID-19 COVID-19 新型コロナウイルス感染症、すなわちCOVID-19(コビット・ナインティーン)は、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)と命名されたコロナウイルスの一種によって引き起こされ、重症化する可能性がある急性呼吸器疾患です。 COVID-19の症状はかなり多彩です。 COVID-19の診断には2種類の検査法が用いられます。... さらに読む など)
空腹時
重度の肉体的ストレスを受けているとき
コルチコステロイド(プレドニゾン[日本ではプレドニゾロン]など)の使用時
がんに対する化学療法や放射線療法
慢性リンパ球減少症の原因
以下の場合にリンパ球の数が少ない状態が長期にわたり続くことがあります。
全身性エリテマトーデス 全身性エリテマトーデス(SLE) 全身性エリテマトーデスは、関節、腎臓、皮膚、粘膜、血管の壁に起こる慢性かつ 炎症性の自己免疫結合組織疾患です。 関節、神経系、血液、皮膚、腎臓、消化管、肺、その他の組織や臓器に問題が発生します。 診断を下すため、血液検査のほか、ときにその他の検査を行います。 全身性エリテマトーデスの全患者でヒドロキシクロロキンが必要であり、損傷を引き起こし続けている全身性エリテマトーデス(活動性の全身性エリテマトーデス)の患者には、コルチコステロイドな... さらに読む 、 関節リウマチ 関節リウマチ(RA) 関節リウマチは炎症性関節炎の1つで、関節(普通は手足の関節を含む)が炎症を起こし、その結果、関節に腫れと痛みが生じ、しばしば関節が破壊されます。 免疫の働きによって、関節と結合組織に損傷が生じます。 関節(典型的には腕や脚の小さな関節)が痛くなり、起床時やしばらく動かずにいた後に、60分以上持続するこわばりがみられます。 発熱、筋力低下、他の臓器の損傷が起こることもあります。... さらに読む 、 重症筋無力症 重症筋無力症 重症筋無力症は、神経と筋肉の間の信号伝達が妨げられる自己免疫疾患で、筋力低下の発作を引き起こします。 重症筋無力症は免疫系の機能不全の結果として起こります。 通常は、まぶたの下垂と複視が起こるほか、筋肉を使うと、その筋肉に異常な疲労が起こり、休ませると回復します。 診断を確定するためには、アイスパックや安静によってまぶたの下垂が軽減するかをみる検査、筋電図検査、血液検査が役立ちます。... さらに読む などの特定の自己免疫疾患
エイズ ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症とは、ある種の白血球を次第に破壊し、後天性免疫不全症候群(エイズ)を引き起こすことのあるウイルス感染症です。 HIVは、ウイルスやウイルスに感染した細胞を含む体液(血液、精液、腟分泌液)と濃厚に接触することで感染します。 HIVはある種の白血球を破壊し、感染症やがんに対する体の防御機能を低下させます。... さらに読む や 粟粒結核 粟粒結核 粟粒結核は、生命を脅かすことのあるタイプの結核で、大量の結核菌が血流を介して全身に広がって起こります。 結核は、空気感染する細菌である結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる感染症です。 通常、結核は肺の1カ所または数カ所を侵します。粟粒結核という名称は、肺内にできるおびただしい数の小さな病巣が、鳥の餌に含まれる小さな丸い粟(あわ)程度の大きさであることに由来します。... さらに読む などの特定の慢性感染症
白血病 白血病の概要 白血病は、白血球または成熟して白血球になる細胞のがんです。 白血球は骨髄の幹細胞から成長した細胞です。ときには成長がうまくいかずに、染色体の一部の並びが変化してしまうことがあります。こうして異常となった染色体により正常な細胞分裂の制御が失われ、この染色体異常がある細胞が無制限に増殖するようになったり、細胞がアポトーシス(不要になった細胞が... さらに読む や リンパ腫 リンパ腫の概要 リンパ腫とは、リンパ系および造血器官に存在するリンパ球のがんです。 リンパ腫は、 リンパ球と呼ばれる特定の白血球から発生するがんです。この種の細胞は感染を防ぐ役割を担っています。リンパ腫は、主要な白血球であるBリンパ球およびTリンパ球のいずれの細胞からも発生する可能性があります。Tリンパ球は免疫系の調節やウイルス感染に対する防御に重要です... さらに読む などの特定のがん
ディジョージ症候群 ディジョージ症候群 ディジョージ症候群は、出生時に胸腺がまったくないか、あっても未発達となる先天性の免疫不全疾患の一つで、 T細胞(白血球の一種で異物や異常細胞を識別し、破壊するのを助ける)に問題が生じます。その他の先天異常もみられます。 ディジョージ症候群の小児には、心臓の異常、副甲状腺未発達または欠如、胸腺の未発達または欠如、特徴的な顔つきなど、いくつかの異常が生まれつきみられます。 T細胞に問題が生じることで感染症が繰り返し起こります。... さらに読む 、 ウィスコット-アルドリッチ症候群 ウィスコット-アルドリッチ症候群 ウィスコット-アルドリッチ症候群は、抗体(免疫グロブリン)の生産異常とT細胞(Tリンパ球)の機能不全、血小板数の減少、湿疹などを特徴とする遺伝性の免疫不全疾患です。 ウィスコット-アルドリッチ症候群の患者は出血しやすく、通常は血性下痢が最初の症状です。 