一般に、息切れや喀血がみられることがあります。
診断を下すには、血液や尿の検査と胸部画像検査が必要です。
コルチコステロイド、シクロホスファミド(化学療法の薬剤)、血漿交換などを用いて、肺や腎臓の永続的な損傷を防ぐようにします。
免疫系 免疫系の概要 人間の体には、異物や危険な侵入物から体を守る仕組みとして、免疫系が備わっています。侵入物としては以下のものがあります。 微生物( 細菌、 ウイルス、 真菌など) 寄生虫(蠕虫[ぜんちゅう]など) がん細胞 移植された臓器や組織 さらに読む の重要な機能に、感染に対する防御があります。免疫系は、感染から体を守るために、微生物を自己に対する異物と認識し、その微生物と結合するタンパク質(抗体 抗体 体の防衛線( 免疫系)の一部には 白血球が関わっていて、それらの白血球は血流に乗って体内を移動して組織の中に入り込み、微生物などの異物を見つけ出して攻撃します。( 免疫系の概要も参照のこと。) この防衛線は以下の2つの部分で構成されています。 自然免疫 獲得免疫 獲得免疫(適応または特異免疫)は、生まれたときには備わっておらず、後天的に獲得されるものです。獲得のプロセスは、免疫系が異物に遭遇して、非自己の物質(抗原)であることを認識した... さらに読む )を生産して、微生物を体内から除去できるようにします。 自己免疫疾患 自己免疫疾患 自己免疫疾患とは免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気です。 自己免疫疾患の原因は不明です。 症状は、自己免疫疾患の種類および体の中で攻撃を受ける部位によって異なります。 自己免疫疾患を調べるために、しばしばいくつかの血液検査が行われます。 治療法は自己免疫疾患の種類によって異なりますが、免疫機能を抑制する薬がしばしば使用されます。 さらに読む では、自己の組織が異物であるかのように体が誤って反応してしまいます。肺の自己免疫疾患では、肺の組織が免疫系の攻撃を受けて損傷します。肺が侵される自己免疫疾患では、しばしば他の臓器、特に腎臓も侵されます。
症候群とは、同時に起こる一群の症状や異常のうち、その原因として複数の異なる病気が考えられるものです(あるいは別の症候群が原因となることさえあります)。グッドパスチャー症候群は、一般に腎臓の損傷とびまん性肺胞出血(肺腎症候群 肺腎症候群 肺腎症候群とは、びまん性肺胞出血(繰り返すまたは持続する肺の中での出血)と糸球体腎炎(腎臓の微細な血管が損傷し、むくみや高血圧をきたし、尿中に赤血球が出る病気)が組み合わさったものです。 肺腎症候群は、ほぼ常に 自己免疫疾患によって引き起こされます。 診断検査として、尿検査のほか、血液検査を行って体が自己の組織に反応していることを示す特定のタンパク質(抗体)を検出したり、ときに肺または腎臓から組織を採取して分析することがあります。... さらに読む )を引き起こす、特殊な 自己免疫疾患 自己免疫疾患 自己免疫疾患とは免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気です。 自己免疫疾患の原因は不明です。 症状は、自己免疫疾患の種類および体の中で攻撃を受ける部位によって異なります。 自己免疫疾患を調べるために、しばしばいくつかの血液検査が行われます。 治療法は自己免疫疾患の種類によって異なりますが、免疫機能を抑制する薬がしばしば使用されます。 さらに読む です。ときに腎臓のみまたは肺のみが侵されることがあります。
グッドパスチャー症候群は、通常若い男性にみられます。遺伝的にこの病気にかかりやすい人もいるようです。このような人では、タバコの煙や、比較的まれではありますが一部の溶媒などの、生活環境に存在する物質やウイルス性呼吸器感染症によって、自己の体の特定の部位に反応し破壊する 抗体 抗体 体の防衛線( 免疫系)の一部には 白血球が関わっていて、それらの白血球は血流に乗って体内を移動して組織の中に入り込み、微生物などの異物を見つけ出して攻撃します。( 免疫系の概要も参照のこと。) この防衛線は以下の2つの部分で構成されています。 自然免疫 獲得免疫 獲得免疫(適応または特異免疫)は、生まれたときには備わっておらず、後天的に獲得されるものです。獲得のプロセスは、免疫系が異物に遭遇して、非自己の物質(抗原)であることを認識した... さらに読む が作られることがあります。これらの抗体は、一般に、肺胞や肺の毛細血管、腎臓のろ過装置などに損傷を与えます。また抗体によって炎症が誘発され、肺機能や腎機能が低下します。
