加齢に伴い、個々の細胞やすべての臓器で変化が起こり、体が変化していきます。それにより機能面や外見が変化します。
(老化の概要 老化の概要 老化は徐々に進んでいく自然な変化の過程で、成人期早期から始まります。中年期早期から、多くの身体機能が徐々に低下し始めます。 特定の年齢に達した時点で、老化したり、または高齢者になったりするわけではありません。伝統的に、65歳が高齢期の始まりとされてきました。しかしその理由は歴史的なもので、生物学に基づくものではありませんでした。何年も前に... さらに読む も参照のこと。)
細胞の老化
細胞が老化するにつれ、機能も衰えます。古い細胞は最終的に死滅しますが、これは体の正常な機能の一部です。
古い細胞が死ぬ理由の1つは、そうなるようにプログラムされているからです。細胞の遺伝子には、誘発されれば細胞死に至るような過程がプログラムされています。アポトーシスと呼ばれるこのプログラム死は、いわば細胞の自殺です。細胞の老化は1つの引き金になります。新しい細胞に場所を空けるために、古い細胞は死滅する必要があります。その他の引き金には、細胞数の過剰な増加や、細胞の損傷などがあります。
古い細胞が死ぬ理由は、細胞は限られた回数しか分裂できないからでもあります。この制限は遺伝子によりプログラムされています。細胞はそれ以上分裂できなくなると、膨張し、その後しばらくしてから死にます。細胞分裂を制限する仕組みとして、テロメアという構造が関与しています。テロメアは、細胞分裂の準備過程で細胞の遺伝物質を移動させるのに使用されます。細胞が分裂するたびに、テロメアは少しずつ短くなります。最終的に、テロメアがごく短くなり、細胞がそれ以上分裂できなくなります。細胞分裂が停止すると、それを老化と呼びます。
細胞の損傷が直接、細胞死の原因になることがあります。放射線、日光、化学療法薬などの有害物質により、細胞が損傷を受ける場合もあります。細胞は、自身の正常な活動で生成される副産物によっても損傷を受けます。フリーラジカルと呼ばれるこれらの副産物は、細胞がエネルギーを生産するときに放出されます。
臓器の老化
臓器がどの程度良好に機能するかは、そこに存在する細胞がいかにうまく機能するかに依存します。老化した細胞の機能はあまり良好ではありません。また、一部の臓器では、細胞が死滅しても置き換わらないため、細胞数が減少します。精巣、卵巣、肝臓、腎臓の細胞数は、体の老化とともに著しく減少します。細胞数が少なくなりすぎると、臓器は正常に機能しません。このように、ほとんどの臓器の機能は年齢とともに衰えます。しかし、すべての臓器が多数の細胞を失うわけではありません。脳はその一例です。健康な高齢者は多くの脳細胞を失わずにいます。脳細胞の顕著な減少が起こるのは、主に 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む を起こした人、または アルツハイマー病 アルツハイマー病 アルツハイマー病は、精神機能が次第に失われていく病気であり、神経細胞の消失、ベータアミロイドと呼ばれる異常タンパク質の蓄積、神経原線維変化といった、脳組織の変性を特徴とします。 最近の出来事を忘れるのが初期の徴候で、続いて錯乱が強くなっていき、記憶以外の精神機能も障害され、言語の使用と理解や日常生活行為にも問題が生じるようになります。 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。... さらに読む もしくは パーキンソン病 パーキンソン病 パーキンソン病は、脳の特定の領域がゆっくりと進行性に変性していく病気です。特徴として、筋肉が安静な状態にあるときに起こるふるえ(安静時振戦)、筋肉の緊張度の高まり(こわばり、筋強剛)、随意運動が遅くなる、バランス維持の困難(姿勢不安定)などがみられます。多くの患者では、思考が障害され、認知症が発生します。 パーキンソン病は、動きを協調させている脳領域の変性によって起こります。... さらに読む などの神経細胞が次第に失われていく病気(神経変性疾患)にかかった人です。
多くの場合、加齢の最初の徴候は筋骨格系に現れます。眼、続いて耳が中年期の初期に変化し始めます。体の内部の機能も大半は年齢とともに低下します。ほとんどの身体機能は30歳手前でピークに達し、その後、徐々にですが連続的に衰退し始めます。しかし、衰退するものの、たいていの機能は十分維持されます。なぜなら、ほとんどの臓器には最初、体が必要とするよりもずっと多くの余力(機能予備能)があるためです。例えば、肝臓の半分が破壊されたとしても、残りの組織で十分に正常な機能が維持できます。したがって、高齢期の機能低下の大半をもたらしているのは、通常は正常な老化現象ではなく病気です。
