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鎌状赤血球症

(ヘモグロビンS症)

執筆者:

Evan M. Braunstein

, MD, PhD, Johns Hopkins University School of Medicine

レビュー/改訂 2022年 7月
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やさしくわかる病気事典
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鎌状赤血球症は、鎌状(三日月形)の赤血球と、異常な赤血球の過剰破壊による慢性貧血を特徴とする、遺伝性のヘモグロビン(酸素を運搬する赤血球内のタンパク質)の遺伝子異常です。

  • 必ず貧血がみられ、ときとして黄疸がみられます。

  • 貧血、発熱、息切れなどが悪化し、長管骨、腹部、胸部などに痛みを伴うと、鎌状赤血球症の疼痛発作(症状が急速に悪化する危険な状態)が疑われます。

  • 電気泳動法と呼ばれる特別な血液検査を使用して、鎌状赤血球症かどうかを判定することができます。

  • 疼痛発作の原因になるかもしれない行動を避けること、感染やその他の病気を治療することが、疼痛発作の予防に役立つ可能性があります。

鎌状赤血球症は、アフリカ人またはアフリカ系アメリカ人を祖先にもつ人にしかほぼみられない病気です。米国では、このような祖先をもつ人の約10%が鎌状赤血球症の原因になる遺伝子を1つ保有しています(言い換えれば、鎌状赤血球形質をもっています)。鎌状赤血球形質をもっている人は、鎌状赤血球症を発症するわけではありませんが、尿に血液が混じるといった一部の合併症のリスクが高まります。アフリカ人またはアフリカ系アメリカ人を祖先にもつ人の約0.3%がこの遺伝子を2つ保有しています。このような人は鎌状赤血球症を発症します。

赤血球の形状

正常な赤血球は柔軟性のある円盤型で、周辺が厚く中央が薄くなっています。一部の遺伝性疾患では、赤血球が変形し、球形(遺伝性球状赤血球症)、楕円形(遺伝性楕円赤血球症)、鎌形(鎌状赤血球症)になります。

赤血球の形状

鎌状赤血球症では、赤血球に含まれるヘモグロビン(酸素を運ぶタンパク質)の形状が異常です。異常な形のヘモグロビンは、ヘモグロビンSと呼ばれます。赤血球に大量のヘモグロビンSが含まれている場合は、赤血球が変形して鎌状になり柔軟性が失われることがあります。ただし、すべての赤血球が鎌状になるわけではありません。感染を起こした場合や血液中の酸素レベルが低下した場合は、鎌状の赤血球の数がさらに多くなります。

鎌状赤血球は壊れやすく、すぐに分解してしまいます。鎌状赤血球は柔軟性に乏しく、最も細い血管(毛細血管)を通過することができないため、結果として血流を遮断し、毛細血管がふさがった組織への酸素供給量が低下します。血流が阻害されると痛みを生じることがあり、長期にわたると、脾臓、腎臓、脳、骨などの臓器にも損傷を与えます。 腎不全 慢性腎臓病 慢性腎臓病では、血液をろ過して老廃物を除去する腎臓の能力が、数カ月から数年かけて徐々に低下します。 主な原因は糖尿病と高血圧です。 血液の酸性度が高くなり、貧血が起き、神経が傷つき、骨の組織が劣化し、動脈硬化のリスクが高くなります。 症状としては、夜間の排尿、疲労、吐き気、かゆみ、筋肉のひきつりやけいれん、食欲不振、錯乱、呼吸困難、体のむくみ(主に脚)などがあります。 診断は血液検査と尿検査によって下されます。 さらに読む 心不全 心不全 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む 心不全 が発生することもあります。

鎌状赤血球症の症状

鎌状赤血球形質

鎌状赤血球形質をもつ人では、赤血球がもろいことはなく、簡単に壊れることもありません。鎌状赤血球形質でも疼痛発作が生じることはありませんが、まれに、軍事訓練やスポーツトレーニングなどの重度の脱水を起こすような極めて激しい運動をしているときに、突然死亡することがあります。