ほとんどの患者においてグッドパスチャー症候群の最初の徴候は 急速進行性糸球体腎炎 糸球体腎炎 糸球体腎炎は、糸球体(小さな穴が多数あいた微細な血管でできた球状の腎組織で、それらの穴を通して血液がろ過されます)が侵される病気です。糸球体腎炎は、むくみ(浮腫)、高血圧および尿中での赤血球の検出を特徴とします。 糸球体腎炎は、感染症、遺伝性疾患、自己免疫疾患など、様々な病気が原因で発生します。 診断は、血液検査と尿検査の結果に基づいて下され、場合によっては画像検査や腎臓の生検も行われます。... さらに読む で、肺の問題が明らかとなるのは約半数のみです。
グッドパスチャー症候群の症状
グッドパスチャー症候群の症状としては以下のものがあります。
血尿
せき
喀血
疲労
発熱
息切れ
意図しない体重減少
疲労や蒼白は、失血による 貧血 貧血の概要 貧血とは、赤血球の数が少ない状態をいいます。 赤血球には、肺から酸素を運び、全身の組織に届けることを可能にしているヘモグロビンというタンパク質が含まれています。赤血球数が減少すると、血液は酸素を十分に供給できなくなります。組織に酸素が十分に供給されないと、貧血の症状が現れます。... さらに読む の症状として生じることがあります。腎臓が損傷された結果、脚の 腫れ むくみ むくみ(浮腫)は、組織内の体液の量が過剰になることによって起こります。その体液は主に水が占めています。 むくみは、広い範囲に及ぶこともあれば、腕や脚の全体または一部分でとどまることもあります。むくみは下腿(膝から足首までの部分)に起こることが多いですが、長期にわたってベッドで寝ていなければならない人(長期の床上安静)では、ときに殿部や性器、太ももの背面にむくみが起きることがあります。常に片側を下にして横向きに寝る女性では、下側にくる乳房... さらに読む (浮腫)が生じる人もいます。
症状は急速にひどくなることがあります。ときに症状があまりにひどい場合は、肺が機能しなくなり、重度の呼吸困難をきたしたり、あえいだり、皮膚の色が青っぽく変化したりする(チアノーゼ チアノーゼ チアノーゼは、血液中の酸素の不足が原因で、皮膚が青っぽく変色することです。 酸素が枯渇した血液(脱酸素化血液)は、赤色というより青みがかっており、これが皮膚を循環している場合にチアノーゼがみられます。肺または心臓の重い病気の多くは、血液中の酸素レベルを低下させるため、チアノーゼの原因となります。また、血管や心臓にある種の奇形があると、血液が空気中から酸素を取り込む場所である肺胞(肺にある小さな空気の袋)を通らず、直接心臓に流れるために、... さらに読む )ことがあります。肺が機能しなくなると、体の組織が十分な酸素を受け取ることができず、死に至ることもあります。
また、大量の血液が失われる可能性があります。同時に、腎機能が急速に低下することもあります。
肺出血に関連する症状は、腎臓の損傷に関連する症状の数週間前、または早ければ数年前に起こることさえあります。
グッドパスチャー症候群の診断
胸部画像検査
ときに内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器)を肺に挿入し(気管支鏡検査)、液で洗浄する(気管支肺胞洗浄)
血液と尿の検査
腎組織の生検
肺疾患に関連する症状がみられる人では、多くの場合、胸部画像検査が行われます。胸部画像検査では、肺出血による異常な白い斑点が両方の肺にみられます。症状や胸部画像検査の結果から肺出血が明らかでない場合(例えば、喀血がない患者)、内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器)を肺に挿入し(気管支鏡検査 気管支鏡検査 気管支鏡検査とは、気管支鏡(観察用の管状の機器)を用いて発声器(喉頭)や気道を直接観察することです。 気管支鏡の先端にはカメラが付いていて、これによって太い気道(気管支)から肺の内部を観察できます。医師は、気管支鏡に小さな器具を通し、肺や気道組織のサンプルを採取して、肺疾患の診断や一部の肺疾患の治療に役立てることもできます。気管支鏡には、柔軟なもの(軟性気管支鏡)と硬いもの(硬性気管支鏡)があります。気管支鏡によるほとんどの処置(特に診... さらに読む )、液で肺を洗浄(気管支肺胞洗浄 気管支鏡による処置 気管支鏡検査とは、気管支鏡(観察用の管状の機器)を用いて発声器(喉頭)や気道を直接観察することです。 気管支鏡の先端にはカメラが付いていて、これによって太い気道(気管支)から肺の内部を観察できます。医師は、気管支鏡に小さな器具を通し、肺や気道組織のサンプルを採取して、肺疾患の診断や一部の肺疾患の治療に役立てることもできます。気管支鏡には、柔軟なもの(軟性気管支鏡)と硬いもの(硬性気管支鏡)があります。気管支鏡によるほとんどの処置(特に診... さらに読む )する必要があるかもしれません。
