胞状奇胎妊娠では妊娠したように見えますが、子宮は正常な妊娠時と比べてはるかに速く大きくなります。
ほとんどの場合、吐き気や嘔吐がひどく、性器出血がみられ、著しい血圧上昇がみられる場合もあります。
超音波検査とヒト絨毛性ゴナドトロピン(正常な妊娠の初期に分泌されるホルモン)を測定する血液検査を行います。
胞状奇胎妊娠は子宮内容除去術を用いて治療します。
この病気が続く場合は、化学療法が必要になります。
(女性生殖器のがんの概要 女性生殖器のがんの概要 外陰部、腟、子宮頸部、子宮体部、卵管、卵巣など、がんは女性の生殖器系のどの部分にも起こりえます。これらのがんを婦人科がんといいます。 米国で最も多くみられる婦人科がんは 子宮体がん(子宮内膜がん)であり、次に 卵巣がん、そして 子宮頸がんです。子宮頸部とは子宮の下部のことですが、通常、子宮頸部のがんは子宮頸がんと呼ばれ、子宮体部のがんは子... さらに読む も参照のこと。)
胞状奇胎妊娠は、ほとんどの場合、異常な受精卵が、胎児に成長できずに胞状奇胎に発育することです。胞状奇胎妊娠はまた、 流産 流産 流産とは、妊娠20週未満で胎児が失われることです。 胎児側の問題(遺伝性疾患や先天異常など)によっても母体側の問題(生殖器の構造的異常、感染症、コカインの使用、飲酒、喫煙、けがなど)によっても流産が起こりますが、多くの場合、原因は不明です。 出血や筋けいれんが起こることがありますが、特に妊娠して週数が経過している場合にはよく起こります。 医師は子宮頸部を診察し、通常は超音波検査も行います。... さらに読む の後や正常な妊娠・出産後に子宮に残った細胞、また異常な位置での妊娠(異所性妊娠 異所性妊娠 異所性妊娠とは、卵管などの異常な部位に受精卵が着床することです。 異所性妊娠では、胎児は生存できません。 異所性妊娠が破裂すると、しばしば腹痛や性器出血が起こり、治療しなければ死に至ることがあります。 診断は血液検査および超音波検査(主に胎児の位置を調べるために行う)の結果に基づきます。... さらに読む )からも、発生することがあります。胎児が生存している場合でも、まれに胞状奇胎妊娠が発生することがあります。そのような場合、典型的に胎児が死亡し、流産が起こります。
胞状奇胎妊娠は17歳未満と35歳以上の女性に特に多く、米国では2000件の妊娠につき1回程度の頻度で発生しています。理由は分かっていませんが、胞状奇胎妊娠はアジア諸国でより多くみられます。
胞状奇胎妊娠は妊娠性絨毛性疾患の一種です。
妊娠性絨毛性疾患の種類
妊娠性絨毛性疾患は、 発達する胎芽 胎芽の発達 受精卵として始まった新たな命は、いくつもの段階を経て成長していきます。受精卵は胚盤胞、胎芽、胎児へと発達していきます。 月経周期が正常であれば、最後の月経開始日の約14日後に、通常、左右の卵巣のどちらかから1個の卵子が放出されます。卵子が放出されることを排卵といいます。放出された卵子はじょうご形をしている卵管の開口部からさっと卵管内に入ります。 排卵の時期になると、子宮頸部の粘液がサラサラになって伸びがよくなり、精子が子宮へと進入しやす... さらに読む を包み、やがて胎盤と羊膜腔になる細胞(トロホブラスト)から発生する一連の病気です。侵された細胞は、異常で急速な増殖を起こします。
妊娠性絨毛性疾患には以下のものがあります。
がんになる可能性のある良性腫瘍:この腫瘍には、胞状奇胎、過大着床部、着床部結節などがあります。
胎盤の悪性腫瘍:この腫瘍(妊娠性絨毛性腫瘍と呼ばれます)には、胎盤部トロホブラスト腫瘍、類上皮性トロホブラスト腫瘍、絨毛がん、侵入奇胎などがあります。
妊娠性絨毛性疾患の約80%は良性です(がんではありません)。
残りは持続し、周辺組織に広がり始める傾向があります。胞状奇胎の約2~3%は絨毛がんになります。絨毛がんは、リンパ管や血流を介して急速に広がることがあります。
胎盤部トロホブラスト腫瘍と類上皮性トロホブラスト腫瘍は極めてまれです。
胞状奇胎妊娠の症状
