がんには多くの種類があり、がんの種類毎に原因や 危険因子 がんの危険因子 多くの遺伝的要因と環境的要因が、発がんのリスクを上昇させます。ただし、発がん物質にさらされている人や他の危険因子をもっている人が必ずがんになるわけではありません。( がんの概要も参照のこと。) 一部の家系では、特定のがんの発生リスクが非常に高いことがあります。リスクが増大する原因は、単一の遺伝子による場合もあれば、いくつかの遺伝子の相互作... さらに読む も異なりますが、医師は約40%のがんは予防可能であると推定しています。また、個人によってそれぞれのがんの発症リスクも異なります。したがって、誰にでも効果的な予防策というものはありません。しかし、多くの人でがんやがんの合併症のリスクを低下させる一般的な戦略はいくつか存在します。このような一般的な戦略は、以下の3種類に分類されます。
一次予防:特定の種類のがんの発生リスクを低下させるためにとることのできる対策
二次予防:すでに何らかのがんにかかっているかもしれないが、症状が出ていない人に向けての対策
三次予防:がんによる影響を遅らせて合併症を予防するための対策
スクリーニング検査 スクリーニング検査 多くの様々な病気で同じような症状が現れることがあるため、原因を特定するのはかかりつけ医などの医師にとって困難な場合があります。医師はまず、問診と診察によって基本的な情報を集めます。たいていの場合、診断を下すにはこれだけで十分です。少なくとも、基本的な情報によって、可能性のある診断のリストを絞り込み、行う必要のある検査の数を減らすことができ... さらに読む は特定のがんの二次予防の一部です。個人に関する情報、特にその人の がんの危険因子 がんの危険因子 多くの遺伝的要因と環境的要因が、発がんのリスクを上昇させます。ただし、発がん物質にさらされている人や他の危険因子をもっている人が必ずがんになるわけではありません。( がんの概要も参照のこと。) 一部の家系では、特定のがんの発生リスクが非常に高いことがあります。リスクが増大する原因は、単一の遺伝子による場合もあれば、いくつかの遺伝子の相互作... さらに読む および身体診察の結果に基づいて、みつかっていないがんを検索するための検査を行います。悪性腫瘍や前がん性の腫瘍を早期に発見することで、命が救われます。そのため、推奨される がんのスクリーニング検査 がんのスクリーニング スクリーニング検査は、症状がまだ現れない段階で、病気があるかどうかの可能性を調べるために行う検査です。スクリーニング検査は、通常は決定的なものではありません。その結果は、さらなる診察や検査によって確定されたり否定されたりします。 医師ががんを疑えば、 診断検査が行われます(... さらに読む を受けることが重要です。例えば、子宮頸部の細胞に生じる前がん性の変化を検出するための 子宮頸部細胞診 子宮頸がんのスクリーニング検査 医師は、 スクリーニング検査を勧めることがあります。スクリーニング検査とは、症状がない人に対して病気の有無を調べるために行われる検査です。女性に生殖器系に関連する症状(婦人科疾患の症状)がある場合、症状を引き起こしている病気を特定するための検査( 診断目的の検査)が必要になることがあります。... さらに読む は、 子宮頸がん 子宮頸がん 子宮頸がんは子宮頸部(子宮の下部)に発生します。子宮頸がんの大半は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって引き起こされます。 子宮頸がんは通常、性的接触の際に感染するヒトパピローマウイルス(HPV)による感染の結果として発生します。 最初の症状は通常、不規則な性器出血(不正出血)(通常は性行為後)ですが、がんが大きくなるか広がるま... さらに読む のスクリーニング検査の1つの方法です。大腸内視鏡検査は、 大腸がんのスクリーニング検査 スクリーニング検査 大腸がんのリスクは、家族歴や食事に関する一部の要因(低繊維、高脂肪)によって高まります。 典型的な症状としては、排便時の出血、疲労、筋力低下などがあります。 50歳以上の人ではスクリーニング検査が重要です。 診断を下すために大腸内視鏡検査がよく行われます。 早期に発見された場合に最も高い治癒の可能性があります。 さらに読む の1つです。スクリーニング検査中に前がん性の 結腸ポリープ 結腸と直腸のポリープ ポリープは、腸のような中空の臓器の壁から増殖した組織が突出したものです。 ポリープの中には遺伝性疾患により生じるものがあります。 下血が最もよくみられる症状です。 一部のポリープはがん化します。( 大腸がんを参照) 診断を下すために大腸内視鏡検査が行われます。 さらに読む が見つかれば、それを取り除くことで大腸がんにかかる可能性を減らすことができます。