尿検査では、血尿と尿タンパク質がみつかります。血液検査では、しばしば貧血がみられます。
臨床検査では、血液中に特徴的な抗体が見つかります。
医師は通常、腎臓の組織片を採取して、分析します(腎生検 腎生検 膀胱や尿路の病気が疑われる場合の評価には、部位に応じた生検や細胞を採取する検査も用いられます。( 尿路の概要も参照のこと。) 腎生検(腎臓の組織サンプルを採取して顕微鏡で観察する検査)は主に、腎臓の特殊な血管(糸球体)や微細な管(尿細管)が障害される病気の診断と、 急性腎障害のまれな原因の診断に用いられます。生検はまた、移植された腎臓で拒絶反応の徴候がないかを調べる目的でもしばしば行われます。... さらに読む )。組織を顕微鏡で観察すると、特有のパターンで抗体が沈着しているのが分かります。
グッドパスチャー症候群の治療
血液中から有害な抗体を除去する(血漿交換と呼ばれる)処置
コルチコステロイド(メチルプレドニゾロンなど)とシクロホスファミドの静脈内投与
ときに、透析または腎移植
グッドパスチャー症候群の患者は、急速に肺機能が大きく失われ、腎臓の機能が完全に停止して死に至ることがあります。
治療として、 血漿交換 血漿交換 アフェレーシスという方法では、血液をいったん体から取り出して、その中から物質を除去し、再び体内に戻します。 アフェレーシスは以下の目的で使用できます。 供血者から健康な血液成分を採取し、病気の人に 輸血する。 病気の患者の血液から有害物質や過剰な血球を除去する(治療としてのアフェレーシス) 分離できる血液の成分として、以下のものがあります。 さらに読む と呼ばれる、血液中から有害な抗体を除去する処置が行われます。
また、コルチコステロイドやシクロホスファミドを高用量で静脈内に投与して免疫系の活動を抑制します。免疫系を抑制する別の薬剤であるリツキシマブは、シクロホスファミドを使用した結果、重い副作用が現れた患者に使われることがあります。
この2つの治療を早期に組み合わせて行うことで、肺や腎臓の機能を保てる場合があります。いったん腎臓が損傷を受けると、通常は元に戻らず、 透析 透析 透析とは、体内の老廃物や過剰な水分を機械的に取り除く処置のことで、腎臓が十分な機能を果たさなくなったときに必要になります。 透析が必要になる理由はいくつかありますが、最も多いのは、腎臓が血液から老廃物を十分にろ過できなくなること(腎不全)です。腎臓の機能は急速に低下することもあれば(... さらに読む または 腎移植 腎移植 腎移植とは、生きている人または死亡した直後の人から健康な腎臓を摘出し、末期腎不全の患者に移植することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 不可逆的 腎不全(腎臓が機能せず、治療しても治らない)の患者にとって、年齢にかかわらず腎移植は透析に代わる救命法です。腎移植は最も多く行われている臓器移植です。 腎移植は以下の病気がある場合に必要になります。 進行した不可逆的腎不全 さらに読む が必要になることがあります。
症状が治まるまで、多くの患者が支持療法を必要とします。例えば酸素投与を行ったり、一定の期間、 人工呼吸器 人工呼吸器 人工呼吸器は、肺への空気の出入りを補助するために用いる機械です。 呼吸不全の患者の一部は、人工呼吸器(肺に出入りする空気の流れを補助する機械)による呼吸の補助を必要とします。人工呼吸器によって命が助かることもあります。 人工呼吸器には、多くの使い方があります。通常は、合成樹脂製のチューブを鼻または口から気管に挿入します。人工呼吸器が数日以上必要な場合は、首の前側を小さく切開して(気管切開)、気管に直接チューブを通すこともあります。人工呼... さらに読む による呼吸の補助が必要になる場合があります。血液や血液製剤の輸血が必要になることもあります。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国腎臓財団:グッドパスチャー症候群(National Kidney Foundation: Goodpasture's Syndrome):症状と合併症、診断、治療、その他のセルフケア情報など、グッドパスチャー症候群に関する一般的な情報を提供しています。