鎌状赤血球症の疼痛発作

激しい運動、登山、酸素供給が不十分な状態での高空飛行、病気など、血液中の酸素量が減少するようなことがあると、鎌状赤血球症の疼痛発作(増悪とも言います)を起こすことがあります。鎌状赤血球症の疼痛発作(血管閉塞症)は、症状が強くなる発作で、貧血の急激な悪化、痛み(腹部、腕や脚の長管骨が多い)、発熱などのほかに、ときには息切れがみられます。重度の腹痛や嘔吐がみられることもあります。ときとして、疼痛発作に以下のような合併症が伴うことがあります。

  • 無形成発作:一部のウイルスに感染していると骨髄での赤血球の生産が止まります。

  • 急性胸部症候群(acute chest syndrome):肺の毛細血管が詰まることで生じます。

  • 脾臓または肝臓における急激な血球の滞溜(臓器に大量の血球が蓄積すること):脾臓または肝臓が急速に大きくなります。

急性胸部症候群は、どの年齢層にも起こりますが、小児に最も多くみられます。通常は激しい痛みと呼吸困難を特徴とします。急性胸部症候群により死に至ることもあります。

小児では、脾臓において急激な鎌状赤血球の滞溜が生じることがあり、脾臓が大きくなったり、貧血が悪化したりします。肝臓における急激な滞溜は比較的まれですが、どの年齢でも起こる可能性があります。

合併症

鎌状赤血球症がある場合は、鎌状赤血球が脾臓に取り込まれるため、ほとんどが小児期に 脾腫 脾腫(脾臓の腫大) 脾腫自体は病気ではありませんが、その原因になっている病気があります。脾腫を引き起こす可能性がある病気はたくさんあります。 感染症、貧血、がんといった多くの病気が脾腫を引き起こすことがあります。 通常、特有の症状がみられることはありませんが、左上の腹部や背中に膨満感や痛みが現れることがあります。 一般には、触診で脾腫を判定できますが、超音波検査などの画像検査を行って、脾臓の大きさを測定することもあります。... さらに読む を発症します。青年期になるまでに脾臓はひどく損傷し、萎縮して機能しなくなります。脾臓は感染に対する防御を担っているため、鎌状赤血球症の人は、 肺炎球菌性肺炎 肺炎球菌感染症 肺炎球菌感染症は、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)(肺炎球菌)という グラム陽性の球状細菌(球菌)(図「 細菌の形状」を参照)によって引き起こされます。この細菌は一般的に、肺炎、髄膜炎、副鼻腔炎、中耳に感染症を引き起こします。 肺炎球菌は、感染者がせきやくしゃみをすると空気中に撒き散らされます。 肺炎球菌感染症により、通常は発熱と全身のけん怠感や、感染部位に応じた他の症状が現れます。... さらに読む などの感染症にかかりやすくなります。特に、ウイルス感染を起こすと赤血球の生産が減少するため、貧血がさらに悪化します。

鎌状赤血球症の小児は比較的胴が短く、腕、脚、手指、足指が長くなります。骨と骨髄が変化することにより、特に手や足の骨に痛みが生じることがあります。発熱を伴う関節痛が起こり、股関節が損傷して、最終的には人工関節が必要になることもあります。

皮膚の血行が悪いと、脚の一部、特に足首の部分に潰瘍が生じることがあります。若い男性では、しばしば痛みを伴う持続性の勃起(有痛性持続勃起症 持続勃起症 持続勃起症(プリアピズム)とは、性欲や性的興奮を伴わない状況で痛みのある異常な勃起が長時間続く状態です。5~10歳の男児と20~50歳の成人男性に最も多くみられます。( 尿路症状の概要も参照のこと。) 陰茎は、空洞のある3つの円筒形の組織で構成されていて、その中を血液が流れるようになっています(勃起組織と呼ばれます)。そのうち大きい方の2本は1対の陰茎海綿体で、並んで位置しています。もう1本は、尿道を取り巻き、円錐型の陰茎の先端(亀頭)... さらに読む )が起こることがあります。持続勃起症の発症により、陰茎が二度と勃起しなくなるほどの回復不能な損傷を受けることがあります。血管が閉塞して脳卒中を起こし、神経系に損傷が生じることもあります。高齢者では、肺と腎臓の機能が低下します。

