脳腫瘍(成人の脳腫瘍 脳腫瘍の概要 脳腫瘍は脳内で増殖する組織で、がんの場合(悪性)と、がんでない場合(良性)があります。脳内で発生するものと、体の別の部位から脳に転移してきたものとがあります。 症状としては、頭痛、人格の変化(抑うつ、不安、自制がきかなくなるなど)、脱力、異常感覚、平衡感覚の消失、集中力の低下、けいれん発作、協調運動障害などがみられます。 脳腫瘍は画像検査で発見できますが、しばしば確認のために腫瘍の生検が必要になります。... さらに読む も参照)は、15歳未満の 小児のがん 小児がんの概要 小児におけるがんはまれです。2021年の米国では、0~14歳の小児10,500人ががんと診断され、1100人強の小児ががんにより死亡すると推定されています。また、15~19歳の青年5100人ががんと診断され、約600人ががんにより死亡すると推定されています。これに対し成人では、190万人ががんと診断され、約608... さらに読む の中で(白血病の次に)多くみられるがんであり、がんによる死亡の2番目に多い原因です。
小児で最も多くみられる脳腫瘍は 星細胞腫 星細胞腫 星細胞腫は、脳(または脊髄)が機能する中で神経細胞を補助している星形の細胞(星細胞)から発生する、脳および脊髄の腫瘍です。星細胞腫は悪性(がん)である場合もあれば、そうでない場合もあります。 星細胞腫の原因は不明です。 歩行困難、脱力、視覚変化、嘔吐、頭痛がみられることがあります。 通常、診断の際には画像検査と生検が行われます。 治療の選択肢には、手術、化学療法、放射線療法があります。 さらに読む です。次いで多いのが 髄芽腫 髄芽腫 髄芽腫は、小脳(協調運動や平衡感覚を制御する脳の部分)に発生する増殖の速い脳腫瘍です。 髄芽腫の原因は不明です。 頻繁な嘔吐、平衡障害、頭痛、吐き気、嗜眠、複視などがみられることがあります。 診断の際には画像検査、生検、腰椎穿刺が通常行われます。 予後(経過の見通し)は、がんが平均リスクか高リスクかで異なります。 さらに読む と 上衣腫 上衣腫 上衣腫は、脳内にある空間(脳室)の内面を覆っている細胞から発生する腫瘍で、腫瘍の増殖はゆっくりとしています。 上衣腫の原因は不明です。 主な症状は、嘔吐、ぼんやりする、平衡障害です。 診断は画像検査と生検によって下されます。 予後(経過の見通し)は、小児の年齢と、がんがどの程度除去できたかによります。 さらに読む です。
脳腫瘍により、頭痛、吐き気、嘔吐、視覚障害、ぼんやりする、協調運動障害、平衡障害などの様々な症状が生じます。
診断は通常、MRI検査と生検の結果に基づいて下されます。
治療としては、手術、放射線療法、化学療法、またはこれらが組み合わせて行われます。
通常、大半の脳腫瘍の原因は不明です。しかし、高い線量の 放射線 放射線とがん 放射線障害とは、電離放射線の被曝により生じた組織の損傷です。 電離放射線の大量照射は、血球の生産量を減らし、消化管に損傷を与えることによって急性疾患を引き起こします。 電離放射線のさらに大量の照射は、心臓と血管(心血管系)、脳、皮膚にも損傷を与えます。 大量、またはさらに大量の放射線被曝による放射線障害は、組織反応と呼ばれます。どのくらい... さらに読む や特定の遺伝性疾患(例えば、 神経線維腫症 神経線維腫症 神経線維腫症は一群の遺伝性疾患の総称で、皮膚の下などの体の部分に、軟らかく肥厚した神経組織(神経線維腫)が増殖し、しばしばコーヒーミルク色の平らな斑点(カフェオレ斑)が皮膚にできます。 神経線維腫症は、特定の遺伝子の突然変異によって引き起こされます。 皮膚の下にできる腫瘍とカフェオレ斑に加え、骨の異常、協調運動障害、脱力、感覚異常、聴覚障... さらに読む )は脳腫瘍の原因となることが分かっています。
小児の脳腫瘍の症状
頭蓋内部の圧力(頭蓋内圧)の上昇により、脳腫瘍の最初の症状が生じることがあります。腫瘍が脳内の髄液の流れを遮っている場合、または腫瘍が占める領域が大きい場合、頭蓋内圧が上昇することがあります。頭蓋内圧が上昇すると、次のようなことが起こります。
頭痛
吐き気や嘔吐(しばしば小児が目覚めた直後に生じます)
複視などの視覚障害
眼球を上へ向けることができない
行動や意識レベルの変化(怒りっぽくなったり、元気がなくなったり、混乱したり、眠そうになったりします)