ほとんどの機能が十分に維持されていても、機能が低下すると、高齢者は激しい運動、環境の過度の温度変化、病気など、様々なストレスに対処しにくくなります。この衰えは薬の副作用を受けやすくなることを意味します。一部の臓器は、ストレスを受けると、他の臓器よりも機能不全が起こりやすくなります。このような臓器には、心臓、血管、泌尿器(腎臓など)、脳などがあります。
骨と関節
(筋骨格系への加齢の影響 筋骨格系への加齢の影響 人は男女ともに、30歳頃から骨密度が低下し始めます。女性では、 閉経後に骨密度の低下が加速します。その結果、特に高齢者では、骨がもろくなり、骨折が起きやすくなります( 骨粗しょう症を参照)。 年齢を重ねるにつれ、関節の軟骨や結合組織に変化が起きてきます。関節の中にある軟骨が薄くなり、軟骨の成分(軟骨に弾力性をもたせるプロテオグリカン)が変化することで、関節の弾力性が低下し、関節が損傷しやすくなります。そのため、一部の人では、関節同士が若... さらに読む も参照のこと。)
骨密度は低下していく傾向があります。骨密度の中等度の低下を骨減少症といい、骨密度の重度の低下(骨密度の低下による骨折の発生を含む)を 骨粗しょう症 骨粗しょう症 骨粗しょう症とは、骨密度の低下によって骨がもろくなり、骨折しやすくなる病態です。 加齢、エストロゲンの不足、ビタミンDやカルシウムの摂取不足、およびある種の病気によって、骨密度や骨の強度を維持する成分の量が減少することがあります。 骨粗しょう症による症状は、骨折が起こるまで現れないことがあります。... さらに読む といいます。骨粗しょう症になると、骨が弱くなり、骨折しやすくなります。女性では閉経後にエストロゲンの生成量が減るため、骨密度の低下が急激に進みます。骨の形成、破壊、再形成という体の正常な過程の中で、エストロゲンは骨が過剰に破壊されるのを防ぐ助けになります。
骨密度の低下の一因として、骨に強度を与えるカルシウム含有量の減少があります。食事から吸収されるカルシウムが少なくなるため、カルシウム量が減少するのです。また、体のカルシウム利用を助けるビタミンD量もわずかに減少します。特定の骨は他の骨より弱くなります。最も影響を受けやすい骨には、大腿骨の股関節側骨端、腕の骨の手首側の骨端(橈骨、尺骨)、脊椎の骨(椎骨)などがあります。
脊椎上部の椎骨の変化により、頭が前に傾き、のどを圧迫します。その結果、飲み込むことが困難になり、窒息しやすくなります。椎骨密度が低下し、その間の組織のクッション(椎間板)は体液を喪失して薄くなり、脊椎が短くなります。これにより、高齢者は背が低くなります。
長年動かしたことによる摩耗や亀裂が一因となり、関節軟骨が薄くなる傾向があります。関節の表面同士が以前のように滑り合わなくなり、関節がいくらか損傷を受けやすくなります。関節を長年使い続けたこと、またはけがを繰り返したことによる軟骨の損傷は、しばしば 変形性関節症 変形性関節症 変形性関節症は軟骨と周囲の組織の損傷を引き起こす慢性疾患で、痛み、関節のこわばり、機能障害を特徴とします。 関節の軟骨と周囲の組織の損傷による関節炎は、加齢に伴い、非常によくみられるようになります。 痛みや腫れ、骨の過剰な増殖がよくみられ、起床時や動かずにいた後に生じて30分以内に治まるこわばり(特に関節を動かしていると治まりやすい)も一般的です。 診断は症状とX線所見に基づいて下されます。... さらに読む をもたらしますが、これは晩年に最もよくみられる病気の1つです。
関節同士を結合する靱帯や筋肉と骨を結合する腱では、弾性が低下しがちで、関節が固いまたはこわばった感じがするようになります。これらの組織もまた弱くなります。このように、ほとんどの人で柔軟性が失われていきます。靱帯や腱が断裂しやすくなる傾向があり、断裂した場合の治りが遅くなります。これらの変化が起きるのは、靱帯と腱を維持する細胞の活動性が低くなるためです。
筋肉と体脂肪
筋肉組織の量(筋肉量)と筋力の減少は30歳前後から始まり、生涯続く傾向があります。こうした減少は、運動不足や筋肉の発達を刺激する成長ホルモンとテストステロンの量が減少することが原因で生じます。また、速筋線維の方が遅筋線維より多く失われるため、筋肉は素早く収縮できなくなります。しかし、成人期において加齢の影響が原因で減少する筋肉量と筋力は約10~15%以下です。病気がなければ、その10~15%を超える損失の大半は定期的に運動することで防ぐことができます。これよりも重度の筋肉減少(サルコペニアといい、文字通り筋肉の喪失を意味します)は、加齢だけではなく、病気または過度の運動不足が原因で生じます。