鎌状赤血球症の診断

  • 血液検査

  • ヘモグロビン電気泳動検査

  • 出生前検査

アフリカ人またはアフリカ系アメリカ人を祖先にもつ若い人に貧血、腹痛や骨の痛み、吐き気がみられる場合は、鎌状赤血球症の疼痛発作が疑われます。鎌状赤血球症が疑われる場合は、血液検査が行われます。血液を顕微鏡で検査すると、鎌状の赤血球や壊れた赤血球の破片がみられます。

別の血液検査であるヘモグロビン電気泳動検査も行われます。電気泳動では、電流を流すと様々な種類のヘモグロビンが分離されるため、異常なヘモグロビンが特定されます。

鎌状赤血球症の疼痛発作でみられる症状によっては、さらに検査が必要になる場合があります。例えば、呼吸困難や発熱がみられる場合、胸部のX線検査を行います。

スクリーニング

鎌状赤血球症では、血縁者もこの病気であったり、鎌状赤血球形質をもっていたりする可能性があるため、血縁者にも血液検査が実施されます。家族計画を立てる上で、子どもが鎌状赤血球症になるリスクを判断するという観点から、鎌状赤血球形質の有無を知ることが重要になることがあります。

米国では、血液検査による新生児スクリーニングが決まって行われます。

妊娠の初期に胎児を調べる検査を行うことができ、子どもが鎌状赤血球症になるリスクがある夫婦に対する 出生前カウンセリング キャリアスクリーニング が可能になります。 羊水穿刺 羊水穿刺 出生前診断は、遺伝性または自然発生的な特定の遺伝性疾患などの特定の異常がないかどうか、出生前に胎児を調べる検査です。 妊婦の血液に含まれる特定の物質の測定に加え、超音波検査を行うことで、胎児の遺伝子異常のリスクを推定できます。 こうした検査は、妊娠中の定期健診の一環として行われることがあります。 検査の結果、リスクが高いことが示唆された場合は、胎児の遺伝物質を分析するために羊水穿刺や絨毛採取などの検査を行うことがあります。... さらに読む 絨毛採取 絨毛採取 出生前診断は、遺伝性または自然発生的な特定の遺伝性疾患などの特定の異常がないかどうか、出生前に胎児を調べる検査です。 妊婦の血液に含まれる特定の物質の測定に加え、超音波検査を行うことで、胎児の遺伝子異常のリスクを推定できます。 こうした検査は、妊娠中の定期健診の一環として行われることがあります。 検査の結果、リスクが高いことが示唆された場合は、胎児の遺伝物質を分析するために羊水穿刺や絨毛採取などの検査を行うことがあります。... さらに読む によって得られた胎児細胞で、鎌状赤血球症の原因遺伝子の有無を検査します。

鎌状赤血球症の治療

  • 疼痛発作の予防を目標とした治療

  • 疼痛発作とその原因に対する治療

治療の目標は以下のものです。

  • 発作の予防

  • 貧血の管理

  • 症状の緩和

幹細胞移植 造血幹細胞移植 造血幹細胞移植とは、健康な人から幹細胞(未分化細胞)を採取し、重篤な血液疾患がある人にそれを注射することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 幹細胞は未分化の細胞で、分裂しながら、より分化した他の細胞に変わっていきます。幹細胞は以下のものから採取することができます。 静脈からの採血 骨髄(骨髄移植) さらに読む によって鎌状赤血球症が治癒することがあります。鎌状赤血球遺伝子をもたない家族や他の提供者から、骨髄や幹細胞が移植される場合もあります。このような移植により病気が治ることもありますが、高いリスクを伴うため、ほとんど実施されません。移植を受けた人は、生涯にわたって免疫抑制薬を服用しなければなりません。

