突然の視力障害とは、数分から数日以内に発生する視力障害のことです。片眼にのみ現れることもあれば両眼に現れることもあり、視野の一部のみが侵されることもあれば視野のすべてが侵されることもあります。視野の小さな一部分だけが欠ける(例えば、小さな 網膜剥離 網膜剥離 網膜剥離(はくり)とは、網膜(眼の奥にあって光を感じ取る透明な構造物)が、その下に付着している層から剥がれてしまうことをいいます。 飛蚊症(ひぶんしょう)の症状が突然増える、突然チカチカする光が見える、カーテンまたはベールのようなものに視界が遮られる、または突然の視力障害などの症状が現れます。 医師は検眼鏡で眼を観察することにより診断を下します。 剥離が起こってすぐに修復すれば、ほとんどの網膜剥離は完治し、視力はいくらか回復します。... さらに読む によるもの)と、 かすみ目 かすみ目 かすみ目は、最も一般的な視覚症状です。かすみ目とは、一般に、徐々に進行する見え方の鮮明さの低下をいいます。 片眼または両眼に突然起こる完全な視力の喪失( 失明)は、別の症状とみなされます。 かすみ目が起こる仕組みは、主に4つあります。 網膜(眼の奥にある光を感じる構造物)の病気 正常なら透明であるはずの眼の構造物(角膜、水晶体、硝子体[しょうしたい、眼球の内部を満たすゼリー状の物質])が濁ることにより、光が網膜まで届かなくなる... さらに読む のような症状が現れます。視力障害の原因によっては、 眼痛 眼痛 眼痛には、激しいものもあれば鋭いものもあり、うずいたりズキズキしたりすることもあれば、眼の表面に軽い刺激または異物がある感覚(異物感)を覚えるだけのこともあります。 眼痛を引き起こす病気の多くでは、 眼が赤くなります。眼痛の原因によっては他の症状がみられることもあります。 例えば、 かすみ目、 眼球の突出、または明るい光によって悪化する痛みなどがみられることがあります。 角膜(虹彩と瞳孔の前にある透明な層)は、痛みに非常に敏感です。角膜... さらに読む など、その他の症状がみられることもあります。
眼の内部の構造
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原因
突然の視力障害には、主に以下に挙げる3つの原因があります。
正常なら透明であるはずの眼の構造物が濁ること
網膜(眼の奥にある光を感じる構造物)の異常
眼から脳に視覚信号を送る神経(視神経と視覚路)の異常
光は、網膜で感知されるまでに、いくつかの透明な構造物を通過しなければなりません。光はまず、角膜(虹彩と瞳孔の前にある透明な層)を通過し、次に水晶体、さらに硝子体(しょうしたい、眼球の内部を満たすゼリー状の物質)を通過します。光がこれらの構造物を通過するのを妨げるあらゆる障害物(例えば、角膜潰瘍[かいよう]、硝子体への出血、眼の奥から脳へと神経信号が伝わるのを妨げるもの)は、視力障害を引き起こします。
眼全体に影響が及んだときに完全な視力の喪失をもたらす病気のほとんどは、その影響が眼の一部分だけにとどまった場合、部分的な視力障害だけをもたらします。
視覚路が損傷すると...