ほとんどの高齢者には、必要な作業をするのに十分な筋肉量と筋力があります。高齢者にも優れた運動能力を維持している人は多くいます。こうした人々はスポーツで競い合い、元気に運動を楽しんでいます。しかし、どれほど壮健な人でも、加齢による衰えには気づきます。
筋肉を強くするための 定期的な運動 高齢者の運動 次のような健康上の効果が知られているにもかかわらず、65歳以上の人の75%は推奨されるレベルの運動を行っていません。 寿命が延びる 生活の質が向上する(例えば、持久力、筋力、気分、柔軟性、睡眠の質、精神機能) これに加えて、多くの高齢者はどのくらいの強さの運動を行うかを意識しておらず、自分に可能な運動量についても把握していません。 運動は極めて安全に健康を改善できる手段です。身体機能の低下は加齢や病気が原因で起こりますが、いずれも高齢者... さらに読む (レジスタンストレーニング)により、筋肉量と筋力の減少をある程度抑えたり、またはその進行を大幅に遅らせたりすることができます。筋肉を鍛える運動では、重力(腹筋運動または腕立て伏せ)、体重、またはゴムバンドの負荷に対抗して筋肉を収縮させます。このような運動を定期的に行えば、運動していなかった人でも筋肉量と筋力を増強することができます。反対に、運動をしないでいると、特に病気の間の床上安静の場合には、筋肉は大幅に衰えていきます。運動をしない間に、高齢者では若い人に比べ急速に筋肉量と筋力が減少します。例えば、1日間の床上安静で失われる筋肉量を補うために、最大2週間の運動が必要です。
眼
(眼への加齢の影響 眼への加齢の影響 中年になると、水晶体の柔軟性が失われ始め、厚くなりにくくなります。そのため、近くの物に焦点が合わせにくくなります。これが老視( 老眼)と呼ばれる状態です。老視は、老眼鏡や2焦点レンズの眼鏡で矯正できます。その他の加齢による眼への影響については、 加齢に伴う体の変化:眼で詳述しています。 高齢になると、眼に以下のような変化が現れることがあります。 長年にわたり紫外線、風、ほこりにさらされた結果、水晶体が黄色または褐色調になる... さらに読む も参照のこと。)
加齢とともに、以下のような変化が起こります。
水晶体が硬くなり、近くのものに焦点を合わせにくくなります。
水晶体の密度が高くなり、薄暗い場所でものが見えにくくなります。
光の変化に対する瞳孔の反応が遅くなります。
水晶体が黄色くなり、色の感じ方が変化します。
神経細胞が減少し、奥行きの認識力が衰えます。
眼で生成される涙液が減り、眼の乾きを感じるようになります。
多くの場合、視力の変化が老化の最初の明らかな徴候です。
水晶体の変化により、以下のようなことが起こります。
より明るい光が必要:加齢に伴い、水晶体の透明性が低くなるため、薄暗い場所でものを見るのが困難になります。水晶体密度が高くなると、眼の後ろにある網膜に届く光が少なくなります。また、光を感じる細胞がある網膜の感受性が低くなります。そうすると、読書にはより明るい光が必要になります。平均的に、60歳の人が読書する場合は、20歳の人の3倍の光が必要です。
色覚の変化:加齢に伴い水晶体が黄色みを帯びてくるため、色の感じ方が変わります。色が暗く見えるようになり、違う色のコントラストを見分けるのが難しくなります。青色はより灰色っぽく見え、青い印刷や背景が色あせて見えます。ほとんどの人にとって、これらの変化は大したことではありません。しかし、高齢者にとっては、青い背景上の黒い文字または青い文字が読みにくい場合があります。
光の変化に対する瞳孔の反応が遅くなります。瞳孔は周囲の明るさに応じて広がったり狭まったりして、入ってくる光の量を調節します。瞳孔の反応が遅くなった高齢者が暗い部屋に入ると、最初のうちはものが見えなくなります。また、照明の明るい場所に入ったときにも一時的に眼が見えなくなります。また、高齢者は まぶしさ グレアとハロ 眼の外観の変化、色覚異常、ドライアイ、グレアやハロ、奥行き感覚(深径覚)の異常、眼のかゆみ、光過敏症、夜盲症など、いくつかの他の症状や問題が眼に影響を及ぼすことがあります。 奥行き感覚とは、空間内で物の相対的な位置関係を判定する能力のことです。奥行き感覚が損なわれると、2つの物体のうちどちらが自分に近い位置にあるのかが分かりにくくなります。 網膜は、眼の奥にある光を感じる構造物です。カメラのフィルムのような2次元面であり、2次元の像のみ... さらに読む にも敏感になります。ただし、まぶしさに対する感受性の増加は、多くの場合、水晶体の一部に出た濁り、または 白内障 白内障 白内障は、眼の中の水晶体が濁って進行性に視力が損なわれていく病気で、痛みはありません。 視界はかすみ、コントラストが失われ、光の周りに虹のような輪(ハロ)が見えること(光輪視)があります。 医師は、検眼鏡または 細隙灯(さいげきとう)顕微鏡で眼を観察することで白内障を見つけることができます。... さらに読む のためです。