前駆細胞(血球を生産する細胞)に正常な遺伝子を導入する遺伝子治療が、現在研究段階にあります。

鎌状赤血球症の疼痛発作の予防

鎌状赤血球症患者は、血液中の酸素量を減少させる活動を避け、ウイルス感染などの軽い病気でも、すぐに医師の診療を受ける必要があります。感染のリスクが高いため、 肺炎球菌 肺炎球菌ワクチン 肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌 Streptococcus pneumoniae(肺炎双球菌)によって引き起こされる細菌感染症の予防に役立ちます。 肺炎球菌感染症としては、 耳の感染症、 副鼻腔炎、 肺炎、 血流感染症、 髄膜炎などがあります。 詳細については、CDCによる肺炎球菌結合型(PCV13)ワクチン説明書(Pneumococcal Conjugate (PCV13)... さらに読む 髄膜炎菌 髄膜炎菌ワクチン 髄膜炎菌ワクチンは、髄膜炎菌 Neisseria meningitidisによる感染症を予防します。 髄膜炎菌感染症は 髄膜炎(脳を覆う組織の感染症)や 危険な水準の血圧低下(ショック)につながり、死に至ることもあります。これらの細菌は、 小児の細菌性髄膜炎の原因として最も多く、 成人の細菌性髄膜炎の原因としては2番目に多いものです。 詳細については、CDCによる髄膜炎菌ワクチン説明書(Meningococcal... さらに読む インフルエンザ菌 インフルエンザ (流感) インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる肺と気道の ウイルス感染症です。感染すると、発熱、鼻水、のどの痛み、せき、頭痛、筋肉痛、全身のだるさ(けん怠感)が生じます。 ウイルスは、感染者のせきやくしゃみで飛散した飛沫を吸い込んだり、感染者の鼻の分泌物に直接触れたりすることで感染します。 まず悪寒が生じ、続いて発熱、筋肉痛、頭痛、のどの痛み、せき、鼻水、全身のだるさが生じます。... さらに読む インフルエンザ菌b型 インフルエンザ菌 Haemophilus influenzae b型ワクチン インフルエンザ菌 Haemophilus influenzae b型(Hib)ワクチンは、 肺炎や 髄膜炎など、 Hibによる細菌感染症の予防に役立ちます。このような感染症は小児では重篤化することがあります。ワクチンの接種により、小児での重篤なHib感染症の発生率は99%低下しました。このような感染症は、免疫系が正常で脾臓(ひぞう)がうまく機能している成人ではまれです。... さらに読む のワクチン接種を受ける必要があります。小児では通常、生後4カ月から6歳までペニシリンを経口投与します。

鎌状赤血球症のコントロールに薬が役立つ可能性があります。例えば、ヒドロキシカルバミドは、主に胎児にだけみられるヘモグロビンの生産を増加させ、鎌状になる赤血球の数を減少させます。そのため、鎌状赤血球症の疼痛発作および急性胸部症候群の頻度が減少します。鎌状赤血球症の症状と合併症をコントロールするのに役立つ新薬として、L-グルタミン、クリザンリズマブ(crizanlizumab)、ボクセロトール(voxelotor)があります。

貧血の管理

鎌状赤血球症の疼痛発作の治療

鎌状赤血球症の疼痛発作では、入院が必要になることがあります。酸素投与、輸液が行われるほか、痛みを緩和するための薬が投与されます。貧血が重いために、脳卒中、心臓発作、肺の損傷などのリスクがある場合は、 輸血 輸血の概要 輸血とは、血液や血液成分を健康な供血者(ドナー)から病気の受血者(レシピエント)に移すことです。輸血を行うことで、血液が酸素を運ぶ能力を高め、体内の血液量を回復させるとともに、血液凝固の障害を正常にします。 米国では毎年約2100万件の輸血が行われています。典型的な輸血の受血者は以下のような人達です。... さらに読む 輸血の概要 や酸素補給が行われることがあります。感染症など、疼痛発作の原因と考えられる病気があれば治療します。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  • 米国鎌状赤血球症協会(Sickle Cell Disease Association of America):鎌状赤血球症患者とその介護者に、ピアメンタリングを含む包括的な教育と支援を提供しています。

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