生活習慣の要因
減らすことのできる主な危険因子として、生活習慣の要因があります。主な要因としては、タバコへの曝露、飲酒、肥満、予防または回避可能な感染症(B型肝炎 B型肝炎(慢性) B型慢性肝炎は、B型肝炎ウイルスを原因とし、6カ月以上持続している肝臓の炎症です。 ほとんどのB型慢性肝炎患者では症状がありませんが、全身のだるさを感じ、疲れを覚え、食欲を失う場合もあります。 B型慢性肝炎があると肝臓がんのリスクが増大します。 血液検査の結果に基づいてB型肝炎の診断が下され、ときとして肝傷害の程度を確認するために肝生検が... さらに読む 、 C型肝炎 C型肝炎(慢性) C型慢性肝炎は、C型肝炎ウイルスを原因とし、6カ月以上持続している肝臓の炎症です。 C型肝炎は、肝臓にひどい損傷を与えるまでは症状を引き起こさないことがよくあります。 C型慢性肝炎の診断は、血液検査の結果に基づいて下されます。 C型慢性肝炎によって肝硬変が生じた場合、6カ月毎に肝臓がんのスクリーニングを行います。... さらに読む 、 ヒトパピローマウイルス ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは、 HPVの中でも以下の病態を引き起こす可能性が非常に高い株による感染の予防に役立ちます。 女性の 子宮頸がん、 腟がん、 外陰がん 男性の 陰茎がん 肛門がん 尖圭コンジローマ さらに読む )などがあります。食事などの生活習慣を変えることで、一部のがんのリスクを低下させることがあります。どの程度リスクを低下させることができるかは、がんの種類によって異なります。
食習慣を変える 食事とがん 特定の食べものによってがんが発生するリスクが増大または減少するかどうかは、多くの研究で検討されています。残念ながら、様々な研究によって相反する結果が得られているため、がんのリスクに対する食べものや サプリメントの影響を明らかにすることは困難です。一般的な問題として、特定の食べものを多く摂取した人が特定のがんになる割合が低いとみられることが... さらに読む ことで、リスクが低下するがんが数種類あります。
アルコール摂取量を減らすと、頭頸部、肝臓、食道のがんのリスクを低下させることができます。
脂肪の摂取量を減らすと、乳がんと結腸がんのリスクが低下するとみられています。
加工肉の摂取を制限し、全粒穀物や果物、野菜の摂取量を増やすと、一部のがんのリスクが低下する可能性があります。
肉の調理方法によっても、がんのリスクが増加する可能性があります。肉を直火で焼いたり、網焼きにしたり、炒めたりすると、結腸がんとの関連が報告されている特定の化学物質が発生します。ほかの調理方法にすることで、そのような化学物質の発生を減らし、結腸がんのリスクを減らせる可能性があります。
タバコの使用はすべてのがんの3分の1に直接関与します。喫煙せずタバコの煙を避けると、肺、腎臓、膀胱、頭頸部のがんやその他のいくつかの種類のがんのリスクを大きく低下させることができます。 禁煙 禁煙 禁煙は非常に困難なことが多いですが、喫煙者が自分の健康のためにできる最も重要なことの1つです。 禁煙はすぐに健康上の便益をもたらし、便益は時間の経過とともに大きくなります。 禁煙する人は、イライラし、不安で、悲しく、落ち着きのない状態になることがありますが、これらの症状は時間の経過とともに軽減します。... さらに読む する人もがんのリスクを低下させることができ、リスクは時間が経つにつれて低下していきます。無煙タバコ(嗅ぎタバコや噛みタバコ)をやめると、口の中や舌にできるがんのリスクが低下します。現喫煙者または過去15年以内に喫煙したことのある人は肺がんスクリーニング検査の候補です。
過体重または肥満はがん(特に乳がん、結腸がん、子宮内膜がん、食道がん、腎臓がん、膵臓がん)のリスクを高めます。食事と運動の両方を通じて健康な体重を維持するよう努めるべきです。運動自体によって乳がん、子宮内膜がん、前立腺がんのリスクが低下する可能性があります。
環境的要因