腫瘍が発生した脳の部位により、その他の様々な症状が生じます。
小児の脳腫瘍の診断
画像検査
通常は生検、ときに腫瘍全体を切除する手術
ときに腰椎穿刺
医師は症状に基づいて脳腫瘍を疑います。
脳腫瘍の有無を確かめるため、通常、医師は MRI MRI検査 MRI検査は、強い磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。( 画像検査の概要も参照のこと。) 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強い磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置の中で発生するような強い磁場の中に... さらに読む などの画像検査を行います。たいていの場合、腫瘍はMRI検査で検出できます。 CT検査 CT検査 CT検査(以前はCAT検査とよばれていました)では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度からX線により計測されたものであり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピュータに送信され、コンピュータが体の2次元の断面のような画像(スライス画像)に変換します。(CTとは... さらに読む が行われることもあります。MRIまたはCT検査の前に、通常は造影剤が静脈に注射されます。造影剤は画像を鮮明にする物質です。脳腫瘍が疑われる場合、医師は通常、診断を確定するために組織の小片を採取します(生検)。場合によっては、小片を採取する代わりに、手術で腫瘍全体を切除することもあります。
小児の脳腫瘍の治療
手術による腫瘍の切除
化学療法、放射線療法、またはその両方
髄液の排出
(がん治療の原則 がん治療の原則 がんの治療は、医療の中でもとりわけ複雑なものの1つです。治療には、様々な医師(かかりつけ医、婦人科医やその他の専門医、腫瘍内科医、放射線腫瘍医、外科医、病理医など)とその他の様々な医療従事者(看護師、放射線技師、理学療法士、ソーシャルワーカー、薬剤師など)が1つのチームとなって取り組みます。 治療計画では、がんの種類、位置、 病期(がんの大きさや広がりがどれぐらいか)、遺伝学的特徴などのほか、治療を受ける人に特有の特徴を考慮に入れます。... さらに読む も参照のこと。)
通常、脳腫瘍の治療では 手術で腫瘍が切除 がんの手術 手術は、がんに対して昔から用いられてきた治療法です。大半のがんでは、リンパ節や遠く離れた部位に転移する前に除去するには、手術が最も効果的です。手術のみを行う場合もあれば、 放射線療法や 化学療法などの治療法と併用する場合もあります( がん治療の原則も参照)。医師は以下の他の治療を行うことがあります。 手術前に腫瘍を小さくする治療(術前補助療法) 手術後にできるだけ多くのがん細胞が除去されるようにする治療(術後補助療法)... さらに読む されます。その後、 化学療法 化学療法とがんに対する他の全身療法 全身療法とは、がんに対して直接行うのではなく、身体全体に影響を及ぼす治療法です。化学療法は全身療法の一種であり、薬物を用いてがん細胞を死滅させるか、または増殖を阻止します。 がんの全身療法には次のようなものがあります。 ホルモン療法 化学療法(抗がん剤) 分子標的療法 さらに読む 、 放射線療法 がんに対する放射線療法 放射線は、コバルトなどの放射性物質や、粒子加速器(リニアック)などの特殊な装置から発生する強いエネルギーの一種です。 放射線は、急速に分裂している細胞や DNAの修復に困難がある細胞を優先的に破壊します。がん細胞は正常な細胞より頻繁に分裂し、多くの場合、放射線によって受けた損傷を修復することができません。そのため、がん細胞はほとんどの正常な細胞よりも放射線で破壊されやすい細胞です。ただし、放射線による破壊されやすさはがん細胞によって異な... さらに読む 、または その両方 がんの併用療法 抗がん剤は、複数の薬を組み合わせて使用する場合に最も効果的です。併用療法の原理は、異なる仕組みで作用する薬を用いることで、治療抵抗性のがん細胞が発生する可能性を減らすというものです。異なる効果をもつ薬を併用する場合は、耐えがたい副作用を伴うことなくそれぞれの薬を最適な用量で使用できます。