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マラリア

執筆者:

Richard D. Pearson

, MD, University of Virginia School of Medicine

レビュー/改訂 2020年 12月
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やさしくわかる病気事典

マラリアは、5種のマラリア原虫(Plasmodium)のいずれかによって引き起こされる赤血球の感染症です。マラリアは発熱、悪寒、発汗、全身のだるさ(けん怠感)のほか、ときに下痢、腹痛、呼吸窮迫、錯乱、けいれん発作を引き起こします。その他の所見としては、脾臓の腫大や貧血(感染した赤血球が破壊されるのが原因です)のほか、ときに心臓、脳、肺、または腎臓の損傷などがみられます。

  • 通常、マラリアは感染した雌の蚊が人間を刺すことで広がります。

  • 悪寒とふるえ(悪寒戦慄)に続いて発熱がみられるほか、頭痛、全身の痛み、吐き気、疲労感といった症状が現れることもあります。

  • ある種のマラリアでは、せん妄、錯乱、けいれん発作、昏睡、重度の呼吸障害、腎不全、下痢といった重篤な症状が起こり、場合によっては死亡します。

  • 医師は血液サンプル中に原虫を見つけたり、その他の血液検査を行ったりすることで、この感染症の診断を下します。

  • 蚊が繁殖する場所をなくすこと、水たまりにいる幼虫を駆除すること、蚊に刺されないように予防すること、マラリア発生地域への旅行には予防薬を持って行くことがマラリアの予防につながります。

  • この感染症の治療と予防には各種の抗マラリア薬が使用されます(どの薬を使用するかは、感染症の原因になっているマラリア原虫の種類、感染した地域における薬剤耐性の可能性、薬の副作用と費用に応じて決まります)。

マラリアは、感染した雌の蚊が人間を刺すことで広がる原虫感染症です。

米国や多くの先進国では、治療薬や殺虫剤の普及でマラリアはまれな病気になりましたが、世界の熱帯地域では依然として多く、死に至る病気として恐れられています。2018年には、世界のマラリア症例数は2億2800万例で、405,000人が死亡したと推定されていて、その大半が5歳未満の小児です。アフリカ諸国は、全世界のマラリアによる負担に占める割合が不釣り合いに高くなっています。2018年には、マラリア症例の93%とマラリアによる死亡の94%がこの地域で発生しました。マラリア根絶のための世界的取り組み(RBM[Roll Back Malaria]Partnership to End Malaria)が功を奏して、マラリアによる死亡者数は2000年から約60%減少しました。

米国では、毎年約1500件のマラリアが報告されています。その多くは移民や熱帯地域からの訪問者、あるいは熱帯地域から帰ってきた旅行者に発生しています。しかし、少数ではありますが、輸血による感染や、感染した移民または帰ってきた旅行者を刺した国内の蚊に刺されて感染することもあります。

知っていますか?

  • 感染した蚊に刺されても、数カ月から数年間はマラリアの症状が現れないことがあります。

マラリアの感染経路

マラリアの感染サイクルは、雌の蚊がマラリア感染者を刺すことで始まります。蚊は寄生虫の虫卵を含む血液を取り込みます。マラリア原虫が蚊に取り込まれると、原虫は増殖して蚊の唾液腺に移動します。

その蚊が別の人を刺すと、唾液と一緒にマラリア原虫が刺された人の体内に送り込まれます。新しく感染した人の体内で原虫は肝臓へ行き、そこで再び増殖します。原虫は平均1~3週間で成熟し、肝臓を出て赤血球に侵入します。原虫は赤血球の中でさらに増殖し、やがて感染した赤血球を破裂させ、放出された原虫がさらに他の赤血球に侵入します。

非常にまれですが、原虫に感染した母体から胎児への移行、汚染された血液の輸血、感染した臓器の移植、マラリアの患者が使った注射針の使用によって感染することもあります。

マラリアの種類

5種類のマラリア原虫が人間に感染します:

