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新生児の分娩損傷

執筆者:

Arcangela Lattari Balest

, MD, University of Pittsburgh, School of Medicine

レビュー/改訂 2022年 10月
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本ページのリソース

分娩損傷とは、分娩の過程で通常は産道を通る際に物理的な圧力が生じる結果として新生児が受ける損傷のことです。

  • 多くの新生児が出生の際に軽いけがをします。

  • まれに、神経が損傷したり骨が折れたりします。

  • ほとんどのけがは、治療をしなくても治ります。

極めて大きな胎児は難産になる場合があり、生まれてくる子どもに損傷のリスクを伴います。胎児が5000グラム(母親が糖尿病の場合は4500グラム)を超えると推定される場合には、 帝王切開 帝王切開 帝王切開では、母親の腹部と子宮を切開して胎児を外科手術により取り出します。 米国では分娩の最大30%が帝王切開で行われています。 以下のような場合には帝王切開が母体や胎児、あるいはその両方にとって経腟分娩よりも安全であると考えられるため、帝王切開を行います。 遷延分娩(分娩の進行が長引く) 胎児の 姿勢が異常な場合(骨盤位など) さらに読む 帝王切開 が推奨されます。生まれる前に子宮内での胎児の姿勢が正常でなかった場合にも損傷が起きる可能性が高くなります(胎向と胎位 胎向と胎位 胎向と胎位 )。

分娩損傷の最も多くは、陣痛および分娩の際に生じる自然な力によるものです。帝王切開のリスクが高かった過去においては、胎児の娩出が難しい場合、 鉗子 吸引・鉗子分娩 吸引器または鉗子を使用して行う分娩を、吸引・鉗子分娩といいます。 吸引器は、ゴムのような素材でできた小さなカップが吸引器につながった構造になっています。このカップを腟に挿入し、胎児の頭皮に吸着させます。吸引分娩を試みてうまくいかない場合は、 帝王切開が行われます。まれに、吸引器によって胎児の頭皮に挫傷ができたり、胎児の両眼に出血を起こしたり(網膜出血)することがあります。吸引分娩はまた、... さらに読む (手術器具で縁が丸く、胎児の頭に沿うように作られている)を用いて胎児を引き出していました。しかし、産道の高い位置から鉗子を用いて胎児を引き出す際に、分娩損傷が起こるリスクが高かったのです。現在では、鉗子は分娩の最終段階でのみ使用され、損傷を引き起こすことはまれです。全般的に分娩損傷の発生率は、 超音波検査 新生児の一般的な問題の概要 新生児の問題は、以下の時期に生じることがあります。 胎児として成長している出生前 陣痛および分娩時 出生後 新生児の約9%は、 早産児であること、胎児期から新生児期への移行時に起きる問題、低血糖、呼吸困難、感染症などの異常ゆえに、出生後に特別なケアを必要とします。専門的なケアは、しばしば... さらに読む による出生前の評価が改善し、分娩時の鉗子の使用が限られ、分娩損傷のリスクが高いと予想される場合には帝王切開がしばしば行われることから、過去数十年と比較してかなり低くなっています。

胎向と胎位

妊娠の末期に胎児は分娩に備えて体の向きを変えます。正常な状態では、胎向は後ろ向き(母体の背中を向いた状態)で、顔と体が左右どちらかにやや傾き、首を前に曲げ、胎位は頭位(頭を下にした状態)になります。

胎向が前向きの場合や胎位が顔位、額位、骨盤位、肩甲位の場合は異常です。

胎向と胎位
胎向と胎位

知っていますか?

  • 重篤な分娩損傷は、数十年前と比べると現在では非常にまれにしかみられません。

出生時の頭部と脳の損傷

頭部の損傷は出生に関連する最も多い損傷です。

頭部の変形は、損傷ではありません。頭部変形とは、分娩中に胎児の頭部が受ける圧力から生じる正常な頭部の変形のことです。ほとんどの出産で、胎児は頭を先にして産道に入ります。胎児の頭蓋骨の位置は本来の位置に固定されていないため、産道から押し出される際に頭部が長く伸び、胎児が産道を通りやすくなります。頭部変形が脳に影響を及ぼすことはなく、問題が生じることや、治療が必要になることもありません。頭部は数日間のうちに徐々に丸くなっていきます。

頭皮の腫れやあざのように見える皮下出血はよくみられますが、特に問題視する必要はなく、通常は数日のうちに消えます。

頭蓋骨の外側で出血すると、頭蓋骨を覆う厚い線維性の膜(骨膜)の上または下に血がたまることがあります。

頭血腫は骨膜の下に血がたまったものです。頭血腫は柔らかく出生後に大きくなることがあります。頭血腫は数週間から数カ月で自然に消失し、何らかの治療が必要になることはほとんどありません。ただし、頭血腫が赤くなったり、液体が出てきたりする場合には、小児科医の評価を受けるべきです。ときに、血液の一部が石灰化し、頭皮の中に硬いこぶが残ることがあります。そのこぶは危険なものではなく、通常は頭髪で隠れ、治療の必要はありません。