診断は、血液検査の結果のほか、ときに遺伝子検査の結果に基づいて下されます。 生存のためには幹細胞移植が必要です。 ( 免疫不全疾患の概要も参照のこと。) さらに読む 、 重症複合免疫不全症 重症複合免疫不全症(SCID) 重症複合免疫不全症は、 原発性免疫不全症の一種で、抗体(免疫グロブリン)の量が少なくなり、T細胞(Tリンパ球)が少なくなったり完全になくなったりします。 この病気にかかった乳児のほとんどは、通常生後6カ月までに肺炎、持続性ウイルス感染症、鵞口瘡(がこうそう)、下痢を発症します。 血液中の B細胞と T細胞の数、ならびに免疫グロブリンの量を測定し、B細胞とT細胞がどの程度機能しているか調べる検査を行うことで、診断を下します。... さらに読む 、 毛細血管拡張性運動失調症 毛細血管拡張性運動失調症 毛細血管拡張性運動失調症は遺伝性疾患で、協調運動障害と毛細血管拡張、および感染症にかかりやすくなる免疫不全を特徴とします。 毛細血管拡張性運動失調症がある小児では、通常は歩き始めの頃に協調運動障害が発生し、筋力が徐々に低下して、重い身体障害が生じます。 診断には血液検査を行います。 治療には抗菌薬(感染症予防のため)と免疫グロブリン製剤が用いられます。 ( 免疫不全疾患の概要も参照のこと。) さらに読む などの特定の 先天性免疫不全症 免疫不全疾患の概要 免疫不全疾患では、免疫系が正常に働かないことにより、通常に比べて感染症を頻繁に発症したり、繰り返したり、感染症が重症化したり、長引いたりします。 免疫不全疾患は通常、薬の使用や、がんなどの長期間に及ぶ重篤な病気が原因で発症しますが、遺伝性の場合もあります。 この病気になると感染症を繰り返すだけでなく、普通の人がかからないような感染症が起き... さらに読む では、リンパ球の数が非常に少ない状態が恒久的に持続することがあります。
リンパ球減少症の症状
軽度のリンパ球減少症では、症状がみられないことがあります。ときには、リンパ球減少症の原因になっている病気の症状が現れることがあります。例えば、以下の場合があります。
がんやHIV感染が疑われるリンパ節腫大や脾腫
呼吸器ウイルス感染が疑われるせき、鼻汁、発熱
遺伝性の免疫系の病気が疑われる扁桃やリンパ節の縮小
関節リウマチや全身性エリテマトーデスが疑われる痛みを伴う関節腫脹や発疹
リンパ球の数が急激に減少すると、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫による感染を繰り返し、これらによる感染の症状が現れますが、症状は感染部位や特定の微生物によって大幅に異なります。
リンパ球減少症の診断
血算
軽度のリンパ球減少症は、他の理由で血算を行ったときに偶然発見されるのが普通です。感染を繰り返したり、感染が重度であったりした場合や通常は感染を起こさない細菌による感染の場合も、血算を行います。このような検査によって、感染を繰り返したり、異常な感染がみられたりする原因の説明として、重度のリンパ球減少症が明らかになることがあります。
リンパ球の数が急激に減少した場合、通常は血液検査を行ってヒト免疫不全ウイルス(HIV)やその他の感染について調べ、ときには骨髄組織を採取して顕微鏡で観察します(骨髄検査 骨髄検査 赤血球、ほとんどの 白血球、 血小板は、骨髄という骨の中にある脂肪に富んだ柔らかい組織でつくられます。場合によっては、血球が異常となった原因や、特定の種類の血球が少なすぎたり、多すぎたりする原因を特定するために、骨髄サンプルを調べなければならないことがあります。骨髄サンプルを採取するには、次の2つの方法を用いることができます。 骨髄穿刺(こつずいせんし):骨髄に針を刺して骨髄液と細胞を吸引することによって、骨髄液と細胞を採取する方法... さらに読む )。
血液中の特定の種類のリンパ球(T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞)の数を測定することもあります。特定の種類のリンパ球が減少している場合は、エイズや特定の先天性免疫不全症のような病気を診断する手がかりになることもあります。
リンパ球減少症の治療
原因の治療
リンパ球減少症の治療法は、主に原因に基づいて決定されます。薬が原因のリンパ球減少症は、その薬の使用を中止すれば、普通は数日間で治ります。リンパ球減少症の原因がエイズの場合は、少なくとも3種類の抗ウイルス薬を組み合わせて使用することにより、T細胞の数を増加させて、生存期間を延長させることが可能です。
ガンマグロブリン製剤(抗体を豊富に含む製剤)は、B細胞が少なすぎる(そのため、つくられる抗体が欠乏している)場合に感染予防として投与されることがあります。
先天性免疫不全症では、 幹細胞移植 造血幹細胞移植 造血幹細胞移植とは、健康な人から幹細胞(未分化細胞)を採取し、重篤な血液疾患がある人にそれを注射することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 幹細胞は未分化の細胞で、分裂しながら、より分化した他の細胞に変わっていきます。幹細胞は以下のものから採取することができます。 静脈からの採血 骨髄(骨髄移植) さらに読む が有益である場合があります。
感染を起こした場合は、その感染性微生物を対象とした特定の抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗寄生虫薬が投与されます。