( がん治療の原則も参照のこと。) 一部のがんでは、 がん手術、 放射線療法、 化学療法または他の抗がん剤を組み合わせるのが最善の方法です。手術と放射線... さらに読む が行われます。小児の脳腫瘍治療に精通した 専門家の医療チーム がん治療の医療チーム 小児におけるがんはまれです。2021年の米国では、0~14歳の小児10,500人ががんと診断され、1100人強の小児ががんにより死亡すると推定されています。また、15~19歳の青年5100人ががんと診断され、約600人ががんにより死亡すると推定されています。これに対し成人では、190万人ががんと診断され、約608... さらに読む が治療計画を作成します。この医療チームには、小児がん専門医(腫瘍医)、小児神経科医、小児神経外科医、放射線腫瘍医など、乳児、小児、青年の介護や治療を専門とする医師が加わります。
手術可能な場合には頭蓋骨を開いて、腫瘍が切除されます(開頭術)。一部の脳腫瘍は、脳をほとんど傷つけることなく摘出することができます。手術後にMRI検査が行われ、残っている腫瘍があるかどうか、残っていればどのくらい残っているのかが確認されます。
腫瘍が手術で切除できない場合には、通常、追加的な治療が必要になります。5~10歳未満の小児の場合、腫瘍の種類によっては放射線療法が成長と脳の発達に悪影響を与えかねないため、初めに化学療法が行われることがあります。より年長の小児の場合は、必要に応じて放射線療法が行われます。化学療法では重篤な副作用が生じることがあります。
腫瘍が髄液の流れを遮っている場合には、腫瘍を手術で切除する前に、細いチューブ(カテーテル)を用いて髄液を外に排出することがあります。局所麻酔または全身麻酔を行った後、頭蓋骨に開けた小さな孔からカテーテルを通して排液を行い、頭蓋内圧を低下させます。カテーテルは頭蓋内圧測定用ゲージにつながれます。数日後、カテーテルは取り外されるか、永久的に留置できる排液チューブ(シャント― 水頭症 水頭症 水頭症とは、脳内の正常な空間(脳室)や、脳を覆う組織の内側の層および中間の層の間(くも膜下腔)に液体が過剰にたまった状態です。過剰に貯まった液体によって、通常は頭囲の拡大と発達異常が生じます。 脳内の正常な空間(脳室)にある液体が排出されないと水頭症が起こります。 この液体の蓄積には、先天異常、脳内出血、脳腫瘍などの多くの原因があります。 典型的な症状としては、頭の異常な拡大や発達異常などがあります。... さらに読む を参照)に取り替えられます。
小児ではがんは比較的まれなため、脳腫瘍の小児については、可能であれば必ず、 臨床試験 科学としての医学 医師たちは、何千年にもわたって人々の治療を行ってきました。医学的な治療の最も古い記録は、3500年以上前の古代エジプトのものです。それ以前にも、ヒーラーやシャーマンと呼ばれる人たちが、病人やけが人に薬草などによる治療を提供していたと考えられています。一部の単純な骨折や軽いけがに用いられたものなど、いくつかの治療法は実際に効果があるものでし... さらに読む への参加を検討するべきです。臨床試験では、一部の小児は標準的な治療を受け、それ以外の小児は試験段階の治療(実験的治療と呼ばれます)を受けることになります。実験的治療としては、新薬を使用する治療、既存の薬を新しい方法で使用する治療、新しい方法での手術や放射線治療などが行われます。ただし、実験的治療が常に効果的であるとは限らず、副作用や合併症が分かっていない場合もあります。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国がん協会:あなたの子どもががんと診断されたら(If Your Child Is Diagnosed With Cancer):がんになった小児の親や家族向けの情報源で、診断直後に生じる問題や疑問にどう対処するかについて情報を提供している
ここでは、脳腫瘍の団体が脳腫瘍の種類と治療法に関する情報と、以下のような支援団体に関する養育者向けの情報を提供しています。
米国脳腫瘍協会(American Brain Tumor Association)
小児脳腫瘍財団(Children's Brain Tumor Foundation)
米国脳腫瘍学会(National Brain Tumor Society)