帽状腱膜下出血は頭蓋骨を覆う骨膜の上、頭皮のすぐ下で生じる出血です。頭血腫の場合とは異なり、この部分では血液が一部分にとどまらず、広がります。多量の失血と ショック ショック ショックとは、臓器に向かう血流が減少することで、酸素の供給量が低下し、それにより臓器不全やときに死にもつながる、生命を脅かす状態です。通常、血圧は低下しています。 ( 低血圧も参照のこと。) ショックの原因には血液量の減少、心臓のポンプ機能の障害、血管の過度の拡張などがあります。 血液量の減少または心臓のポンプ機能の障害によってショックが起きると、脱力感、眠気、錯乱が生じ、皮膚が冷たく湿っぽくなり、皮膚の色が青白くなります。... さらに読む を引き起こし、 輸血 輸血の概要 輸血とは、血液や血液成分を健康な供血者(ドナー)から病気の受血者(レシピエント)に移すことです。輸血を行うことで、血液が酸素を運ぶ能力を高め、体内の血液量を回復させるとともに、血液凝固の障害を正常にします。 米国では毎年約2100万件の輸血が行われています。典型的な輸血の受血者は以下のような人達です。... さらに読む 輸血の概要 が必要になることさえあります。帽状腱膜下出血は鉗子または吸引器の使用によって生じる場合や、 血液凝固の問題 血液凝固障害の概要 血液凝固障害は、血栓の形成を制御する身体機能の障害です。これらの機能障害は、以下を引き起こす可能性があります。 血液の凝固が不十分な場合は、 異常出血(出血)が生じる 血液の凝固が過剰な場合は、血栓(血栓症)が発生する 異常な出血とは、あざや出血が起こりやすい状態を意味します(... さらに読む から生じる場合があります。

分娩の前や分娩の過程で、頭蓋骨の骨の1つが骨折することがあります。頭蓋骨の骨折部分がへこんでいる(陥没骨折)場合を除けば、一般に治療をしなくてもすぐに治ります。

知っていますか?

  • ほとんどの分娩損傷は、陣痛および分娩の際に生じる自然な力が原因です。

脳内および脳周囲の出血

脳内および脳周囲の出血(頭蓋内出血)は血管が破れることにより生じ、その原因には以下のものがあります。

  • 分娩損傷

  • 脳への血液または酸素の供給を減少させる新生児の重篤な病気

  • 血液凝固の問題

頭蓋内出血は、正常な分娩後、ほかに異常がみられない新生児に生じることがあります。このような例における出血の原因は不明です。

出血を起こした多くの新生児には症状が現れませんが、活動性が低下したり(ぐったりした状態[嗜眠])、乳を飲まなくなったり、けいれんを起こしたりする場合もあります。

出血は脳内および脳周囲のいくつかの部位で起こります。

脳の周囲への出血

出血は脳内および脳周囲のいくつかの部位で起こります。

脳の周囲への出血

神経損傷

神経損傷は分娩前および分娩中に生じる可能性があります。通常このような損傷が起こると、損傷を受けた神経が制御する筋肉の筋力が低下します。神経損傷には以下のものがあります。

  • 顔面神経:顔の表情がゆがむ

  • 腕神経叢:腕または手の筋力低下

  • 横隔神経(まれ):呼吸困難

  • 脊髄(まれ):麻痺

顔面神経の損傷は、新生児が泣いて顔がゆがんで(左右非対称に)見えたときに明らかになります。顔面神経は最も損傷することの多い神経です。この損傷は、以下によって神経にかかった圧力が原因です。

  • 出生前に子宮内で胎児がとっていた姿勢

  • 分娩中に神経が母体の骨盤に押し付けられた

  • 分娩を補助するために鉗子が使用された

顔面神経損傷は特に治療する必要はなく、筋力低下は通常、生後2~3カ月までに正常に戻ります。ただし、ときに顔面神経損傷の原因が損傷を受けたことではなく、先天性の病気である場合があり、損傷が回復しません。