  • 熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum

  • 三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax

  • 卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale

  • 四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae

  • サルマラリア原虫(Plasmodium knowlesi)(まれ)

三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)と熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)は最も一般的な病型のマラリアです。死亡者数は熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)によるものが最も多いです。

三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)と卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)の場合、肝臓内で休眠形態(ヒプノゾイト)になり、成体の原虫を周期的に血流に放出するため、症状が繰り返し引き起こされます。一般的な抗マラリア薬で休眠状態のマラリア原虫を死滅させることはできません。

熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)と四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)は肝臓に長期間とどまることはありません。しかし、成熟した四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)は、数カ月から数年にわたって血液中に存在した後に症状を引き起こすことがあります。

主にサルに感染するサルマラリア原虫(Plasmodium knowlesi)も人にマラリアを引き起こします。その大半は、マレーシアや東南アジアのその他の地域にある森林地帯の近隣に居住しているか、それらの地帯で働いている男性に発生しています。

マラリアの症状と合併症

感染した蚊に刺されると、通常は7~30日後にマラリアの症状が現れますが、何カ月、場合によっては何年も経過してから症状が始まることもあります。

いずれの病型のマラリアでも、その初期段階では以下の症状がみられます。

感染した赤血球が破裂して原虫が放出されるときに、突然ふるえがきて悪寒がし(悪寒戦慄)、その後に41℃に達する高熱が出ます。疲労感と漠然とした不快感(けん怠感)、頭痛、全身の痛み、吐き気が一般的に起こります。たいていは数時間後に熱が下がり、その後に激しい発汗とひどい疲労感が起こります。最初のうちは不定期に発熱が起こりますが、そのうちに周期的になります。一定の間隔で発熱と解熱を繰り返します。三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)と卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)では48時間毎に、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)では72時間毎に発熱する傾向があります。熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)が引き起こす発熱は周期的でないことが多いのですが、48時間毎に発熱することもあります。二日熱マラリア原虫(P. knowlesi)の感染症では、典型的には急激な体温上昇が連日みられます。

感染症の進行とともに、脾臓が腫大し、貧血がひどくなります。黄疸(おうだん)が起こることもあります。

熱帯熱マラリア

熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)による感染症は、マラリアの中で最も危険な病型で、治療しなければ死に至ることもあります。熱帯熱マラリアでは、感染した赤血球が細い血管の壁に付着して血管を詰まらせ、その結果、脳(脳マラリア)、肺、腎臓、消化管など多くの臓器が障害を受けます。

熱帯熱マラリアでは、肺に水がたまり、重度の呼吸障害が起こります(急性呼吸窮迫症候群 急性呼吸窮迫症候群(ARDS) 急性呼吸窮迫症候群は、 呼吸不全(肺機能不全)の一種で、肺に液体が貯留し、血液中の酸素レベルが異常に低下する様々な病気が原因で発生します。 患者は息切れを起こし、呼吸は通常速く浅くなり、皮膚に斑点ができたり、色が青っぽくなったりすること(チアノーゼ)や、心臓や脳などの他の臓器が機能不全に陥ることがあります。 指先のセンサー(パルスオキシメーター)または動脈から血液サンプルを採取する方法で血液中の酸素レベルが測定され、胸部X線検査も行われ... さらに読む )。障害が多くの臓器に及ぶと、血圧の低下が起こり、ときに ショック ショック ショックとは、臓器に向かう血流が減少することで、酸素の供給量が低下し、それにより臓器不全やときに死にもつながる、生命を脅かす状態です。通常、血圧は低下しています。 ( 低血圧も参照のこと。) ショックの原因には血液量の減少、心臓のポンプ機能の障害、血管の過度の拡張などがあります。 血液量の減少または心臓のポンプ機能の障害によってショックが起きると、脱力感、眠気、錯乱が生じ、皮膚が冷たく湿っぽくなり、皮膚の色が青白くなります。... さらに読む に陥ります。他の熱帯熱マラリアの症状には、下痢、黄疸、腎不全などがあります。血糖値(グルコース値)が低下することがあります(低血糖 低血糖 低血糖とは、血液中のブドウ糖の値(血糖値)が異常に低くなっている状態です。 低血糖は、糖尿病を管理するために服用する薬によるものが最も多くみられます。低血糖のまれな原因としては、他の種類の薬、深刻な病態や臓器不全、炭水化物に対する反応(感受性の高い人において)、膵臓のインスリン産生腫瘍、一部の肥満外科手術(減量のための手術)などがあります。 血糖値が下がると、空腹、発汗、ふるえ、疲労、脱力感、思考力の低下といった症状が生じますが、重度の... さらに読む と呼ばれます)。血液中に大量の寄生虫が存在している場合には、血糖値が生命を脅かすほどに低下することがあります。

