結晶が、関節液や関節の軟骨に蓄積して、様々な程度の炎症や組織の損傷を起こします。
偽痛風の診断は、関節液中にピロリン酸カルシウムの結晶が見つかると確定します。
治療には炎症による痛みと腫れを緩和するための薬を用いますが、いずれも関節内のピロリン酸カルシウムの結晶沈着を減少させるものではありません。
ピロリン酸カルシウム関節炎は、通常は高齢者にみられ、男女差はありません。
ピロリン酸カルシウム関節炎の原因
なぜ、ピロリン酸カルシウム二水和物の結晶が、一部の人の関節にできるかは分かっていません。結晶は、以下に当てはまる人でよく発生します。
過去の関節の損傷がある(手術を含む)
特定のまれな病気(低ホスファターゼ症、 ギッテルマン症候群 バーター症候群とギッテルマン症候群 バーター症候群とギッテルマン症候群では、遺伝による尿細管の異常により、腎臓から電解質(カリウム、ナトリウム、塩素イオン)が過剰に排泄されてしまうため、発育、電解質、ときに神経および筋肉に異常が発生します。 ( 先天性の尿細管疾患に関する序も参照のこと。) バーター症候群とギッテルマン症候群は、遺伝性の病気であり、通常は 劣性遺伝子によって引き起こされます( 非X連鎖(常染色体)劣性遺伝疾患)。したがって、バーター症候群またはギッテルマン... さらに読む 、 低リン血症性くる病 低リン血症性くる病 低リン血症性くる病は、電解質の一種であるリンの血中濃度が低下するために、骨の痛みと軟化が生じ、骨が曲がりやすくなる病気です。 ( 先天性の尿細管疾患に関する序も参照のこと。) この非常にまれな疾患は、ほぼ常に遺伝性です。最も一般的には、X染色体(2種類ある性染色体の一方)にある 優性遺伝子を介して遺伝します。優性遺伝子が関与する病気は1つの遺伝子を受け継ぐだけで発症するため、両親の一方がこの症候群である可能性が高いです。この病気の小児の... さらに読む 、 家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症 家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症 高カルシウム血症とは、血液中のカルシウム濃度が非常に高い状態をいいます。 カルシウム濃度の上昇は、副甲状腺の問題や、食事、がん、骨に影響を及ぼす病気が原因で発生します。 最初に消化管の不調、のどの渇き、多尿がみられ、重症化すると錯乱、やがて昏睡に至ることがあります。発見と治療が遅れると、生命を脅かすことがあります。 高カルシウム血症は通常、普通の血液検査で発見されます。 水分をたくさん摂取するだけで治療としては十分なこともありますが、必... さらに読む など)
高齢
しかし、ピロリン酸カルシウム関節炎患者の多くでは、これらの状態のいずれもみられません。偽痛風は、まれに遺伝性の場合があります。
カルシウムの結晶は、理由は不明ですが、 変形性関節症 変形性関節症 変形性関節症は軟骨と周囲の組織の損傷を引き起こす慢性疾患で、痛み、関節のこわばり、機能障害を特徴とします。 関節の軟骨と周囲の組織の損傷による関節炎は、加齢に伴い、非常によくみられるようになります。 痛みや腫れ、骨の過剰な増殖がよくみられ、起床時や動かずにいた後に生じて30分以内に治まるこわばり(特に関節を動かしていると治まりやすい)も一般的です。 診断は症状とX線所見に基づいて下されます。... さらに読む に侵された関節に出現することがよくあります。ただし、関節へのカルシウム沈着は症状を引き起こさない場合もあります。
ピロリン酸カルシウム関節炎の症状
ピロリン酸カルシウム関節炎の症状は、様々です。一部の患者では、痛風発作に似た、痛みを伴う関節の炎症(関節炎)の発作が、通常は膝、手首、その他の比較的大きな関節に起こります。別の患者では、腕や脚の関節に長引く慢性の痛みやこわばりがあり、 関節リウマチ 関節リウマチ(RA) 関節リウマチは炎症性関節炎の1つで、関節(普通は手足の関節を含む)が炎症を起こし、その結果、関節に腫れと痛みが生じ、しばしば関節が破壊されます。 免疫の働きによって、関節と結合組織に損傷が生じます。 関節(典型的には腕や脚の小さな関節)が痛くなり、起床時やしばらく動かずにいた後に、60分以上持続するこわばりがみられます。 発熱、筋力低下、他の臓器の損傷が起こることもあります。... さらに読む や 変形性関節症 変形性関節症 変形性関節症は軟骨と周囲の組織の損傷を引き起こす慢性疾患で、痛み、関節のこわばり、機能障害を特徴とします。 関節の軟骨と周囲の組織の損傷による関節炎は、加齢に伴い、非常によくみられるようになります。 痛みや腫れ、骨の過剰な増殖がよくみられ、起床時や動かずにいた後に生じて30分以内に治まるこわばり(特に関節を動かしていると治まりやすい)も一般的です。 診断は症状とX線所見に基づいて下されます。... さらに読む と似ていることがあります。
痛風発作と比べて、ピロリン酸カルシウム関節炎による発作は強度が多様で、持続時間が長くなる傾向があり、しばしば治療が難しくなります。痛風と同様に、ピロリン酸カルシウム関節炎の発作では発熱することがあります。なかには、大量の結晶が沈着しているにもかかわらず、発作と発作の間は痛みを感じない人や、常に痛みがない人もいます。
結晶が関節の近くの組織に蓄積することが多い痛風と異なり、ピロリン酸カルシウム関節炎の患者では結晶の固いかたまり(痛風結節)ができることはまれです。
ピロリン酸カルシウム関節炎の診断