陰影や色調など、細部を見分けるのがより困難になります。その理由はおそらく、眼から脳へ視覚信号を伝える神経細胞の減少によるものです。この変化が奥行きの認識の仕方に影響を及ぼし、距離の判断を難しくします。
高齢者では、視野の中で動く小さな黒い点が増加することがあります。 飛蚊 光視症と飛蚊症 光視症は、外界に対応する光源がないにもかかわらず、チカチカする光、明滅する光、または光の線が見えるように感じる現象です。飛蚊症(ひぶんしょう)は、外界に対応する物がないにもかかわらず、視界にほこりや糸くずのようなものが見える現象です。光視症と飛蚊症はよくみられる症状です。 光視症は、外界から来る光以外の何かが網膜を刺激したときに起こります。網膜は、眼の奥にある光を感じる構造物です。網膜は、この刺激を受け取り、脳に信号を送ります。脳はこの... さらに読む と呼ばれるこれらの小さな点は、正常な液体が眼の中で固まったものです。飛蚊症は視野を著しく妨げるものではありません。その数が急に増えないかぎり、心配する必要はありません。
眼は乾きやすく ドライアイ 眼の外観の変化、色覚異常、ドライアイ、グレアやハロ、奥行き感覚(深径覚)の異常、眼のかゆみ、光過敏症、夜盲症など、いくつかの他の症状や問題が眼に影響を及ぼすことがあります。 奥行き感覚とは、空間内で物の相対的な位置関係を判定する能力のことです。奥行き感覚が損なわれると、2つの物体のうちどちらが自分に近い位置にあるのかが分かりにくくなります。 網膜は、眼の奥にある光を感じる構造物です。カメラのフィルムのような2次元面であり、2次元の像のみ... さらに読む なります。この変化は、眼の表面を滑らかな状態に保つ液体を生産する細胞が減少することにより起こります。涙の生成量が減少することがあります。
眼の外観がいくつか変化します。
白眼の部分(強膜)が黄ばんだり、または茶色に変色したりします。この変化は、長年にわたり紫外線、風、ほこりにさらされた結果として起こります。
特に皮膚の色が濃い人で、白眼に不規則な色のしみが現れます。
灰白色の環(老人環)が眼の表面に現れます。環はカルシウムとコレステロールでできています。視力に影響を及ぼすことはありません。
眼の周りの筋肉が弱くなり腱が伸びるため、眼球から下まぶたが垂れます。 外反 まぶたの内反と外反 まぶたの内反(眼瞼[がんけん]内反)は、まぶたが眼の方向、つまり内側に反転(内反)した状態で、まつ毛が眼球にあたります。まぶたの外反(眼瞼外反)は、まぶたが外側に反転した状態で、まぶたの縁は眼球には触れません。 まぶたの内反とは、まぶたが内側を向いた状態 さらに読む というこの状態は眼球の潤滑を妨げ、ドライアイの一因となります。
眼の周りの脂肪量の減少により、眼が頭部に陥入したようにみえます。
耳
(耳、鼻、のどへの加齢の影響 耳、鼻、のどへの加齢の影響 加齢は、耳、鼻、のどの機能に様々な程度の影響を与えます。加齢に伴う影響は、使いすぎ、騒音への曝露、および感染症の影響の蓄積を原因とする消耗や、薬・アルコール・タバコなどの物質の影響など、様々な要因の結果として発生します。高齢者の中でも、他の人と比べて影響を受けやすい人もいます。 しばしば聴力の低下が進み( 老人性難聴)、特に、高い音が聞こえにくくなります。聴覚障害は、高齢者に多くみられ、その割合は年齢とともに増加します。65歳以上では4... さらに読む も参照のこと。)
聴覚の変化の大部分はおそらく生涯にわたる騒音への曝露と加齢によります(難聴 難聴 世界中で約5億人(世界人口のほぼ8%)が難聴を抱えています。米国では、人口の15%以上に日常のコミュニケーションに影響を及ぼすある程度の難聴があり、最も一般的な感覚障害となっています。発生率は年齢とともに上昇します。永続的な難聴がある18歳以下の小児は2%未満ですが、 乳児期と幼児期の難聴は、言語と社会性の発達に支障をきたすことがあります... さらに読む も参照)。長期間大きな騒音にさらされると、徐々に聴力が損なわれます。とはいえ、大きな騒音への曝露に関係なく、年齢とともにいくぶんかの聴覚の変化が起こります。