脳マラリアは熱帯熱マラリアの非常に危険な合併症で、高熱、頭痛、眠気、せん妄、錯乱、けいれん発作、昏睡を引き起こします。これは乳児や幼児、妊婦、マラリアに感染したことのない人、感染リスクの高い地域を旅行する人で起こりやすくなります。

黒水熱は、熱帯熱マラリアのまれな合併症です。これは、多数の赤血球が破裂することで赤血球の内容物(ヘモグロビン)が血液中に放出されることで起こります。放出されたヘモグロビンは尿に排泄されるため、尿の色が黒くなります。腎機能が著しく障害され、透析が必要になることもあります。黒水熱は治療にキニーネを使用している場合に発症しやすい合併症です。

妊婦がマラリアにかかると、新生児の出生体重が軽くなるか、新生児も感染することがあります。また、流産や死産も起こりやすくなります。

マラリアの診断

  • 血液サンプルによる迅速診断法

  • 血液サンプルの顕微鏡検査

マラリア発生地域を旅行中または旅行後に発熱と特徴的な症状がみられた場合、医師はマラリアを疑います。米国では、マラリアにかかった米国人旅行者のうち周期的な発熱がみられるのは半数以下ですが、周期的な発熱があればマラリアが疑われます。

以下によってマラリア原虫(Plasmodium)が検出されるとマラリアの診断が下されます。

  • マラリア原虫によって放出されたタンパク質を血液中に検出する迅速診断法(この検査では、血液サンプルと特定の化学物質が試験紙に垂らされ、マラリアに感染している場合は約20分後に特定のバンドが試験紙に現れます)

  • 血液サンプルの顕微鏡下での観察

可能であれば両方の検査を行う必要があります。顕微鏡検査中にマラリア原虫が認められないものの、依然としてマラリアが疑われる場合、医師はその後も4~6時間毎に血液サンプルを採取して寄生虫の有無を確認します。

マラリア原虫(Plasmodium)の種類によって、治療法、合併症、予後(経過の見通し)が異なるため、検査ではマラリア原虫の種類も調べます。血液サンプルを用いる迅速診断法は、熱帯熱マラリア原虫によるマラリアであれば、顕微鏡検査と同程度の精度で検出できますが、他の種類のマラリア原虫の検出においては、あまり信頼性の高い結果は得られず、2種類以上のマラリアに同時に感染した人を特定することはできません。そのため、可能であれば、血液サンプルを用いる迅速診断法と顕微鏡下での観察を両方行う必要があります。

熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)による感染症が疑われたら、直ちに評価と治療を開始する必要があります。

マラリアの予防

以下の予防法があります。

  • 蚊の駆除

  • 蚊に刺されないようにする

  • 薬剤(マラリア予防薬)の予防的投与

蚊が繁殖しそうな場所をなくし、水たまりに発生するボウフラを駆除するなど、蚊の駆除対策が非常に重要です。

また、マラリアの発生地域に住んでいる人やそうした地域への旅行者には、蚊に接触する機会を減らすために次のような注意が与えられます。

  • 屋内および屋外で殺虫剤(ペルメトリンまたはピレスラム)のスプレーを使用する

  • 扉や窓に網戸を設置する

  • 殺虫剤で処理された蚊帳を使用する

  • 皮膚の露出している部分にDEET(ジエチルトルアミド)を含む防蚊剤を塗る

  • 蚊に刺されないようにするために長ズボンと長袖シャツを着用する(特に日没後)

