炎症の原因は多く、感染症から放射線療法まで様々です。
原因に応じて、直腸炎は痛みを伴わないこともあれば非常に痛いこともあります。
診断は医師が直腸の内側を診察した後に下されます。
細菌感染による直腸炎は、抗菌薬を使用することで治療できます。
放射線療法による直腸炎は、コルチコステロイドを患部に塗ったり、ときに服用したりすることで治療できます。
直腸は肛門の上にある消化管の一部で、便が肛門を通って体外に排出されるまで便が蓄えられる部分です。(肛門と直腸の概要 肛門と直腸の概要 肛門は消化管の末端にある開口部で、便が体外に排出されるときの出口になる部分です。 直腸は肛門の上にある消化管の一部で、便が肛門を通って体外に排出されるまで便が蓄えられる部分です。 肛門は皮膚を含む体表層と腸管から形成されています。 直腸の内面は、腸管の他の部分と同じように、粘液腺を含んだ輝きのある赤い組織でできています。直腸の内面は痛みに... さらに読む も参照のこと。)
消化器系
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直腸炎の原因
直腸炎にはいくつかの原因があります。
クローン病 クローン病 クローン病は、炎症性腸疾患の一種で、一般的には小腸の下部、大腸、またはその両方に慢性炎症が生じますが、炎症は消化管のどの部分にも現れる可能性があります。 正確な原因は分かっていませんが、免疫系の不適切な活性化がクローン病の発生につながっている可能性があります。 典型的な症状としては、慢性の下痢(血性となることもある)、けいれん性の腹痛、発熱、食欲不振、体重減少などがあります。... さらに読む や 潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎とは、大腸に炎症が起こり、潰瘍が形成される慢性炎症性腸疾患で、出血性の下痢や腹部のけいれん痛、発熱を伴う発作が起きます。潰瘍性大腸炎がない人と比べて、結腸がんの長期リスクが高まります。 この病気の正確な原因は分かっていません。 発作時の典型的な症状は、腹部のけいれん痛、便意の切迫、下痢(血性下痢が典型的)などです。 診断は、S状結腸内視鏡検査か、ときに大腸内視鏡検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む が原因で生じることがあります。また、 性感染症 性感染症(STI)の概要 性感染症(性病)とは、例外はあるものの、一般的には性的接触によって人から人に感染する病気のことです。 性感染症を引き起こす病原体の種類としては、細菌、ウイルス、原虫などがあります。 キスや濃厚な体の接触を介して広がる感染症もあります。 感染が体の他の部分に広がり、ときには深刻な結果に至る場合もあります。... さらに読む (淋菌感染症 淋菌感染症 淋菌感染症(淋病)は、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)という細菌によって引き起こされる性感染症で、尿道、子宮頸部、直腸、のどの粘膜や、眼の前部を覆う膜(結膜と角膜)を侵します。 通常は性的接触により感染します。 通常は、陰茎や腟から分泌物が生じたり、頻尿になったり、急に尿意を催したりします。 まれに、淋菌が関節、皮膚、心臓に感染することもあります。... さらに読む 、 梅毒 梅毒 梅毒は、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)という細菌によって引き起こされる性感染症です。 梅毒の症状は、見かけ上は健康な時期をはさんで、3段階で生じます。 まず患部に痛みのない潰瘍が現れ、第2期では、発疹、発熱、疲労感、頭痛、食欲減退がみられます。 治療しないでいると、第3期には、大動脈、脳、脊髄、その他の臓器が侵されることがあります。 医師は通常、患者に梅毒があることを確認するために2種類の血液検査... さらに読む 、 クラミジア・トラコマチス感染症 クラミジア感染症とその他の非淋菌感染症 クラミジアによる感染症としては、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)という細菌によって引き起こされる尿道、子宮頸部、直腸の性感染症などがあります。この種の細菌は、白眼の部分を覆う膜(結膜)やのどにも感染することがあります。ウレアプラズマ属(Ureaplasma)やマイコプラズマ属(Mycoplasma)などの他の細菌が尿道の感染症を引き起こすこともあります。... さらに読む 、 単純ヘルペスウイルス感染症 単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症 単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症では、皮膚、口、唇(口唇ヘルペス)、眼、または性器に、液体で満たされた、痛みのある小さな水疱が繰り返し発生します。 