耳垢(耳あか)が詰まっていれば簡単に取り除くことができるため、それが難聴の原因になっていないかどうかを確かめるために受診することが重要です。
加齢とともに、高音がより聞き取りにくくなります。この変化は加齢性難聴(老人性難聴)と考えられます。例えば、バイオリンの音の明るい響きがくぐもって聞こえるようになります。
老人性難聴になって最ももどかしく感じられるのは、言葉を理解しにくくなることです。結果的に高齢者には、他者の言葉がもごもごと口ごもっているように思えます。より大きな声で話した場合でも、高齢者は相手の言葉をなかなか理解できません。その理由は、ほとんどの子音(k、t、s、p、chなどの音)は高音であり、子音が言葉を識別するのを助ける音であるためです。母音は音が低いため、聞き取るのが容易です。したがって、高齢者には「Tell me exactly what you want to keep(取っておきたいものを正確に教えてください)」が、「Ell me exaly wha you wan oo ee」などと聞こえることがあります。高齢者の聞き取りを助けるためには、周囲の人は単に大きな声で話すより、子音をはっきりと発音する必要があります。またほとんどの場合、女性や子どもの声の方が高いため、男性の話を理解するよりも女性や子どもの話を理解することの方が難しくなります。徐々に低音の聞き取りも難しくなります。
騒々しい場所または大勢がいるところでは周囲の雑音が多いため、多くの高齢者は聞き取りに支障をきたします。
耳の中から太い毛が生え出ることがあります。
口と鼻
(口と歯への加齢の影響 口と歯への加齢の影響 加齢に伴って、味覚が低下します。高齢者は食べものの味が鈍く感じることがあり、そのためより強い味を求めて、大量の調味料(特に塩、これは一部の人には害になります)を加えたり、非常に熱い食べものを欲して歯ぐきに熱傷(やけど)が生じたりすることもあります。 高齢者は、味を感じる能力に影響を及ぼす病気にかかっていたりそのような薬を使用したりしていることもあります。例として次のような病気があります。... さらに読む および 耳、鼻、のどへの加齢の影響 耳、鼻、のどへの加齢の影響 加齢は、耳、鼻、のどの機能に様々な程度の影響を与えます。加齢に伴う影響は、使いすぎ、騒音への曝露、および感染症の影響の蓄積を原因とする消耗や、薬・アルコール・タバコなどの物質の影響など、様々な要因の結果として発生します。高齢者の中でも、他の人と比べて影響を受けやすい人もいます。 しばしば聴力の低下が進み( 老人性難聴)、特に、高い音が聞こえにくくなります。聴覚障害は、高齢者に多くみられ、その割合は年齢とともに増加します。65歳以上では4... さらに読む も参照のこと。)
概して人は50代になると、味覚や嗅覚が徐々に衰え始めます。どちらも、食べものの風味を十分楽しむのに必要な感覚です。舌は5種類の基本の味、すなわち甘味、酸味、苦味、塩味、うまみしか識別できません(うまみは一般にmeaty[肉のような味]またはsavory[食欲をそそる味]と表現されます)。より微妙で複雑な風味(ラズベリーなど)を区別するには嗅覚が必要です。
年齢とともに、舌にある味蕾の感受性が鈍くなります。この変化は苦味や酸味よりも甘味と塩味に影響を及ぼします。鼻粘膜が薄くなって乾き、鼻の神経終末が変性するため、嗅覚が減退します。しかし、変化はわずかで、通常は微妙な匂いにのみ影響を及ぼします。これらの変化により、多くの食べものが苦く感じられる傾向があり、匂いの少ない食べものでは味が薄く感じることもあります。
生産される唾液の減少が一因となって、口腔乾燥(口の中の乾燥)をよく感じるようになります。 口腔乾燥 口腔乾燥 口腔乾燥は、唾液の分泌が減少または停止することで発生します。この状態は、不快感を引き起こし、発話や飲み込みを妨げ、入れ歯の装着を難しくし、 口臭を引き起こし、また口内の酸性度を低下させ細菌の増殖が多くなることで口の衛生状態を悪化させます(これが う蝕発生の一因となります)。長期にわたる口腔乾燥の結果、重度のう蝕や口の カンジダ症が生じることがあります。口腔乾燥は高齢者によくみられる症状です。... さらに読む はさらに味覚を衰えさせます。