  • 蚊がいる場所で長時間過ごすことになりそうな場合や、たくさん蚊がいそうな場所に行く場合には、衣服にペルメトリンを吹きかける

ペルメトリンを含んだ製品を衣類や身の回りのものに噴霧する対策が役に立ちます。ペルメトリンの効果は数回洗浄しても保たれます。ペルメトリンを結合させる処理が施された衣服もあり、洗濯を繰り返しても予防効果が保たれます。

DEETを含む防虫剤を使用する人は、以下のことに注意してください。

  • ラベルの記載に従い、防虫剤は皮膚の露出部にのみ使用し、耳の周りには控えめに使用する(眼や口に塗布またはスプレーしない)

  • 使用後は手を洗う

  • 小児に防虫剤を扱わせない(成人が防虫剤を手にとって、小児の皮膚に塗ります)

  • 皮膚の露出部に必要十分な量を使用する

  • 屋内に戻ったら、防虫剤を洗い流す

  • 製品のラベルに記載がない限り、衣類は再着用する前に洗う

マラリア予防薬

マラリアがみられる地域を旅行する場合には、予防のために薬を服用します。予防薬は旅行前から服用を開始し、滞在中も服用し、その地域を離れてからも、薬の種類によって期間は異なりますが服用を続けます。予防薬はマラリア感染のリスクを低減させますが、完全になくすことはできません。マラリアの予防(と治療)には様々な薬が使用されています。

薬剤耐性が深刻な問題になっていて、危険性の高い熱帯熱マラリア原虫に対する治療や、卵形マラリア原虫がみられるいくつかの地域での治療において、特に深刻な事態になっています。そのため、予防薬の選択は地域によって異なります。特定の地域への旅行に関する情報は、米国では米国疾病予防管理センター(CDC:マラリアと旅行者[Malaria and Travelers])から提供されています。

マラリアの予防に最もよく使用される薬は以下のものです。

  • アトバコンとプログアニルの併用(1つの錠剤で)

  • ドキシサイクリン

アトバコン-プログアニルは、1錠の中に両方が入った錠剤を使用し、旅行に出発する1~2日前から毎日服用します。マラリアが発生していることが知られている地域に滞在する間は服用を継続し、さらにその地域を離れてからも7日間は飲み続けます。この薬は十分に耐えられる薬ですが、 副作用 マラリア治療薬の副作用 が出ることがあります。妊婦や授乳中の女性または5キログラム未満の小児には使用されません。三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)や卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)によるマラリアの再発は予防できません。

ドキシサイクリンは、流行地域への旅行に出発する1~2日前から毎日服用します。マラリアが発生していることが知られている地域に滞在する間と、さらにその地域を離れてからも4週間は毎日服用を続けます。この薬の服用は一般的に十分耐えられるものですが、 副作用 マラリア治療薬の副作用 があります。妊婦や授乳中の女性と8歳未満の小児には投与されません。三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)や卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)によるマラリアの再発は予防できません。

マラリア予防薬のその他の選択肢としては、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、メフロキン、プリマキン、タフェノキン(tafenoquine)などがあります。

クロロキンは、旅行の1~2週間前から週1回服用します。滞在中も週1回の服用を継続し、さらにその地域を離れてからも4週間は飲み続けます。クロロキンは、マラリア原虫(Plasmodium)が薬剤耐性を獲得していない数少ない地域でマラリア予防に使用される薬です。ハイチ、ドミニカ共和国、中米のパナマ運河の西側と北側、中東の大部分がそのような地域に含まれます。クロロキンは予防薬で唯一、妊婦が安全に使用できる薬です。そのため妊婦には、マラリア原虫がクロロキンに対する耐性を獲得している地域に旅行しないよう勧められます。