胞状奇胎妊娠(胞状奇胎)が生じると、妊娠したときと同じように感じます。ただし、胞状奇胎妊娠は胎児よりもはるかに速く成長するため、腹部は正常な妊娠時と比べてはるかに速く大きくなります。重度の吐き気や嘔吐、性器出血がよくみられます。劣化した奇胎の一部が、少量のブドウの房状の組織として腟から排出されることもあります。これらの症状がみられる場合は、速やかに医師の評価を受ける必要があります。
胞状奇胎妊娠は、例えば以下のような重篤な合併症を引き起こすことがあります。
卵巣の嚢胞
絨毛がんが発生すると、体内の他の部位に転移するため、他の症状がみられることもあります。
妊娠性絨毛性疾患の女性では、 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症は甲状腺が働きすぎている状態で、甲状腺ホルモンの値が高く、身体の重要な機能が働く速度が上昇します。 バセドウ病は甲状腺機能亢進症の原因として最もよくみられます。 心拍数と血圧の上昇、不整脈、過剰な発汗、神経質や不安、睡眠障害、意図しない体重減少、排便回数の増加などの症状がみられます。 診断は血液検査により確定されます。 甲状腺機能亢進症の管理には、チアマゾールまたはプロピルチオウラシルが用いられます。 さらに読む (甲状腺の活動が過剰になった状態)が起こることがあります。症状には、異常に速い心拍(頻脈)、皮膚の熱感、発汗、暑さへの耐性低下、軽度の振戦などがあります。
胞状奇胎妊娠の診断
血液検査
超音波検査
胞状奇胎妊娠(胞状奇胎)は多くの場合、発生後すぐに診断可能です。胞状奇胎妊娠は、通常よりはるかに大きい子宮や、ブドウ状組織の腟からの排出などの症状に基づいて疑われます。
妊娠検査を行います。胞状奇胎妊娠がある場合、妊娠検査結果が陽性であっても胎児の動きや心拍が認められません。
また、血液検査により、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG:正常な妊娠の初期に分泌されるホルモン)の血中濃度を測定します。胞状奇胎妊娠やその他の妊娠性絨毛性疾患がある場合は、これらの腫瘍からこのホルモンが大量に分泌されるため、通常その測定値が非常に高くなります。
hCGの測定値が非常に高い場合は、血液検査を行って甲状腺機能を調べ、甲状腺機能亢進症の有無を判断します。
体内で成長しているのが胞状奇胎であり、胎児や羊膜腔(胎児と胎児を取り巻く羊水が存在する場所)ではないことを確認するため、超音波検査を行います。
診断を確定するには、 頸管拡張・内膜掻爬 頸管拡張・内膜掻爬 医師は、 スクリーニング検査を勧めることがあります。スクリーニング検査とは、症状がない人に対して病気の有無を調べるために行われる検査です。女性に生殖器系に関連する症状(婦人科疾患の症状)がある場合、症状を引き起こしている病気を特定するための検査( 診断目的の検査)が必要になることがあります。 婦人科領域では以下の2つのスクリーニング検査が重要です。 子宮頸がん(子宮の下部のがん)の有無を調べるためのパパニコロウ検査などの細胞診またはヒト... さらに読む の際に採取した組織や排出された組織のサンプルを顕微鏡で検査します(生検)。子宮内容除去術の際に異常組織を除去することがあります。
妊娠性絨毛性疾患と診断されると、腫瘍が初めに発生した場所から体内の別の部位に広がっているかどうかを調べるための検査を行います(病期診断)。検査には胸部、腹部、および骨盤部のCT検査が含まれます。MRI検査も行う場合があります。
妊娠性絨毛性疾患の診断時に、医師は患者に将来妊娠して子どもをもつことに関する希望について話します。
病期診断
妊娠絨毛性腫瘍(通常はがんである妊娠性絨毛性疾患の一種)の病期診断は、腫瘍の体内での広がりに基づきます。
I期:腫瘍が子宮体部のみに限局している(子宮頸部[子宮下部]には認められない)。
II期:腫瘍が子宮外の卵巣、卵管、腟、および/または近くの組織に広がっている。
III期:腫瘍が肺に広がっている。
IV期:腫瘍が脳、肝臓、腎臓、および/または消化管などのより離れた部位に広がっている。
胞状奇胎妊娠の予後(経過の見通し)
治療により、ほとんどは治癒します。治癒の可能性は、奇胎が広がっているかどうかや、他の要因により異なります。
奇胎が広がっていない場合:ほぼ100%
奇胎が広がっているが低リスクと考えられる場合:90~95%
