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妊娠中の貧血

執筆者:

Lara A. Friel

, MD, PhD, University of Texas Health Medical School at Houston, McGovern Medical School

レビュー/改訂 2021年 10月
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貧血は第3トリメスター【訳注:日本でいう妊娠後期にほぼ相当】に最大3分の1の妊婦に起こります。貧血の最も一般的な原因は以下のものです。

貧血 貧血 も参照のこと。)

遺伝性貧血(鎌状赤血球症 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症は、鎌状(三日月形)の赤血球と、異常な赤血球の過剰破壊による慢性貧血を特徴とする、遺伝性のヘモグロビン(酸素を運搬する赤血球内のタンパク質)の遺伝子異常です。 必ず貧血がみられ、ときとして黄疸がみられます。 貧血、発熱、息切れなどが悪化し、長管骨、腹部、胸部などに痛みを伴うと、鎌状赤血球症の疼痛発作(症状が急速に悪化する危険な状態)が疑われます。 電気泳動法と呼ばれる特別な血液検査を使用して、鎌状赤血球症かどうかを判定するこ... さらに読む 鎌状赤血球症 ヘモグロビンSC病 ヘモグロビンC症、SC症、E症 ヘモグロビンC症、SC症、E症は、赤血球のヘモグロビン(酸素を運搬するタンパク質)に影響を及ぼす遺伝子変異を特徴とする遺伝性の病気で、赤血球の形が異常になったり、赤血球同士が凝集したりします。赤血球が他よりも速く破壊されるため、慢性貧血が生じます。 ( 貧血の概要と 鎌状赤血球症も参照のこと。) ヘモグロビンC症は、アフリカ人またはアフリカ系アメリカ人を祖先にもつ人に主にみられます。ヘモグロビンC症の原因になる遺伝子を1つ保有する人は、... さらに読む 、一部の サラセミア サラセミア サラセミアは、ヘモグロビン(酸素を運ぶ赤血球中のタンパク質)を形成する4つのアミノ酸の鎖のうち1つの鎖の生産が不均衡なために生じる遺伝性疾患群です。 サラセミアの種類によって症状が異なります。 黄疸のほか、腹部の膨満感や不快感を訴える人もいます。 通常、診断には特別なヘモグロビン検査が必要です。 サラセミアが軽い場合は、ほとんど治療を必要としませんが、重症になれば、骨髄移植が必要になることもあります。 さらに読む )がある場合は、妊娠中に問題が生じるリスクが高くなります。人種、民族的背景、または家族歴からこのような疾患のいずれかの発生リスクが高い場合には、分娩前に定期的に これらの疾患の有無を確認する血液検査 妊娠前の遺伝子スクリーニング 遺伝子スクリーニングは、遺伝する遺伝性疾患をもつ子どもが生まれるリスクが高いかどうかを判断するために行う検査です。遺伝する遺伝性疾患とは、次の世代へ受け継がれる 染色体または遺伝子の病気です。 スクリーニングではカップルの家族歴を評価し、必要に応じて血液や組織のサンプル(頬の内側から採取した細胞など)を分析します。 すべてのカップルが遺伝子スクリーニングを受けることができますが、特に推奨されるのは以下の場合です。... さらに読む を行います。 絨毛採取 絨毛採取 出生前診断は、遺伝性または自然発生的な特定の遺伝性疾患などの特定の異常がないかどうか、出生前に胎児を調べる検査です。 妊婦の血液に含まれる特定の物質の測定に加え、超音波検査を行うことで、胎児の遺伝子異常のリスクを推定できます。 こうした検査は、妊娠中の定期健診の一環として行われることがあります。 検査の結果、リスクが高いことが示唆された場合は、胎児の遺伝物質を分析するために羊水穿刺や絨毛採取などの検査を行うことがあります。... さらに読む 羊水穿刺 羊水穿刺 出生前診断は、遺伝性または自然発生的な特定の遺伝性疾患などの特定の異常がないかどうか、出生前に胎児を調べる検査です。 妊婦の血液に含まれる特定の物質の測定に加え、超音波検査を行うことで、胎児の遺伝子異常のリスクを推定できます。 こうした検査は、妊娠中の定期健診の一環として行われることがあります。 検査の結果、リスクが高いことが示唆された場合は、胎児の遺伝物質を分析するために羊水穿刺や絨毛採取などの検査を行うことがあります。... さらに読む を行って、こうした病気が胎児に認められないかどうかを調べる場合もあります。