年齢とともに、歯肉がわずかに退縮します。その結果、歯の下部が食物片や細菌にさらされます。また、歯のエナメル質がすり減る傾向にあります。これらの変化と口腔乾燥により、 う蝕 う蝕 う蝕とは、歯が浸食された部分のことであり、歯の外側の硬いエナメル質が徐々に溶かされて歯の内部へと侵されていく結果起こります。 ( 歯の病気の概要も参照のこと。) 細菌や食べもののかすが歯の表面に蓄積し、細菌がう蝕の原因になる酸を作ります。 う蝕が歯の内部に達すると歯に痛みを感じます。 う蝕は、歯科医師による定期的な歯の診察とX線検査によって発見できます。 さらに読む になりやすく、歯が失われやすくなります。
加齢に伴い、鼻は長く大きくなり、先が垂れ下がる傾向があります。
鼻腔、上唇、あごに太い毛が生えることがあります。
皮膚
(皮膚への加齢の影響 皮膚への加齢の影響 年齢を重ねるにつれ、 真皮と 表皮は薄くなっていきます。その下の 皮下脂肪層も失われることがあります。皮膚の3つの層の体積が減り、全体として機能が低下することによって、いくつかの変化が生じます。皮膚の弾力性が低下します。バリア機能が損なわれ、皮脂などの不可欠な脂分の分泌が減ることで、皮膚が乾燥してきます。皮膚の中にある神経終末(神経の末端部)の数が減り、それにより皮膚の感覚が鈍くなります。汗腺や血管の数も同様に少なくなり、暑さに対する皮... さらに読む も参照のこと。)
皮膚は薄くなり、弾力を失い、乾燥し、細かいしわがよります。しかし、しわや肌荒れ、しみには、長年にわたり日光にさらされてきたことが大きく関与しています。日光にさらされないようにしてきた人は、多くの場合、同年代の人より若くみえます。
コラーゲン(皮膚を強くする丈夫な繊維状の組織)とエラスチン(皮膚に弾力性を与える)が化学的に変化し、柔軟性が失われることが一因となって皮膚が変化し、また高齢者の体ではコラーゲンとエラスチンの生成も減少します。その結果、皮膚が裂けやすくなります。
また、皮下脂肪の層が薄くなります。この層は皮膚のクッションとして働き、皮膚を保護し、支える助けになります。また、皮下脂肪には体の熱を逃がさないという働きもあります。この層が薄くなると、しわができやすくなり、寒さに弱くなります。
皮膚に分布する神経終末の数が減ります。その結果、痛み、温度、圧力に対する感受性が鈍くなり、けがをしやすくなります。
汗腺や血管の数が少なくなり、皮膚の深層部の血流が減少します。その結果、体の内側から表面まで血管を通して熱が移動しにくくなります。体内から逃げる熱が少なくなるため、体が冷えにくくなります。したがって、熱中症など高温に伴う病気のリスクが増加します。また、血流が減少すると、皮膚の治癒が遅れる傾向があります。
色素産生細胞(メラノサイト)の数が減少します。その結果、日光などの紫外線(UV)から皮膚を護る効果が小さくなります。日光にさらされてきた皮膚に大きくて茶色い斑点(しみ)が現れますが、これはおそらく老廃物を取り除く皮膚の能力が衰えたためです。
脳と神経系
(神経系への加齢の影響 神経系への加齢の影響 ( 脳と神経系の老化も参照のこと。) 脳の機能は通常、小児から成人へ、さらに老人へと年齢を重ねるにつれて変化します。小児期には思考力と判断力が着実に向上するため、小児はより複雑な技術を次々と習得していくことができます。 成人期の大部分では、脳の機能は比較的安定しています。 一定の年齢を超えると、個人差はあるものの、脳の機能は低下していきます。人によっては、脳の一部の領域が、機能の喪失を見ることなく、最大年1%のペースで小さくなっていきま... さらに読む も参照のこと。)
一般的に脳の神経細胞の数が減少します。しかし、脳は以下のようにしてこの減少を部分的に補うことができます。
細胞が失われると、残っている神経細胞間に新しい結合がつくられます。
脳のいくつかの領域では、高齢期でも新しい神経細胞がつくられることがあります。
脳にはほとんどの活動に必要な数を超える細胞があります(余剰性と呼ばれる特性)。
脳内でメッセージを送るのに関与する化学物質の量は減少していく傾向がありますが、増加するものもあります。神経細胞はこのような化学的なメッセージを受け取る受容体の一部を失います。脳への血流が減少します。これらの加齢に伴う変化により、脳の機能がわずかに低下します。高齢者は反応や作業がいくらか遅くなることがありますが、時間があれば正確に行うことができます。語彙、短期記憶、新しいことを覚える能力、言葉を思い出す能力など、一部の精神機能が70歳以降わずかに低下します。
60歳を過ぎる頃から、脊髄の細胞数が減り始めます。通常、この変化は力または感覚には影響を及ぼしません。
年齢を重ねるにつれて、神経が信号を伝える速度も落ちていきます。この変化は小さいため、通常、人はこれに気づきません。また、神経の自己修復が遅く不完全になります。したがって、神経損傷のある高齢者では、感覚や力が低下します。