両眼から出た信号は、視神経に沿って運ばれます。2つの視神経は視交叉と呼ばれる部分で交わります。それぞれの眼からつながる視神経は、ここで2本ずつに分かれ、各側の神経線維の半分は反対側へと交差します。こうして、脳は左の視野についても右の視野についても、両方の左右視神経から情報を受け取ることができます。眼または視覚路のどこに損傷が生じたかによって、異なるタイプの視力障害が現れます。 |
一般的な原因
突然起こり、かつ痛みは伴わない視力障害の最も一般的な原因は以下のものです。
眼の奥付近にあるゼリー状の硝子体への出血(硝子体出血)
眼のけが
網膜動脈の突然の閉塞は、血栓または動脈硬化物質から剥がれた小片が網膜動脈に移動することで発生します。視神経につながる動脈も同様のかたちで閉塞することがあり、また、巨細胞性[側頭]動脈炎などの場合には炎症によって閉塞することもあります。網膜静脈内で血栓が形成されて網膜静脈が閉塞されることもあり、これは高血圧または糖尿病のある高齢者でよくみられます。糖尿病の人は、硝子体内に出血するリスクもあります。
症状が突然始まったように見えても、実際には症状に突然気づいただけである場合もあります。例えば、かなり前から(重度の白内障などによって)片眼の視力が低下している人が、正常な方の眼を覆ったときに突然、異常な方の眼の視力低下に気づくことがあります。
あまり一般的でない原因
突然の視力障害のあまり一般的でない原因(表「 突然の視力障害 突然の視力障害の主な原因と特徴 」を参照)には、脳卒中または一過性脳虚血発作、急性緑内障、網膜剥離、角膜と水晶体の間にある眼の前方の構造物の炎症(前部ぶどう膜炎、ときに虹彩炎とも呼ばれます)、ある種の網膜の感染症、加齢黄斑変性の合併症としてみられる網膜内への出血などがあります。
評価
突然の視力障害は緊急事態です。原因のほとんどは重篤なものです。
受診のタイミング
突然の視力障害が起こったすべての人は、直ちに眼科医(眼の病気の評価と[手術を含む]治療を専門とする医師)または救急医療機関を受診するべきです。
医師が行うこと
医師はまず、症状と病歴について質問します。次に身体診察を行います。病歴聴取と身体診察で得られた情報から、多くの場合、原因と必要になる検査を推測することができます(表「 突然の視力障害 突然の視力障害の主な原因と特徴 」を参照)。
医師はまず、視力障害がいつ起こったか、どれくらい続いているか、症状が進行しているかどうかを尋ねます。視力障害は片眼のみかそれとも両眼にあるか、また、視力障害が全体に及ぶのかそれとも視野の特定の部分に限られるのかについて尋ねます。また、飛蚊症(ひぶんしょう)、チカチカする光が見える、光の周りに虹のような輪が見える(光輪視)、色覚の異常、ジグザグまたはモザイク模様、眼痛など、その他の視覚症状についても尋ねられます。眼以外の部位の症状や、眼に問題をもたらしうる病気の危険因子がないかについても質問されます。
身体診察では、主に眼の診察に重点が置かれますが、全身の身体診察が行われることもあります。
眼の診察に際し、医師はまず見え方の鮮明さ(視力)を注意深く確認します。通常は、最初に片眼で、次に両眼で視力検査表の文字や記号を読むように指示されます。さらに、瞳孔が光に反応してどの程度縮小(縮瞳[しゅくどう])するか、眼で動くものをどの程度追うことができるか、について評価します。色覚の検査が行われることもあります。 医師は、 細隙灯(さいげきとう)顕微鏡 細隙灯とは (拡大鏡下に眼を診察できる器具、)を用いて眼とまぶたを観察し、眼の内圧(眼圧)を測定します。眼科医は、散瞳薬を患者に点眼した後、細隙灯顕微鏡またはライトの付いた手持ち式の器具で、網膜を隅々まで調べます。
検査
痛みがあるかないかによって、視力障害が突然生じた原因をかなり絞り込むことができます(表「 突然の視力障害 突然の視力障害の主な原因と特徴 」を参照)。何もしなくても視力がすぐに戻る場合は、一過性脳虚血発作や眼性片頭痛が有力候補に挙げられます。
たいていの場合、眼の診察の結果から、視力障害の原因を診断するのに十分な情報が得られます。 疑われる原因によっては、検査が必要になる場合もあります。以下に挙げる検査は特に重要です。
眼底検査で網膜がはっきり見えない場合は、超音波検査が行われます。
眼痛と他の特定の症状があり、眼の診察時に視神経の腫れがみられた人には、ガドリニウム造影剤を用いた眼窩や脳のMRI検査が行われることがあります。
赤血球沈降速度(赤沈)とC反応性タンパク質の濃度(体の炎症の程度を間接的に評価する血液検査)の測定のほか、ときに血小板の数(血小板数)の測定が(特に50歳以上の人または頭痛がある人に)行われます。
治療
要点
突然の視力障害は緊急事態であるため、患者は直ちに病院を受診する必要があります。
痛みがあるかないかによって、原因を絞ることができます。
何もしなくても視力がすぐに戻る場合は、一過性脳虚血発作や眼性片頭痛が有力候補に挙げられます。