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骨パジェット病

(変形性骨炎)

執筆者:

Julia F. Charles

, MD, PhD, Brigham and Women's Hospital

レビュー/改訂 2021年 5月
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やさしくわかる病気事典
本ページのリソース

骨パジェット病は、一部の骨の代謝回転に異常が生じる結果、その領域の骨が太く軟らかくなる、骨格の慢性疾患です。

  • 骨の分解と形成が増加し、骨が正常時より厚くなりますが、強度は低下します。

  • 無症状のこともありますが、骨の痛み、骨の変形、関節炎、神経の圧迫による痛みなどの症状がみられることもあります。

  • X線検査で骨の異常が認められます。

  • 痛みと合併症の治療に加えて、ビスホスホネート系薬剤が投与されることがあります。

‏骨パジェット病はどの骨でも発生しますが、最もよくみられるのは骨盤、太ももの骨(大腿骨)、頭蓋骨です。すねの骨(脛骨)、脊椎(椎骨)、鎖骨、上腕骨に発生することは比較的まれです。

40歳未満の人が骨パジェット病を発症することはまれです。米国では、40歳以上の人の約1%にこの病気がみられ、有病率は年齢とともに増加します。ただし、この病気全体の有病率は低下してきているようです。男性では女性と比べて50%多く発症します。骨パジェット病は、欧州(スカンジナビア半島を除く)、オーストラリア、ニュージーランドで多くみられます。

骨パジェット病の原因

正常な骨では、古い骨を分解する細胞(破骨細胞)と新しい骨を作る細胞(骨芽細胞)が互いにバランスよく働くことで、構造と完全性が維持されています。骨パジェット病では、骨の一部の領域で、破骨細胞と骨芽細胞の両方が過度に活性化することで、骨の分解と再構築(骨の リモデリング 骨 と呼ばれます)が極端に加速します。過度に活性化した部分は大きくなりますが、大きいものの、構造的には異常で、もろくなってしまいます。

ほとんどの場合、骨パジェット病の原因は不明です。この病気は遺伝する傾向があります。パジェット病の人の約10%では、特定済みの遺伝子異常の関与が認められ、それ以外の患者でも、おそらくは他の遺伝子異常が関係しています。また、ウイルスが関連していることを示唆する証拠もあります。ただし、この病気が感染するという証拠はありません。

合併症

骨パジェット病で最も多くみられる合併症は次のものです。

最大50%の患者で、患部の骨の近くの関節に変形性関節症が発生します。

また患部の骨は、骨パジェット病によりもろくなっているため、正常な骨よりも骨折しやすい傾向があります。このような骨折を病的骨折といいます。

太くなった骨によって、狭い開口部を通っている神経やその他の構造物が圧迫されることがあります。脊柱管が狭まって脊髄を圧迫することもあります。

まれに、患部の骨を通る血流が増え、心臓に余分な負荷がかかることで、 心不全 心不全 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む 心不全 が起きることもあります。患部の骨を通る血流が異常に多いため、手術中に大量の出血が起きることがあります。骨パジェット病患者の最大1%では、患部の骨ががん化します。この病気が進行して骨のがんができると、通常は 骨肉腫 骨肉腫(骨原性肉腫) 最初から骨に発生する腫瘍は原発性骨腫瘍と呼ばれます。原発性骨腫瘍には、がんではない良性腫瘍と、がんである悪性腫瘍があります。 がんの診断がついたら、 病期診断が行われます。病期(ステージ)とは、がんの侵攻性(腫瘍細胞の顕微鏡下での見た目に基づいて、そのがんが広がる可能性がどれくらいあるか)や、大きさ、周辺の組織に広がっているかどうか、遠く... さらに読む 骨肉腫(骨原性肉腫) (骨にできる悪性腫瘍)が発生します。

骨パジェット病の症状

通常、骨パジェット病では症状がみられません。ただし、骨の痛み、骨の肥厚、骨の変形が生じることがあります。骨の痛みは、深部のうずくような痛みの場合があり、ときに激しい痛みで、夜間に強くなることもあります。肥厚した骨が神経を圧迫することがあり、さらなる痛みの原因になります。変形性関節症が起こると、関節に痛みやこわばりが現れます。