心臓と血管
(心臓と血管への加齢の影響 心臓と血管への加齢の影響 心臓は加齢とともに変化していきます。多くの変化は心疾患の発生によるもので、心疾患は加齢とともに多くなっていきます。一方で、加齢自体による変化もあります。( 心臓の生物学も参照のこと。) 加齢に伴い、心臓の体積は若干増大し、心臓の壁は厚くなり、心房や心室の容積はやや大きくなる傾向があります。心臓が大きくなる主な理由は、個々の心筋細胞が大きくなるためです。厚くなった壁は硬くなりますが、そのために、心室から血液が送り出されるまでに心室が十分な... さらに読む も参照のこと。)
心臓と血管が硬くなります。心臓に血液が送り込まれる速さが遅くなります。動脈が硬くなり、多くの血液が送り出されたときに拡張しにくくなります。したがって、血圧が上昇する傾向があります。
このような変化はありますが、健常な高齢者の心機能は良好です。若い人と高齢者の心臓の差が明らかになるのは、心臓が激しく働き、多くの血液を送り出さなければならない場合、例えば運動時または病気のときだけです。高齢者の心臓は若い人のように速く打ったり、または多くの血液を速く送り出したりすることはできません。そのため、高齢の運動選手は若い選手と同じようには運動ができません。しかし、定期的な有酸素運動によって、高齢者の運動能力は向上します。
肺と呼吸筋
(呼吸器系への加齢の影響 呼吸器系への加齢の影響 呼吸器系も、他の器官と同様に、加齢によって最大機能が徐々に低下します。加齢に伴う肺の変化には以下のものがあります。 ピークフロー(どれだけ速く空気を吐き出せるか)と 二酸化炭素と酸素の交換量の減少 肺活量(空気を最大限に吸い込んでから、吐き出すことのできる空気の最大量)など、 肺機能検査の測定値の低下 呼吸筋の筋力低下 肺の防御機構の有効性の減弱 さらに読む も参照のこと。)
呼吸で使われる筋肉は肋骨の間にある筋肉と横隔膜ですが、これらは弱くなる傾向にあります。空気の袋(肺胞)の数と肺毛細血管が減少します。したがって、吸い込んだ空気から取り込まれる酸素がやや減少します。肺の弾力性が低下します。喫煙しない人または肺疾患のない人では、これらの変化が日常生活に影響を及ぼすことはありませんが、運動が困難になる可能性があります。酸素が薄い高地での呼吸も困難になります。
微生物を含む異物を気道から取り除く細胞の能力が低下し、それが一因となって、感染に対する肺の抵抗力が低下します。せきも肺をきれいにする助けになりますが、これも弱くなりがちです。
消化器系
(消化器系への加齢の影響 消化器系への加齢の影響 消化器系には予備的な機能が多く備わっているため、加齢による機能面の影響は他の器官系より少ないです。それでも、消化器系のいくつかの病気では、加齢が要因の1つになっています。特に高齢者では、 憩室症(けいしつしょう)が発生したり、特定の薬の副作用として消化管の病気(例えば 便秘― 結腸と直腸を参照)がみられたりする可能性が高まります。 ( 消化器系の概要も参照のこと。) 加齢に伴い、... さらに読む も参照のこと。)
体の大部分と比較して、消化器系は全体的に加齢の影響を受けません。食道の筋肉の収縮力は弱くなりますが、食道を通過する食べものの動きは影響を受けません。食べものが胃から出ていく速度はわずかに遅くなり、胃の弾力性が弱くなるため多くの食べものが入らなくなります。これらの変化はわずかであるため、ほとんどの人はそれに気づきません。
ある種の変化は、一部の人に問題を起こします。消化管で、ミルクの消化に必要な酵素であるラクターゼ(乳糖分解酵素)の生成量が減少します。その結果、高齢者は乳製品の不耐症(乳糖不耐症 乳糖不耐症 乳糖不耐症とは、消化酵素のラクターゼの欠乏により乳糖が消化できない状態のことで、下痢や腹部のけいれん痛を起こします。 乳糖不耐症は酵素のラクターゼが欠乏しているために起こります。 小児における症状には、下痢と体重増加の遅れなどがあり、成人における症状には、腹部の膨満やけいれん痛、下痢、鼓腸、吐き気などがあります。 診断は、乳製品を摂取した後に症状が現れることを確認することに基づいて下され、水素呼気試験で確定できます。... さらに読む )を発症しやすくなります。乳糖不耐症の人は、乳製品を摂取した後に、膨満感、ガスまたは 下痢 成人の下痢 下痢は、便の量や水分、排便回数が増加することです。( 小児の下痢も参照のこと。) 排便回数が多いだけでは、下痢を決定づける特徴とはいえません。正常な状態で1日に3~5回排便する人もいます。野菜に含まれる食物繊維をたくさん食べる人は、1日に約500グラム以上の便を排泄することがありますが、この場合の便はよく固まっていて、水様便ではありません。下痢になると腸内ガス、差し込むような腹痛、便意の切迫を伴うことが多く、下痢が感染性微生物や有害物質... さらに読む が生じることがあります。