発がん物質とは、がんのリスクを高める物質のことです。アスベスト、ベンゼン、ディーゼルエンジンの排ガスといった一部の発がん物質は職場に存在することがあり、すでに判明している発がん物質を使用する産業に従事する人は、曝露を避けたり最小限に抑えたりするための適切な予防策を講じるべきです。家の中や環境中に存在する発がん物質もあります。例えば、地中に天然に存在する放射性元素が崩壊して放射性のラドンガスになり、特定の地域に住む人々の家の中にたまることがあります。ラドンに曝露すると肺がんのリスクが増加します(特に喫煙者)。
日光への曝露を避ければ(特に昼間)、 皮膚がん 皮膚がんの概要 皮膚がんは最も多くみられるがんです。屋外で働く人、屋外でスポーツをする人、および日光浴の愛好者で特に多くみられます。皮膚の色の薄い人(色白の人)は、作られるメラニンの量が少ないため、ほとんどのタイプの皮膚がんが特に発生しやすい傾向があります。皮膚の一番外側の層(表皮)で保護機能を果たしているメラニンという色素には、紫外線から皮膚を保護する... さらに読む のリスクを低下させることができます。肌の露出を避け、紫外線A波とB波の両方に対して保護する紫外線防御指数(SPF)が30以上の日焼け止めを使うことも、皮膚がんのリスク低下に役立ちます。
がんに対するワクチン
ワクチンの接種(予防接種)により、ウイルスが原因で発生する特定のがんを予防できます。例えば、性行為によって感染する特定の型の ヒトパピローマウイルス ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは、 HPVの中でも以下の病態を引き起こす可能性が非常に高い株による感染の予防に役立ちます。 女性の 子宮頸がん、 腟がん、 外陰がん 男性の 陰茎がん 肛門がん 尖圭コンジローマ さらに読む (HPV)は子宮頸がん、肛門がん、一部の頭頸部がんを引き起こします。最初の性行為を経験する前に HPVの予防接種 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは、 HPVの中でも以下の病態を引き起こす可能性が非常に高い株による感染の予防に役立ちます。 女性の 子宮頸がん、 腟がん、 外陰がん 男性の 陰茎がん 肛門がん 尖圭コンジローマ さらに読む を受けておくと、これらのがんの大部分を予防できます。
また別の例として、B型肝炎ウイルスに感染すると肝臓がんのリスクが高くなります。 B型肝炎ウイルスに対するワクチン接種 B型肝炎ワクチン B型肝炎ワクチンは B型肝炎とその合併症( 慢性肝炎、 肝硬変、 肝臓がん)の予防に役立ちます。 一般に、B型肝炎は A型肝炎より重篤で、死に至ることもあります。症状は軽度のこともあれば、重度のこともあります。食欲減退、吐き気、疲労などがみられます。5~10%の患者ではB型肝炎が慢性化し、肝硬変や肝臓がんに進行することがあります。... さらに読む が肝臓がんの予防に役立ちます。
その他の要因
アスピリンの使用は、大腸がんのリスクを低下させたり、出血による早期診断につながったりする場合があります。
閉経の症状 症状 閉経とは、月経が永久に停止し、妊よう性がなくなることです。 閉経前後の数年間は、エストロゲン濃度が大きく変動して月経が不規則になり、ホットフラッシュ(ほてり)などの症状が起こります。 閉経後は骨密度が低下します。 女性に1年間月経がなければ閉経と診断されますが、確認するため血液検査を行うこともあります。... さらに読む がある女性では、ホルモン療法(例えば、エストロゲンおよびプロゲステロン)を受けることで乳がんのリスクが上昇することがあります。閉経の症状がみられる女性は、ホルモン補充療法を用いることのリスクと便益を慎重に検討し、医療専門家に相談すべきです(閉経に対するホルモン療法 閉経に対するホルモン療法 閉経とは、月経が永久に停止し、妊よう性がなくなることです。 閉経前後の数年間は、エストロゲン濃度が大きく変動して月経が不規則になり、ホットフラッシュ(ほてり)などの症状が起こります。 閉経後は骨密度が低下します。 女性に1年間月経がなければ閉経と診断されますが、確認するため血液検査を行うこともあります。... さらに読む も参照)。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国がん協会(American Cancer Society):がんのリスクを減らすのに役立つ情報