関節液の顕微鏡検査
ときにX線検査または超音波検査
ピロリン酸カルシウム関節炎は、関節炎がある高齢者で、特に関節に腫れ、熱感、痛みが断続的にみられる場合に疑われます医師は、炎症を起こしている関節から、関節液のサンプルを針で採取(関節穿刺 関節穿刺 筋骨格系の病気は、病歴と 診察の結果に基づいて診断されることがよくあります。医師が診断を下したり確定したりするのを助けるために、 臨床検査や 画像検査、 その他の診断方法が必要になることがあります。 筋骨格系の病気の診断には、臨床検査がしばしば役立ちます。例えば、赤血球沈降速度(赤沈)は、血液が入った試験管の中で赤血球が底に沈んでいく速さを測定する検査です。炎症が起きていると、通常は赤沈の値が上昇します。しかし、炎症は非常に多くの病態で... さらに読む )して診断を確定します。関節液にはピロリン酸カルシウム二水和物の結晶が認められます。これは特別な偏光顕微鏡を用いることで、尿酸結晶(痛風を引き起こす結晶)と見分けることが可能です。
X線検査 X線検査 筋骨格系の病気は、病歴と 診察の結果に基づいて診断されることがよくあります。医師が診断を下したり確定したりするのを助けるために、 臨床検査や 画像検査、 その他の診断方法が必要になることがあります。 筋骨格系の病気の診断には、臨床検査がしばしば役立ちます。例えば、赤血球沈降速度(赤沈)は、血液が入った試験管の中で赤血球が底に沈んでいく速さを測定する検査です。炎症が起きていると、通常は赤沈の値が上昇します。しかし、炎症は非常に多くの病態で... さらに読む では、関節の軟骨の中に結晶のかたまりが認められることがあり、その場合はこの病気が示唆されます。関節の 超音波検査 超音波検査 筋骨格系の病気は、病歴と 診察の結果に基づいて診断されることがよくあります。医師が診断を下したり確定したりするのを助けるために、 臨床検査や 画像検査、 その他の診断方法が必要になることがあります。 筋骨格系の病気の診断には、臨床検査がしばしば役立ちます。例えば、赤血球沈降速度(赤沈)は、血液が入った試験管の中で赤血球が底に沈んでいく速さを測定する検査です。炎症が起きていると、通常は赤沈の値が上昇します。しかし、炎症は非常に多くの病態で... さらに読む によって関節の軟骨に結晶が認められることがあり、ピロリン酸カルシウム関節炎の診断が強く示唆されます。
ピロリン酸カルシウム関節炎の予後(経過の見通し)
炎症を起こした関節は、しばしば何の問題も残すことなく治癒します。しかし、一部の患者では徐々に慢性関節炎と永続的な関節の損傷が起こり、なかには関節がひどく破壊されるために、 神経病性関節症 神経病性関節症 神経病性関節症は進行性の関節破壊を原因とし、この関節破壊は、しばしば急速に進行し、患者が痛みを感じず関節の損傷が続くため関節の損傷の初期の徴候に気づかないことによって発生します。 神経病性関節症は、糖尿病や脳卒中など、神経を侵す基礎疾患の結果として起こります。 神経病性関節症は、関節に損傷を与える傷を患者が感じることができないために起こり... さらに読む (シャルコー関節)と混同されてしまうことがあります。
ピロリン酸カルシウム関節炎の治療
関節液の排出とコルチコステロイドの注射
炎症による痛みと腫れを緩和する薬
理学療法
急性ピロリン酸カルシウム関節炎の治療は急性 痛風 治療 痛風は、尿酸の血中濃度が高いこと(高尿酸血症)が原因で、尿酸の結晶が関節に沈着し蓄積する病気です。結晶が蓄積することで、関節とその周辺に痛みのある炎症の発作が起きます。 尿酸結晶が蓄積すると、関節や組織に激しい痛みや炎症が断続的に起こることがあります。 炎症を起こした関節から採取した液体に尿酸結晶が認められれば、痛風の診断が下されます。... さらに読む の治療と同様です。通常、治療により急性発作を止めて、新たな発作を予防することが可能ですが、すでに損傷した関節の変化を元に戻すことはできません。過剰な関節液を排出させ、コルチコステロイドを関節に注射して炎症と痛みを速やかに軽減することができます。
ピロリン酸カルシウム関節炎の治療には内服薬が役に立ちます。ほとんどの場合、 非ステロイド系抗炎症薬 非ステロイド系抗炎症薬 痛み止め(鎮痛薬)は、痛みの治療に使用される主な薬剤です。医師が痛み止めを選択する際には、痛みの種類および持続期間と、それぞれの痛み止めで予想されるベネフィットとリスクを考慮します。ほとんどの痛み止めは侵害受容性疼痛(損傷による痛み)に対しては効果がありますが、 神経障害性疼痛(神経、脊髄、脳の損傷や機能障害による痛み)に対してはあまり効果がありません。多くのタイプの痛み(特に... さらに読む (NSAID)が急性発作の痛みと炎症を速やかに止めるために用いられます。
コルヒチン(表「」を参照)は、発作の回数を減らすために、低用量(通常は1錠か2錠)を毎日、経口投与されることがあります。
コルチコステロイドの経口薬は、急性ピロリン酸カルシウム関節炎の発作の治療に効果的であり、NSAIDやコルヒチンを服用すべきでない一部の患者で特に有用です。
コルチコステロイド、NSAID、コルヒチンの副作用に患者が耐えられない場合は、免疫系の働きと炎症を抑制する薬(アナキンラ[anakinra]の連日の注射など)が効果的なことがあります。
痛風とは異なり、ピロリン酸カルシウム関節炎に対する特別で効果的な長期の治療法はありません。しかし、理学療法(筋力強化訓練や関節可動域訓練など)が関節の機能を維持するために役立つことがあります。