腕神経叢は首と肩の間にある大きな神経の一群で、左右の腕につながっています。難産の場合、胎児の腕の片方または両方が引っ張られて腕神経叢の神経が損傷し(神経叢疾患 神経叢疾患 神経叢(複数の脊髄神経から伸びる神経線維が網目状に入り組んだ部分)が外傷、腫瘍、血腫(血液がたまった状態)、または自己免疫反応によって損傷を受けることがあります。 痛み、筋力低下、感覚の消失が、いずれかの腕または脚の全体または一部に起こります。 筋電図検査と神経伝導検査は、損傷のある箇所を見つけるのに役立ち、MRI検査とCT検査は損傷の原因を特定するのに役立ちます。 症状を引き起こしている病気を治療すると、神経の機能が改善されることがあ... さらに読む )、腕と手の一部または全体の筋力低下や麻痺を引き起こすことがあります。肩と肘の筋力低下はErb麻痺と呼ばれ、手と手首の筋力低下はKlumpke麻痺と呼ばれます。腕神経叢損傷の症例の約半数は典型的に大きな胎児の難産に関連したもので、残りの約半数は正常な分娩で生まれた新生児に生じます。帝王切開で生まれた新生児では腕神経叢損傷はあまりみられません。神経が治るまでは、新生児の肩を大きく動かさないようにします。軽度の損傷の多くは数日で回復します。異常が重度である場合や、1~2週間以上続く場合には、理学療法または作業療法を受けて腕を適切な位置に直したり、やさしく動かしたりすることが勧められます。1~2カ月で改善がみられなければ、小児専門病院で小児神経科医または整形外科医により、手術が有益かどうかの評価を受けることが典型的に勧められます。

横隔膜(胸部と腹部の臓器を隔てている筋肉の壁で、呼吸を補助する)につながる神経である横隔神経が損傷を受けることがあり、損傷を受けた側の横隔膜が麻痺します。この場合、新生児は呼吸困難になり、呼吸の補助を必要とすることがあります。横隔神経の損傷は、通常は数週間のうちに完全に治ります。

分娩時に引き伸ばされたことで脊髄に損傷が起きることがありますが、極めてまれです。脊髄が損傷を受けると、損傷した部位より下が麻痺します。脊髄損傷は治癒しないことが少なくありません。首の高い位置での脊髄損傷は、新生児の正しい呼吸を妨げるため、致死的です。

腕の橈骨神経、腰の坐骨神経、脚の閉鎖神経などの神経も、分娩の際に損傷を受けることがあります。

骨の損傷

分娩が正常であっても、分娩前や分娩中に骨折することがあります。

  • 鎖骨の骨折が比較的多く、新生児の1~2%にみられます。ときに、骨折部周辺に組織のかたまりが形成される生後数日まで鎖骨の骨折に気づかないことがあります。鎖骨の骨折が新生児に苦痛を与えることはないと考えられ、治療の必要もありません。数週間で完全に治癒します。

  • また、上腕骨や大腿骨を骨折することもあります。通常は動きを制限するために、ゆるく副子をあてます。これらの骨折は最初の数日間、動かすと痛む場合があります。骨頭(骨の成長が起こる部分)が侵されていなければ、通常は問題なく治癒します。

  • 骨が極めてもろくなる特定の遺伝性疾患の新生児では、複数の骨が折れることがあります。

皮膚と軟部組織の損傷

新生児の皮膚に出生後軽い損傷がみられることがあり、特に子宮収縮時に圧迫された部位や分娩の際に産道から最初に出てくる部位にみられます。分娩に必要となった 鉗子 吸引・鉗子分娩 吸引器または鉗子を使用して行う分娩を、吸引・鉗子分娩といいます。 吸引器は、ゴムのような素材でできた小さなカップが吸引器につながった構造になっています。このカップを腟に挿入し、胎児の頭皮に吸着させます。吸引分娩を試みてうまくいかない場合は、 帝王切開が行われます。まれに、吸引器によって胎児の頭皮に挫傷ができたり、胎児の両眼に出血を起こしたり(網膜出血)することがあります。吸引分娩はまた、... さらに読む などの器具により皮膚が損傷することがあります。顔から先に分娩された児(顔位)では眼の周りや顔に、骨盤位(逆子)の場合は性器に、腫れや皮下出血がみられることがあります(胎位の異常 胎位の異常 胎向とは、胎児が後ろ(母親の背中の方)を向いているか、前を向いているか(顔が上向きか)という胎児の向きのことです。 胎位とは、胎児の体のうち最初に産道を通る部分(先進部)を表します。通常、頭が先進しますが、ときに殿部や肩が下になることもあります。 最も一般的で安全な胎向と胎位の組合せは次のような状態です。 頭が下になっている(頭位) 胎児が後ろを向いている さらに読む を参照)。このような皮下出血の治療は不要です。

分娩中の器具の使用および新生児が受けるストレス(窒息などによる)により、皮下脂肪が損傷することがあります(新生児の皮下脂肪壊死)。皮下脂肪壊死では、赤く、硬く盛り上がった部分が体幹、腕、太もも、殿部にみられます。このタイプの損傷は通常、数週間から数カ月で自然に治ります。

