眼球が前に飛び出したり押し出されたりすることを、眼球突出と呼びます。 眼球突出という言葉は、甲状腺の活動が過剰になった状態(甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症は甲状腺が働きすぎている状態で、甲状腺ホルモンの値が高く、身体の重要な機能が働く速度が上昇します。 バセドウ病は甲状腺機能亢進症の原因として最もよくみられます。 心拍数と血圧の上昇、不整脈、過剰な発汗、神経質や不安、睡眠障害、意図しない体重減少、排便回数の増加などの症状がみられます。 診断は血液検査により確定されます。 甲状腺機能亢進症の管理には、チアマゾールまたはプロピルチオウラシルが用いられます。 さらに読む )を引き起こすバセドウ病によって、眼球が前方に飛び出した状態を指して用いられるのが通常です。眼球の突出は、眼が大きいことではありません。 クッシング病 クッシング症候群 クッシング症候群は、コルチコステロイドが過剰な状態であり、通常はコルチコステロイドの使用または副腎による過剰生産によるものです。 通常、クッシング症候群の原因は、ある病気の治療のためのコルチコステロイドの使用、または副腎でのコルチコステロイドの過剰生産を引き起こす下垂体や副腎の腫瘍です。 クッシング症候群はまた、その他の部位(肺など)に腫瘍がある場合に起こることもあります。 クッシング症候群の人は、体幹の周りに過剰な脂肪がつき、顔が丸く... さらに読む や重度の肥満などは、顔貌や眼の外観を変えることがありますが、真の眼球の突出が起こることはありません。
眼球の突出が、他の症状を引き起こすこともあります。眼球が突出していると、まぶたをしっかり閉じることができないため、眼が乾き、刺激されます(その結果、涙目になります)。また、まばたきの回数が少なくなり、凝視しているかのように見えることがあります。眼球の突出の原因に応じて、複視または物に焦点を合わせられないなどの他の症状がみられる場合もあります。眼球の突出が長引くと、視神経が引き伸ばされ、視覚が障害されることがあります。眼球の突出の原因疾患が、視神経を圧迫することもあり、その結果視覚が障害されることもあります。
原因
あまり一般的ではない原因として、腫瘍、出血、感染症(成人の場合)のほか、まれに感染症を伴わない眼窩(がんか)内の構造物の炎症(眼窩偽腫瘍 眼窩の炎症 全身の炎症性疾患または眼窩(がんか)だけを侵す炎症性疾患が原因で、眼窩内の一部またはすべての構造物に炎症が現れることがあります。 ( 眼窩の病気に関する序も参照のこと。) この病気はどの年齢層にも起こりえます。炎症は、短期間で治まることもあれば、長期間続いたり、感染が原因である場合もあれば、そうでない場合もあったり、再発したりすることもあります。 眼窩の炎症は全身の炎症性疾患から生じることがあります。ときに、眼窩だけに炎症が起こることも... さらに読む )などがあります。生まれつき緑内障がある場合は(原発性乳児緑内障 原発性乳児緑内障 原発性乳児緑内障(primary infantile glaucoma)は、眼内の液体が眼の前方の区画からきちんと排出されない、まれな先天異常です。このため、眼の内部の圧が上昇し、これを放置すると、視神経が損傷されて完全な失明に至ることがあります。 (成人における 緑内障も参照のこと。) 正常であれば、眼に栄養を与えている房水は、虹彩の裏側にある毛様体(後房内)でつくられ、瞳孔を通って眼の前方(前房)に流れていき、虹彩と角膜の間の排出管... さらに読む )、眼が大きくなるため、眼が前に押し出されているかのように見えることがあります。
評価
以下では、どのようなときに医師の診察を受ける必要があるかと、診察を受けた場合に何が行われるかについて説明しています。
警戒すべき徴候
眼球の突出がみられる場合は、特定の症状や特徴に注意が必要です。具体的には以下のものがあります。
視力障害または視力の低下
複視