自己免疫疾患の治療にも使用されるヒドロキシクロロキンも、クロロキンと同様、マラリア原虫に有効です。

メフロキンは、旅行の2週間前から週1回服用します。滞在中も服用を継続し、さらにその地域を離れてからも4週間は飲み続けます。メフロキンは多くの地域で効果的な予防法ですが、重度の精神的な副作用などが起こることがあるため、まれにしか使用されません。この薬は、東南アジアでは(ときに他の地域でも)、熱帯熱マラリア原虫に対する予防効果がなかったり、効果が低かったりします。

プリマキンも予防に使用できる薬で、マラリアが主に三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)によって発生している地域に旅行する人を中心に使用されています。プリマキンの使用を開始する前に、比較的多くの人にみられる酵素欠損症である、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症(貧血の主な原因の詳細 貧血の主な原因の詳細 貧血の主な原因の詳細 )の有無を調べる血液検査を行います。プリマキンは赤血球の破壊を起こすことがあるため、G6PD欠損症がある人はプリマキンを使用してはいけません。プリマキンは、旅行の1~2日前から1日1回投与します。滞在中も毎日服用を継続し、さらにその地域を離れてからも7日間は飲み続けます。プリマキンは、他の抗マラリア薬(ドキシサイクリンやアトバコン-プログアニルなど)を服用していて、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)または卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)に大量にさらされた旅行者に対し、マラリアの再発予防のために14日間毎日投与されることもあります。

タフェノキン(tafenoquine)は、マラリアが流行している地域に旅行する人(18歳以上)が利用できるもう1つの選択肢です。しかし、プリマキンと同様、使用を開始する前に、比較的多くの人にみられる酵素欠損症である、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症の有無を調べる血液検査を行います。タフェノキン(tafenoquine)は赤血球の破壊を起こすことがあるため、この欠損症がある人はこの薬剤を使用してはいけません。タフェノキン(tafenoquine)は、旅行の3日前から1日1回服用します。滞在中も7日毎に服用を継続し、さらにその地域から帰ってきた後、旅行中に最後に服用した日から7日後に服用します。タフェノキン(tafenoquine)の単回投与は、他の抗マラリア薬(ドキシサイクリンやアトバコン-プログアニルなど)を服用していて、三日熱マラリア原虫または卵形マラリア原虫に大量にさらされた旅行者に対し、マラリアの再発予防のために用いられます。

予防接種:2021年10月6日、世界保健機関(WHO)は、サハラ以南アフリカをはじめとする、熱帯熱マラリア原虫によるマラリアの感染率が中程度から高い水準にある地域の小児を対象として、RTS,S/AS01(RTS,S) マラリアワクチンの広範な使用を推奨すると発表しました。(WHOが感染リスクのある小児に対して画期的マラリアワクチンを推奨[WHO recommends groundbreaking malaria vaccine for children at risk]を参照のこと。)

マラリアの治療

  • マラリアの治療薬

マラリアの治療を開始した後、ほとんどの人では24~48時間以内に症状が回復しますが、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)が原因の場合は発熱が5日間続くことがあります。

急性マラリアの治療では、次の項目を考慮して薬を選択します。

  • 患者の症状

  • 感染したマラリア原虫の種類

  • 寄生虫が薬剤耐性を獲得している可能性

寄生虫が耐性を獲得しているかどうかは、次の要因に左右されます。

  • マラリア原虫(Plasmodium)の種類

  • 感染した地域

治療計画は、診断検査の結果と曝露部位に基づいて立てられます。しかし、検査ではすべての症例が検出されるわけではなく、またマラリアは治療しないでいると、生命を脅かす可能性があるため、医師がマラリアを強く疑う場合には、検査結果により診断が確定されなくても、マラリアの治療を行います。医師は患者(特に熱帯熱マラリア患者)の血糖値を測定し、血糖値が正常値を下回るとブドウ糖を投与します。