周産期仮死

周産期仮死は、分娩前、分娩中、または分娩直後における胎児組織への血流の減少、または胎児の血液中の酸素の減少です。一般的な原因としては以下のものがあります。

ときに、胎児仮死の正確な原因が特定できないことがあります。

原因にかかわらず、仮死した新生児は出生時に蒼白でぐったりしています。呼吸は弱いかまったくしておらず、心拍が非常に遅くなっています。このような新生児は出生後に蘇生する必要があります。蘇生では、蘇生バッグとマスクを用いて肺に空気を送ったり、呼吸用のチューブを新生児の喉に挿入したりします(気管挿管)。仮死が急速な失血によって起きた場合には、新生児は ショック状態 ショック ショックとは、臓器に向かう血流が減少することで、酸素の供給量が低下し、それにより臓器不全やときに死にもつながる、生命を脅かす状態です。通常、血圧は低下しています。 ( 低血圧も参照のこと。) ショックの原因には血液量の減少、心臓のポンプ機能の障害、血管の過度の拡張などがあります。 血液量の減少または心臓のポンプ機能の障害によってショックが起きると、脱力感、眠気、錯乱が生じ、皮膚が冷たく湿っぽくなり、皮膚の色が青白くなります。... さらに読む である可能性があります。このような新生児には直ちに静脈から水分補給を行い、ときに 輸血 輸血の概要 輸血とは、血液や血液成分を健康な供血者(ドナー)から病気の受血者(レシピエント)に移すことです。輸血を行うことで、血液が酸素を運ぶ能力を高め、体内の血液量を回復させるとともに、血液凝固の障害を正常にします。 米国では毎年約2100万件の輸血が行われています。典型的な輸血の受血者は以下のような人達です。... さらに読む 輸血の概要 を行います。

仮死状態の新生児には、以下のような1つまたは複数の器官系に損傷が生じている徴候がみられることがあります。

  • 心臓:血色が悪い、低血圧

  • 肺:呼吸困難および酸素レベルの低下

  • 脳:嗜眠、けいれん発作、あるいは昏睡に至ることもある

  • 腎臓:尿量の低下

  • 肝臓:血液の正常な凝固に必要なタンパク質の合成が困難

  • 腸:母乳やミルクの消化が困難

  • 造血系:血小板数の減少および出血

新生児は、心臓が機能するよう助ける薬剤や呼吸を補助する 人工呼吸器 人工呼吸器 人工呼吸器は、肺への空気の出入りを補助するために用いる機械です。 呼吸不全の患者の一部は、人工呼吸器(肺に出入りする空気の流れを補助する機械)による呼吸の補助を必要とします。人工呼吸器によって命が助かることもあります。 人工呼吸器には、多くの使い方があります。通常は、合成樹脂製のチューブを鼻または口から気管に挿入します。人工呼吸器が数日以上必要な場合は、首の前側を小さく切開して(気管切開)、気管に直接チューブを通すこともあります。人工呼... さらに読む を必要とする場合があります。蘇生された新生児では、72時間の間、体温を正常の37℃より低くすることが有益になる場合があります。造血系の問題を管理するために血球と血漿の輸血が必要になる場合があります。周産期仮死により損傷を受けた器官のほとんどは1週間以内に回復しますが、脳の損傷は持続する可能性もあります。

脳が受けた損傷がごくわずかであった生存児は、完全に正常な場合もあります。脳の損傷が中等度から重度であった生存児では、軽い 学習障害 学習障害 学習障害がある小児は、注意力、記憶力、論理的思考力が欠けているため、特定の技能や情報を習得したり、記憶したり、幅広く使ったりすることができず、学業成績にも影響が出ます。 学習障害の小児は、色の名前や文字を覚えたり、数を数えたり、読み書きを習得したりすることが遅れる場合があります。 学習障害の小児は、学習の専門家のもとで一連の学力検査や知能検査を受け、医師が確立された基準を適用して診断を下します。... さらに読む から発達の遅れや 脳性麻痺 脳性麻痺 脳性麻痺とは、運動困難と筋肉のこわばり(けい縮)を特徴とする症候群です。原因は、出生前の脳の発育過程で生じた脳の奇形か、出生前、分娩中、または出生直後に起きた脳損傷です。 脳性麻痺の原因としては、酸素欠乏や感染によって生じる脳の損傷や、脳の奇形などがあります。 症状の程度は様々で、ぎこちなさがかろうじて分かる程度のこともあれば、脚や腕の動... さらに読む に至るまで、損傷の徴候が生涯にわたってみられる可能性があります。重度の仮死状態に陥ると、生存できない乳児もいます。

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