眼痛または眼の発赤
頭痛
発熱
突出した眼球の拍動
新生児や小児における眼球の突出
受診のタイミング
警戒すべき徴候がみられる人や、数日以内に眼球突出が現れた人は、直ちに医師の診察を受ける必要があります。警戒すべき徴候がみられない人は、受診できるときに受診するべきですが、1週間程度の遅れが問題になることはありません。
医師が行うこと
医師はまず、症状と病歴について質問します。次に身体診察を行います。病歴聴取と身体診察で得られた情報から、多くの場合、眼球の突出の原因と必要になる検査を推測することができます(表「 眼球の突出の主な原因と特徴 眼球の突出の主な原因と特徴 」を参照)。
医師は以下のことを質問します。
眼球の突出はいつからありますか
両眼が突出していますか
突出が悪化していると思いますか
他の眼の症状、例えば、乾燥、涙の分泌の増加、複視、視力障害、刺激感、痛みなどはありませんか
甲状腺機能亢進症の症状、例えば、暑さに耐えられない、発汗の増加、不随意な振戦(ふるえ)、不安、食欲亢進、下痢、動悸、体重減少などはありませんか
急速に(数日以内に)現れた眼球の突出では、数年かけて現れた眼球突出と別の原因が疑われます。片眼に急速に現れた眼球の突出では、眼窩の出血が疑われます。眼窩の出血は、眼の手術またはけが、眼窩の感染または炎症の後などに発生します。ゆっくり現れる眼球の突出では、(両眼に現れた場合) バセドウ病 原因 または(片眼のみの場合)腫瘍が疑われます。
身体診察では、眼の診察に重点が置かれます。 医師は、 細隙灯(さいげきとう)顕微鏡 細隙灯とは (拡大鏡下に眼を診察できる器具、)を使って、眼が赤くなっていないか、ただれや炎症がないかを観察します。患者が下を見たときに、まぶたが眼球と同じ速さで動くかどうか、凝視があるかどうかも確認します。まぶたの動きが遅く、凝視があれば、バセドウ病が疑われます。
医師はまた、甲状腺機能亢進症を示すその他の徴候、例えば、心拍数または血圧の上昇、振戦、首にある甲状腺の腫脹または圧痛などがないかも確認します。
検査
医師(通常は眼科医)は、器具を用いて眼球がどの程度突出しているかを測定することがあります(眼球突出度測定)。片眼のみが突出している場合は、しばしばMRIまたはCT検査が行われます。バセドウ病が疑われる場合は、血液検査を行い、甲状腺の機能を測定します。
治療
眼球が突出しているために重度の ドライアイ ドライアイ 眼の外観の変化、色覚異常、ドライアイ、グレアやハロ、奥行き感覚(深径覚)の異常、眼のかゆみ、光過敏症、夜盲症など、いくつかの他の症状や問題が眼に影響を及ぼすことがあります。 奥行き感覚とは、空間内で物の相対的な位置関係を判定する能力のことです。奥行き感覚が損なわれると、2つの物体のうちどちらが自分に近い位置にあるのかが分かりにくくなります。 網膜は、眼の奥にある光を感じる構造物です。カメラのフィルムのような2次元面であり、2次元の像のみ... さらに読む をきたしている場合は、角膜(虹彩と瞳孔の前にある透明な層)を保護するために人工涙液を配合した潤滑剤が必要な場合があります。ときに潤滑剤でも不十分な場合は、眼をよりしっかり覆うため、または眼球の突出を軽減するための手術が必要になることがあります。
このほかの治療は、眼球が突出する原因によって決まります。例えば、感染症には抗菌薬が投与されます。バセドウ病による眼球の突出は、甲状腺の異常に対する治療で改善しませんが、時間の経過とともに軽減していく可能性があります。バセドウ病または眼窩偽腫瘍による腫れを抑えるために、コルチコステロイド(プレドニゾン[日本ではプレドニゾロン]など)が役立つことがあります。腫瘍は外科的に切除しなければなりません。
要点
成人において、眼球が突出する最も一般的な原因はバセドウ病です。
頭痛、発熱、眼痛、または視力の変化がある人は、直ちに医師の診察を受ける必要があります。
片眼のみの突出は、両眼の突出に比べてバセドウ病の懸念が強くなります。