胎児または新生児の溶血性疾患

(Rh式血液型不適合;胎児赤芽球症または新生児赤芽球症)

執筆者:Antonette T. Dulay, MD, Main Line Health System
レビュー/改訂 2022年 10月
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やさしくわかる病気事典

Rh式血液型不適合は、母体がRhマイナスで胎児がRhプラスの場合に起こります。

  • Rh式血液型不適合により胎児の赤血球が破壊されうるため、重症の貧血が起こることがあります。

  • 胎児の母親がRhマイナスで父親がRhプラスの場合、胎児に貧血の徴候がないか定期的に検査を行います。

  • 貧血が疑われる場合には胎児に輸血が行われます。

  • 胎児に問題が起こらないよう、妊娠28週頃、大量出血が生じた後、分娩後、および特定の処置を行った後に、血液型がRhマイナスの妊婦にRh抗体を注射します。

Rh式血液型不適合などの妊娠合併症は、妊娠中だけに発生する問題です。母体に影響を及ぼすもの、胎児に影響を及ぼすもの、または母子ともに影響を及ぼすものがあり、妊娠中の様々な時期に発生する可能性があります。しかし、ほとんどの妊娠合併症は効果的に治療できます。

胎児の母親がRhマイナスで父親がRhプラスの場合、胎児の血液がRhプラスになることがあります。血液型がRhマイナスである割合は低く、民族により異なります。

  • 北米と欧州の白人:約15%

  • アフリカ系アメリカ人:約8%

  • 中国系の人々:約0.3%

  • インド系の人々:約5%

知っていますか?

  • 初回の妊娠でRh式血液型不適合による問題が起きることはありません。

赤血球の表面にRh因子という分子がみられる人がいますが、赤血球にRh因子があると血液型がRhプラスに、なければRhマイナスになります。胎児のRhプラスの血液がRhマイナスの母親の血液に入ったとき、問題が生じる可能性があります。母体の免疫系が胎児の赤血球を異物と認識し、Rh抗体と呼ばれる抗体を作ってRhプラスの赤血球を破壊することがあります。このような抗体が作られることをRh感作といいます。(抗体は異物から体を守るために免疫細胞が作り出すタンパク質です。)

血液型がRhマイナスの女性では、妊娠中を通じていつでも感作が起こりえます。しかし、最も可能性が高いのは分娩時です。最初に感作を受けた妊娠では、胎児または新生児に影響が生じる可能性はあまりありません。いったん母体が感作されると、Rhプラスの胎児を妊娠するたびに問題が生じる可能性が高くなります。感作後は妊娠回数を重ねる毎に、母体ではより早い時期に、より多くのRh抗体が作られるようになります。

Rh抗体が胎盤を通過して胎児に移行すると、胎児の赤血球の一部が破壊されることがあります。この破壊速度が胎児体内で赤血球が新たに作られる速度を上回ると、胎児に貧血が生じる可能性があります。このような状態を胎児の溶血性疾患(胎児赤芽球症)または新生児の溶血性疾患(新生児赤芽球症)といいます。

赤血球が破壊されるとき、ビリルビンという黄色の色素が作られます。大量の赤血球が破壊されると、ビリルビンが皮膚などの組織に蓄積します。その結果、新生児の皮膚や白眼が黄色に見えることがあります(黄疸)。重症の場合には脳が損傷することがあり(核黄疸)、重度の貧血により胎児が死亡することもあります。流産が起こりやすくなります。

通常、Rh式血液型不適合は妊婦に症状を引き起こしません。

ときに、母体の赤血球の表面の他の分子が胎児のものと不適合であることがあります。このような不適合は、Rh式血液型不適合と同様の問題を引き起こします。

Rh式血液型不適合の診断

  • 血液検査

  • 女性の血液にRh抗体が含まれている場合、ドプラ超音波検査

初回の妊婦健診時には、すべての妊婦に対してスクリーニングを行い、血液型、Rh式血液型、Rh抗体や赤血球に対するその他の抗体の有無を調べます。

医師は通常以下を行って、血液型がRhマイナスの女性がRh因子に感作されてRh抗体が作られるリスクを評価します。

  • 父親が分かっており、検査が可能なときは血液型を調べる。

  • 父親の検査ができないときや、検査の結果父親がRhプラスであった場合、細胞フリー胎児DNAを用いた新しい血液検査を行って、胎児の血液型がRhプラスであるかどうかを調べる。この検査では、母体の血液中にごく少量存在する胎児のDNAの小さな断片を検査する(通常10~11週以降)。

父親の血液型がRhマイナスの場合は、それ以上の検査は必要ありません。

父親の血液型がRhプラスの場合は、母体の血液中のRh抗体を定期的に測定します。Rh抗体が一定の値に達すると、胎児の貧血のリスクが上昇します。このような場合はドプラ超音波検査を定期的に行って、胎児の脳内の血流を調べます。異常が認められたら、胎児が貧血である可能性があります。

Rh式血液型不適合の予防

Rhマイナスの女性には予防策として、以下の時点でそれぞれRh抗体を注射します。

  • 妊娠28週

  • Rhプラスの胎児の分娩から72時間以内(流産または中絶した場合にも行う)

  • 妊娠中に性器出血がみられた後

  • 羊水穿刺絨毛採取を行った後

ときに、胎児の血液が大量に母体の血流に入った場合は、追加の注射が必要です。

注射する抗体はRho(D)免疫グロブリン(抗D免疫グロブリン)です。この治療は、母体の血流に入った可能性のある胎児の赤血球上のRh因子を、母体の免疫系が認識しにくくするためのものです。これにより、母体の免疫系はRh因子に対する抗体を作らなくなります。この治療により、次回以降の妊娠時に胎児の赤血球が破壊されるリスクが治療をしない場合の12~13%から約0.1%まで下がります。

Rh式血液型不適合の治療

  • 胎児の貧血に対する輸血

  • ときに早期の分娩

胎児の血液型がRhマイナスであるか、検査の結果胎児に貧血がないことが継続して示されていれば、治療を行わず妊娠を満期まで継続することができます。

胎児が貧血と診断されれば、ハイリスク妊娠を専門とするセンターで、専門医が出生前の胎児に輸血を行うことができます。ほとんどの場合、輸血は臍静脈に刺した針から行われます。通常、輸血は妊娠32~35週頃まで繰り返し行います。輸血の正確なタイミングは、貧血の重症度と在胎週数によって変わってきます。分娩のタイミングは、個々の妊婦の状況に基づきます。

妊娠23~24週以上であれば、最初の輸血の前にしばしば妊婦にコルチコステロイドを投与します。コルチコステロイドは胎児の肺の成熟と、早産で生まれた新生児によくみられる合併症の予防に役立ちます。

出生後もしばらく輸血が必要になる場合があります。出生後まで輸血の必要がない場合もあります。

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