マラリアは生命を脅かす可能性があるため、直ちに治療します。マラリアのほとんどの症例は経口薬で治療できます。薬の内服ができない場合は、アルテスナート(artesunate)(販売業者から迅速に入手できない場合は、米国疾病予防管理センター[CDC]から入手可能です)を静脈内投与することができます。重症のマラリア(判定基準はCDC:重症マラリア[CDC: Severe Malaria]を参照)には緊急治療が必要で、できればアルテスナート(artesunate)を静脈内投与する必要があります。アルテスナート(artesunate)がすぐに使用できない場合は、さし当たりアルテメテル-ルメファントリン、アトバコン-プログアニル、硫酸キニーネ(+ドキシサイクリンまたはクリンダマイシンの静脈内投与)を内服するか、ほかに何も利用できない場合は、メフロキンの内服、または口から薬剤を摂取できない患者には錠剤を砕いて栄養チューブからの投与を行います。

マラリアの流行地域では、地元の薬局で販売されている抗マラリア薬は偽造品であることがあります。そのため、医師は、遠く離れた高リスク地域に行く旅行者に対し、適切な抗マラリア薬を1コース分まとめて携行するよう勧めることがあります。旅行先の医師によってマラリアの診断が下されると、旅行者が携行した薬が使用されます。この戦略により、旅行者は有効な薬を使用できる上に、滞在国における限られた薬剤供給の枯渇を回避することができます。

熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)によるマラリア

治療に用いられる一般的な内服薬には、以下のものがあります。

  • アルテメテル-ルメファントリン

  • 合併症のないマラリアには、アトバコン-プログアニル

アルテミシニンから作られた薬(アルテメテルやアルテスナート[artesunate]など)は現在、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)または他のマラリア原虫(Plasmodium)によるマラリアの治療に世界中で使用されています。アルテミシニンは、クソニンジンという植物を原料とする中国の漢方薬チンハオス(青蒿素[qinghaosu])から作られました。アルテミシニン系薬剤は、内服薬、注射、坐薬として使用されます。いずれもマラリアの予防に役立つほど長く体内に残留しません。しかし、これらの薬は他の抗マラリア薬よりすばやく作用し、一般的に十分耐えられる薬なので、治療には有用です。これらの薬は他の薬と組み合わせることで、薬剤耐性の予防に役立ちます。そうした薬の組合せの1つは、アルテメテルとルメファントリンです(1錠の中に配合)。この組合せは世界中で使用されており、米国で推奨されている治療です。重症のマラリア患者や薬の内服ができない人に静脈内投与が必要な場合は、内服を開始できるまで、アルテスナート(artesunate)が推奨される治療法となります。

合併症がなければ、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)によるマラリアはアトバコンとプログアニルの組合せで治療することがあります。

クロロキンは、ハイチ、ドミニカ共和国、中米のパナマ運河の西側と北側、中東の大部分における、熱帯熱マラリアの治療選択肢の1つですが、世界の他の地域では今やクロロキンへの耐性をもつ熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)が蔓延しています。

以前はキニーネに抗菌薬のドキシサイクリンかクリンダマイシンのいずれかを組み合わせる療法が普及していましたが、アルテメテル-ルメファントリンやアトバコン-プログアニルの方が副作用は少ないです。これらの薬の組合せは、キニーネを投与する治療法に代わって広く使用されるようになりました。

メフロキンは予防の場合より高用量で投与することで治療にも使用できますが、精神的な作用を始めとする重度の副作用が起きる可能性があることから、他の選択肢が利用できない場合にのみ使用されます。また、現在では薬剤耐性が東南アジアで広がっているほか、その他の地域でも報告されています。

三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)および卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)によるマラリア

三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)がクロロキンへの耐性を獲得していることが知られているパプアニューギニアやインドネシアなどの地域を除いて、現在でもクロロキンが選択すべき治療薬です。そのような地域では、アルテメテル-ルメファントリンまたはアトバコン-プログアニルで治療されます。