妊娠中の貧血の症状

貧血が起こると、血液が正常時と同じだけの酸素を運べなくなります。初めは症状がないか、疲労、脱力、ふらつきなどの漠然とした症状しか現れません。貧血の女性は青白くみえることがあります。貧血が重度になると、脈拍が速くなる場合や遅くなる場合があり、失神や低血圧を起こすこともあります。

貧血が続くと、以下につながる可能性があります。

このような妊婦では、正常な陣痛・分娩の過程で起こる出血によって、貧血が危険なレベルまで悪化する可能性があります。

妊娠中の貧血の診断

  • 血液検査

貧血はたいてい、妊娠確認後の最初の健診で通常医師が調べる血算で見つかります。

妊娠中の貧血の治療

  • 貧血の治療

  • 重度の症状または胎児の特定の問題に対しては、輸血

妊娠中の貧血を是正する対策は、原因により異なります(以下を参照)。

輸血が必要かどうかは、以下に該当するかどうかで変わります。

  • ふらつき、脱力、疲労などの症状が重度である。

  • 貧血が呼吸や心拍数に影響を及ぼしている。

  • 胎児の心拍パターンが異常である。

鉄欠乏または葉酸欠乏による貧血

  • 食事で摂取する鉄の不足(特に青年期の女子)

  • 月経

  • 以前の妊娠歴

女性は正常な状態でも、毎月の月経に伴い定期的に鉄を失います。月経で失われる鉄の量は、女性が1カ月に摂取する鉄の量とほぼ同じです。したがって、女性はあまり鉄を貯蔵できません。

妊娠中に 葉酸欠乏症 葉酸欠乏症 葉酸欠乏症はよくみられます。体は少量の葉酸しか蓄えていないため、葉酸が少ない食事を続けていると、数カ月以内に葉酸欠乏症になります。 生の葉野菜や柑橘類を十分に摂取しないと、葉酸欠乏症になることがあります。 貧血が生じて、疲労、蒼白、易怒性、息切れ、めまいが現れることがあります。 重度の欠乏症の場合、舌が赤くなって痛み、下痢となり、味覚が低下し、抑うつ、錯乱、認知症が生じることがあります。... さらに読む から貧血が起きることもあります。葉酸が不足している場合、胎児に二分脊椎などの脳や脊髄の先天異常(神経管閉鎖不全 神経管閉鎖不全と二分脊椎 神経管閉鎖不全は脳、脊椎、脊髄に生じる先天異常の一種です。 神経管閉鎖不全により、神経損傷、学習障害、麻痺、死亡が起こることがあります。 血液検査、羊水検査、または超音波検査の結果に基づいて出生前から診断できます。 出生後、医師は身体診察を行い、追加の画像検査を行う場合もあります。 母親が妊娠前と第1トリメスター【訳注:日本でいう妊娠初期にほぼ相当】に葉酸を摂取することが、これらの異常の予防に役立つ可能性があります。 さらに読む )が生じるリスクが上昇します。

血液検査により、鉄欠乏性貧血または葉酸欠乏性貧血の診断を確定できます。

貧血は、妊娠中に鉄や葉酸のサプリメントを摂取することにより予防や治療が可能です。妊婦に鉄欠乏症がみられる場合、新生児に通常、鉄剤を投与します。妊娠前および妊娠中に葉酸のサプリメントを摂取することで、子どもの神経管閉鎖不全のリスクが低下します。

鎌状赤血球症

妊娠中に限らず、突然激しい痛みに襲われる鎌状赤血球症の疼痛発作(sickle-cell crisis)が起こることがあります。妊娠前の鎌状赤血球症が重症であるほど、母体や胎児に健康上の問題が生じるリスクや、妊娠中に胎児が死亡するリスクが高くなります。鎌状赤血球貧血は、ほぼ確実に妊娠の経過とともに悪化します。

鎌状赤血球症の女性に定期的に輸血を行うことで、鎌状赤血球症の疼痛発作が起こりにくくなる一方で、輸血された血液に拒絶反応を起こす可能性は高くなります。拒絶反応が起きた状態を同種免疫といい、生命が脅かされることがあります。また、妊婦に輸血をしても、胎児のリスクは低下しません。そのため、輸血は以下のいずれかに該当する場合にだけ行われます。

  • 貧血が原因で症状、心不全、または重度の細菌感染症が起きている。

  • 陣痛・分娩中に出血や敗血症(血液の感染症)などの深刻な問題が発生した。

鎌状赤血球症の疼痛発作が起こった場合、妊娠していない場合と同様の治療を行います。入院させ、輸液、酸素投与、および痛みを緩和する薬剤の投与を行います。貧血が重度の場合、輸血を行います。

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