その他の症状は、どの骨が侵されているかで異なります。

頭蓋骨が肥厚することがあり、眉の部分と額がより突出しているように見えることがあります(前頭隆起)。以前よりも大きな帽子が必要になったときに、この肥厚に気がつく人もいます。肥厚した頭蓋骨によって内耳(蝸牛)が損傷し、難聴やめまいが起こることがあります。また、頭蓋骨の肥厚によって神経が圧迫されることがあり、頭痛の原因になります。頭皮に静脈の隆起がみられることもあり、これは、頭蓋骨を通る血流が増加するために起こると考えられます。

骨パジェット病の影響で上腕、太もも、ふくらはぎの骨がもろくなると、それらの骨が曲がったように見え、骨折する可能性が高くなります。また、椎骨が侵されると、骨がもろくなって拡大したりつぶれたりします。椎骨がもろくなると、身長が低くなったり、背中が曲がったりするほか、脊髄の神経が圧迫されて、痛みやしびれ、筋力の低下が生じることがあります。

骨パジェット病の診断

  • X線検査

  • 血液検査

  • 骨シンチグラフィー

骨パジェット病は、別の理由でX線検査や臨床検査を受けた際に偶然発見されることがよくあります。それ以外の場合は、症状や身体診察の結果に基づいて骨パジェット病が疑われることがあります。

骨パジェット病は、X線検査でパジェット病特有の異常がみられることや、臨床検査で血液中のアルカリホスファターゼ(骨細胞形成に関与する酵素)、カルシウム、およびリンの濃度の上昇が確認されることにより、診断を確定することができます。

骨パジェット病の予後(経過の見通し)

骨パジェット病の患者の予後は、ほとんどの場合非常に良好です。ただし、骨腫瘍が発生した場合の予後はよくありません。心不全や脊髄の圧迫など他のまれな合併症を起こした患者も、その合併症の治療が適切な時期に行われて成功しないと、予後が不良なことがあります。

骨パジェット病の治療

  • 痛みと合併症に対する治療

  • ビスホスホネート

骨パジェット病の人で不快な症状がある場合や、難聴、変形性関節症、変形などの合併症のリスクが非常に高いか、これらの合併症があると強く示唆される場合には、治療が必要です。症状がなければ、治療を必要としないこともあります。

アセトアミノフェンや非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)などの一般的に使用される鎮痛薬が、骨の痛みの軽減に役立ちます。片方の脚が曲がって(内反して)短くなった場合は、ヒールリフト装具を使うと歩きやすくなります。ときには、神経への締めつけを緩和したり、骨パジェット病が原因で関節炎を起こした関節を人工関節に置換したりするために手術が必要になることがあります。

ビスホスホネート系薬剤は、骨の代謝回転を阻害する薬です。いくつかのビスホスホネート系薬剤(アレンドロン酸、エチドロン酸、パミドロン酸、リセドロン酸、チルドロン酸[tiludronate]、ゾレドロン酸)のうち1つを、骨パジェット病の進行を遅らせる目的で使用することがあります。ビスホスホネート系で選択すべき薬剤は、多くの場合、ゾレドロン酸です。通常は静脈から投与されるパミドロン酸とゾレドロン酸を除き、この種の薬剤は経口で投与されます。この種の薬剤を使用する目的は以下の通りです。

  • 整形外科手術の前に投与して、手術中に起こる出血を予防または軽減するため

  • 骨パジェット病による骨の痛みを治療するため

  • 合併症(難聴、骨の変形、関節炎、筋力低下、麻痺など)の進行を予防したり、遅らせたりするため(特に手術を受けられない人で)

  • アルカリホスファターゼの血中濃度が正常値の2倍以上ある人での治療のため

ときに、カルシトニンが皮下または筋肉内への注射で投与されます。カルシトニンは、ビスホスホネート系薬剤ほどの効果はなく、他の薬剤が投与できない場合に限り使用されます。ビスホスホネート系薬剤を服用できない場合には、デノスマブが代替薬となりえます。

体重の負荷を支える動きが推奨されます(立つ、歩くなど)。高カルシウム血症を予防するため、過度の床上安静(夜間の睡眠は除く)は可能なら避けるべきです。

骨のリモデリングが急速に進んでいるため、食事で十分な量のカルシウムとビタミンDを摂取すべきです。ビタミンDは、体がカルシウムを吸収して骨に取り込むのを助けます(骨の石灰化と呼ばれるプロセス)。ビタミンDとカルシウムのサプリメントがしばしば必要です。それらが欠乏すると、骨の石灰化が不十分になり(骨軟化症)、骨がもろくなることがあります。

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