マラリアの再発を予防するため、治療の最後に、プリマキンを1日1回14日間投与するか、または成人(16歳以上)にはタフェノキン(tafenoquine)を単回投与します。いずれの薬剤も肝臓に潜んでいる寄生虫を死滅させます。これらの薬剤を投与する前に、血液検査でG6PD欠損症の有無を確認します。この欠損症がある人では、プリマキンもタフェノキン(tafenoquine)も赤血球を破壊するため、使用できません。

他の種の原虫によるマラリア

四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)、サルマラリア原虫(Plasmodium knowlesi)には、クロロキンが有効です。クロロキンに耐性をもつ熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)によるマラリアの治療に使用される薬やその組合せは、これらの種類の原虫によるマラリアの治療にも効果的です。これらの寄生虫は肝臓に潜むことはありません。

マラリア治療薬の副作用

アルテミシニン系薬剤(アルテメテルやアルテスナート[artesunate]など)は、ときに頭痛、食欲不振、めまい、脱力などの副作用を引き起こすことがあります。アルテメテル-ルメファントリンの組合せを使用する場合は、ルメファントリンが他の薬と相互作用を起こし、不整脈を引き起こすことがあります。そのため、患者は主治医に使用中の薬をすべて伝えて、薬物間相互作用が起こらないようにすることが重要です。アルテスナート(artesunate)や、場合によっては他のアルテミシニン系薬剤の投与から数週間後に、赤血球の破壊や貧血が起こることがあります。妊婦が対象の場合、アルテミシニン系薬剤は、ほかの選択肢がなく、予想される効果が胎児へのリスクを上回ると考えられる場合に限り使用されます。

アトバコン-プログアニルは、通常は忍容性が良好な配合剤ですが、ときにアレルギー性の発疹や腸の症状を引き起こします。妊娠中または授乳中の女性に対しては、ほかに選択肢がなく、予想される効果が胎児へのリスクを上回ると考えられる場合に限り使用されます。

クロロキンは、推奨された用量で使用する場合、成人のほか、小児や妊婦においても比較的安全です。この薬には苦味があり、かゆみのほか、腹痛、食欲不振、吐き気、下痢といった腸の症状がみられることがあります。この薬を過剰摂取すると死に至る場合があるため、小児の手の届かないところに保管する必要があります。ヒドロキシクロロキンは、抗炎症作用をもつ化学的に近縁の薬で、主に全身性エリテマトーデスや関節リウマチの治療に使用されますが、抗マラリア活性も備えています。副作用はクロロキンのそれと似ています。

ドキシサイクリンは、わずかな割合ですが、腸の症状、女性の腟の真菌感染症、日光に対する過敏による日焼けに似た反応を引き起こすことがあります。薬はコップ1杯の水で服用し、薬が確実に胃に到達するように、数時間は横にならないようにします。薬が胃に到達しなかった場合は、食道に炎症が起きて重度の胸の痛みが発生します。ドキシサイクリンは幼児や胎児に対して恒久的な歯の着色を引き起こすため、8歳未満の小児や妊婦には使用すべきではありません。

メフロキンは、副作用として鮮明な夢や不眠症を引き起こします。また、重度の精神的副作用を引き起こしたり、けいれん性疾患(てんかん)の患者でけいれん発作を引き起こしたり、心臓に影響を及ぼしたりすることもあります。このため、メフロキンはけいれん性疾患、精神的な問題、または心疾患がある人には使用されません。この薬を服用する人には、副作用に関する説明書が渡されます。

キニーネには、頭痛、吐き気、嘔吐、視覚障害、耳鳴りなど、キニーネ中毒と呼ばれる特有の副作用があります。熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)に感染した人の場合は、キニーネで血糖値が低下することもあります。

抗マラリア薬は胎児に悪影響を与えることもあるため、妊婦の治療に際しては専門家と相談すべきです。

マラリアに関するさらなる情報

  • 米国疾病予防管理センター:黄熱およびマラリアに関する国別情報(Centers for Disease Control and Prevention: Yellow Fever and Malaria Information, by Country)

  • 米国疾病予防管理センター:マラリア(Centers for Disease Control and Prevention: Malaria

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