絨毛がんが広範囲に広がり、高リスクと考えられる場合:60~80%
胞状奇胎妊娠ではほとんどの場合、その後も妊娠が可能で、流産、妊娠合併症、胎児の先天異常などのリスクが高くなることはありません。
胞状奇胎妊娠を経験した人の約1~2%で、再び胞状奇胎が生じます。このため、過去に胞状奇胎妊娠を経験した人が次に妊娠した場合には、初期に超音波検査を行います。胞状奇胎妊娠が連続してみられる場合は、遺伝子検査を行います。
胞状奇胎妊娠の治療
奇胎の除去
再発または転移を調べる検査
必要があれば、化学療法
通常、すべてのタイプの妊娠性絨毛性疾患は、生殖機能を損なうことなく診断および治療が可能です。
胞状奇胎妊娠(胞状奇胎)またはすべてのタイプの妊娠性絨毛性腫瘍は、通常は吸引による子宮内容除去術によって完全に取り除きます。子宮の摘出(子宮摘出術 治療 卵巣がんは、卵巣のがんです。卵巣と子宮をつなぐ管に発生する卵管がんおよび腹部の内側を覆う組織のがんである腹膜がんと関連があります。これらのがんは、通常、進行した段階で診断されます。 卵巣がんは、範囲が広がるまで症状がみられないことがあります。 卵巣がんの疑いがある場合は、血液検査、超音波検査、MRI検査、CT検査などを行います。 通常は、左右の卵巣および卵管と子宮を切除します。... さらに読む )が必要になることはまれですが、女性が子どもを産む計画がない場合には行われることがあります。
奇胎を摘出した後、さらなる治療が必要かどうかを判断するために検査を行います。
胸部X線検査を行い、奇胎が肺に広がっていないかどうか調べます。
また、ヒト絨毛性ゴナドトロピンの血中濃度を測定して、胞状奇胎妊娠が完全に摘出されたことを確認します。完全に摘出されていれば、ヒト絨毛性ゴナドトロピンの血中濃度は通常10週間以内に正常に戻り、以後は正常な水準に保たれ、さらなる治療は不要です。妊娠によりhCG測定値の解釈が困難になるため、hCG測定中は効果的な避妊法を用いるようにします。測定値が正常化しなければ、この病気が続いていると考えられます。この場合には脳、胸部、腹部、骨盤内のCT検査を行って、絨毛がんが生じて広がっていないか調べます。
奇胎が存続していたり、広がっていたりする場合、化学療法が必要です。奇胎が低リスクと考えられる場合、化学療法は、1種類の薬剤のみ(メトトレキサートまたはアクチノマイシンD)で行われることがあります。この治療に効果がなければ、化学療法薬(エトポシド、メトトレキサート、アクチノマイシンD、シクロホスファミド、およびビンクリスチン)の併用や、子宮摘出術が行われることもあります。
奇胎が広範囲に広がり、高リスクと考えられる場合は、医師は患者を専門家に紹介します。治療は通常、数種類の化学療法薬(通常はエトポシド、メトトレキサート、アクチノマイシンD、シクロホスファミド、ビンクリスチン)を使用します。治療法としては、放射線療法や子宮摘出術などがあります。
子宮摘出術を行った場合は、その後に化学療法を施行するとともに、治療が成功したことを確認するためにhCG値をモニタリングします。
胞状奇胎妊娠の摘出後12カ月間は、妊娠を避けるように助言されます。避妊には 経口避妊薬 経口避妊薬 避妊のためのホルモン剤は、以下の方法で投与することができます。 内服(経口避妊薬) 腟への挿入(腟リング) 皮膚への貼り付け(パッチ剤) 皮下インプラント さらに読む を推奨されることが多いですが、ほかに有効な避妊法があれば、それを用いることもできます。妊娠を遅らせるのは、治療の成功を確実にするためです。
胞状奇胎妊娠があった女性が妊娠した場合、医師は妊娠の初期に超音波検査を行い、妊娠が正常かどうかを判断します。胎児の娩出後、通常は胎盤を検査室に送って異常がないかを調べます。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国国立がん研究所:妊娠性絨毛性疾患の治療(National Cancer Institute: Gestational Trophoblastic Disease Treatment):このウェブサイトでは、妊娠性絨毛性疾患、その病期、治療に関する情報を提供しています。