この病気は非常に感染性の高い ウイルス感染症であり、潰瘍に直接触れることで感染するほか、ときには潰瘍のない患部に触れることでも感染します。 ヘルペスウイルスは口の中や 性器に水疱や潰瘍を引き起こし、最初の感染時にはしばしば発熱と全身のけん怠感を伴います。... さらに読む 、 サル痘 サル痘(エムポックス) サル痘はサル痘ウイルスによって引き起こされる感染症です。これは天然痘ウイルスと近縁のウイルスで、天然痘と比べて通常は軽く、よく似た病気を引き起こします。 サル痘は、天然痘ウイルスと近縁のサル痘ウイルスによって引き起こされます。 最も目立つ症状は発疹です。 サル痘の診断は通常、皮膚の病変からサンプルを採取し、ウイルスの遺伝物質(DNA)を調... さらに読む など)の結果としても生じ、特に肛門性交の受け側の人によくみられます。
直腸炎はまた、性行為以外で感染する一部の細菌(サルモネラ属)によって引き起こされたり、抗菌薬の使用で腸内の常在菌が減少して他の細菌(クロストリジオイデス・ディフィシル― クロストリジオイデス・ディフィシル腸炎 クロストリジオイデス(以前のクロストリジウム)・ディフィシル(Clostridioides (formerly Clostridium) difficile)腸炎 クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile[C. difficile])腸炎は、大腸(結腸)の炎症で、下痢を生じます。クロストリジオイデス・ディフィシル(C. difficile)という細菌が作る毒素によって炎症が引き起こされますが、これは通常、腸内でのこの細菌の増殖をもたらす抗菌薬を使用した後にみられます。... さらに読む を参照)が替わりに増殖できるようになることで発症する場合もあります。
免疫機能が低下している人も直腸炎を発症するリスクが高く、特に単純ヘルペスウイルスやサイトメガロウイルスによる感染症から発症する可能性が高まります。
直腸炎のさらに別の原因として、前立腺がんや直腸がんの治療のためによく行われる直腸や直腸周囲への放射線療法があります。
直腸炎の症状
典型的な直腸炎では、排便時の痛みを伴ういきみや、痛みを伴わない出血、直腸からの粘液の排出などがみられます。
直腸炎の原因が淋菌感染症、単純ヘルペスウイルス、サル痘、またはサイトメガロウイルスの場合は、肛門と直腸に強い痛みが生じることがあります。
直腸炎の診断
直腸鏡検査またはS状結腸鏡検査
血液検査と便検査
場合により大腸内視鏡検査
直腸炎の診断を下すには、直腸鏡やS状結腸内視鏡(直腸を観察するため管状の機器― 内視鏡検査 内視鏡検査 内視鏡検査とは、柔軟な管状の機器(内視鏡)を用いて体内の構造物を観察する検査です。チューブを介して器具を通すことができるため、内視鏡は多くの病気の治療にも使うことができます。 口から挿入する内視鏡検査では、食道(食道鏡検査)、胃(胃鏡検査)、小腸の一部(上部消化管内視鏡検査)が観察できます。 肛門から挿入する内視鏡検査では、直腸(肛門鏡検査)、大腸下部と直腸と肛門(S状結腸内視鏡検査)、大腸全体と直腸と肛門(大腸内視鏡検査)が観察できま... さらに読む を参照)で直腸内部を観察し、直腸粘膜の擦過サンプルや組織サンプルを採取して調べます。その後検査室で、直腸炎の原因とみられる細菌、真菌、またはウイルスが特定できます。
梅毒の有無を調べる血液検査とクロストリジオイデス・ディフィシルの有無を調べる便検査も行われます。
医師は、クローン病や潰瘍性大腸炎がないか、他の部分を大腸内視鏡検査(内視鏡による大腸全体の診察)で調べることもあります。
直腸炎の治療
原因の治療
特定の細菌感染症が直腸炎の原因であれば、抗菌薬の使用が最善の治療法です。ウイルス感染症には抗ウイルス薬が使用されます。
腸内の常在菌を減少させる抗菌薬の使用が直腸炎の原因であれば、医師はフィダキソマイシンやバンコマイシンを処方することがあり、これらは常在菌に取って代わった有害な細菌を駆除します。
原因が放射線療法で出血を起こしている直腸炎は、コルチコステロイドの泡沫剤を直腸粘膜に直接塗布するか、コルチコステロイドを浣腸で投与して治療します。スクラルファートの浣腸も役立つことがあります。これらの治療が役立たない場合は、出血を止めるために直腸粘膜にホルマリンを直接塗布するか、酸素投与を伴う治療(高気圧酸素治療 再圧治療 再圧治療では、1気圧以上に保たれた密閉されたチャンバーで100%の酸素を数時間吸入します。 ( 潜水による障害の概要も参照のこと。) 再圧治療には血液に対する4つの効果があり、潜水障害の治療に有用です。 酸素濃度を増やす 窒素濃度を減らす さらに読む )を試みることがあります。
直腸炎により直腸内面から出血した場合、アルゴンプラズマ、レーザー、電気凝固術、ヒータープローブを用いて止血できます。