便が大腸を通過する速度がわずかに遅くなります。これにより、人によっては 便秘 便秘 便秘は、排便しにくい、排便回数が少ない、便が硬い、または排便後に直腸が完全に空になっていない感覚(残便感)がある状態です。( 小児の便秘も参照のこと。) 便秘には急性のものと慢性のものがあります。急性便秘は突然起こり、はっきりと現れます。慢性便秘は、徐々に始まり数カ月ないし数年間持続することがあります。 毎日排便しなければ便秘だと思う人はたくさんいます。しかし、誰にとっても毎日排便があることが正常というわけではありません。1日1~3回の... さらに読む になります。
肝細胞の減少により、肝臓が小さくなる傾向があります。通過する血流が減少し、薬や他の物質の代謝を助ける肝酵素の働きが弱くなります。その結果、薬や他の物質を体外に排出するのを助ける肝臓の能力がやや低下します。薬の影響(意図した効果と意図しない作用の両方)が長く続くようになります。
腎臓と尿路
(尿路への加齢の影響 尿路への加齢の影響 加齢に伴い、 泌尿生殖器全体にいくつかの変化がみられるようになります。 年齢を重ねるにつれて、 腎臓の重量はゆっくりながら着実に減っていきます。30~40歳を過ぎると、約3分の2の人では(腎臓に病気がない人でも)腎臓での血液のろ過量が次第に低下していきますが、残り3分の1の人では、ろ過の量に変化はみられません。このことから、年齢以外の要因が腎機能に影響を及ぼしている可能性があります。... さらに読む も参照のこと。)
細胞数の減少により、腎臓は小さくなる傾向があります。腎臓の血流が少なくなり、30歳前後から血液ろ過率の低下が始まります。年が経つにつれ、血中の老廃物の除去能力が低下します。水分が過剰に排出されるのに対し塩分の排出はわずかで、脱水になりやすくなります。しかし、たいていは体が必要とする十分な機能を維持しています。
ある種の尿路の変化により、排尿調節が困難になる場合があります。
膀胱が貯めておける尿の最大容量が減少します。したがって、高齢者は頻繁な排尿が必要になります。
排尿の必要性の有無にかかわらず、膀胱の筋肉が予期せず収縮することがあります(過活動膀胱)。
膀胱の筋肉が弱くなります。その結果、膀胱を完全に空にすることができず、排尿後も尿が膀胱に残ります。
排尿を調節する筋肉(尿道括約筋)がしっかりと閉じなくなり、尿漏れを防げなくなります。したがって、高齢者は排尿を我慢できなくなります。
これらの変化が、年齢とともに 尿失禁 成人の尿失禁 尿失禁とは、自分では意図せずに尿が漏れることです。 尿失禁は、男女とも年齢を問わず起きる可能性がありますが、女性と高齢者でより多くみられ、高齢女性の約30%、高齢男性の約15%が尿失禁を起こしています。尿失禁は高齢者でより多くみられるものの、加齢に伴う正常な変化の一部ではありません。尿失禁は、利尿効果のある薬を服用した場合のように突然で一時的なこともあれば、長期にわたって持続すること(慢性)もあります。慢性の尿失禁であっても、ときに軽減... さらに読む (排尿をコントロールできない状態)が多くなる一因になります。
女性では、尿道(排尿時に尿が通る管)が短くなり、その内層が薄くなります。閉経に伴って生じるエストロゲンの減少が、尿路のこれらの変化に関与している可能性があります。
男性では、前立腺が大きくなる傾向があります。多くの男性で、肥大した前立腺により、尿の通過を妨げられ膀胱を完全に空にすることができなくなります。その結果、高齢男性では尿の勢いが弱まり、排尿までに時間がかかり、排尿終了時に尿がポタポタと滴り、頻尿になります。また、膀胱が満杯になっていても排尿できなくなる(尿閉 尿閉 尿閉とは、膀胱から尿をまったくまたはほとんど排出できなくなった状態のことです。 排尿後に膀胱内に残尿がみられる人では、同時に頻尿や尿失禁がみられる場合があります。 排尿が可能な場合は、排尿後に膀胱に残った尿の量を測定します。 カテーテルを用いて膀胱内の尿を除去した後、原因に対する治療を行います。 ( 排尿のコントロールも参照のこと。) さらに読む と呼ばれます)こともよく起こります。この病気は、直ちに治療が必要です。
生殖器
女性
(女性生殖器系への加齢の影響 女性生殖器系への加齢の影響 閉経が近づいてくると、女性生殖器に急速な変化がみられるようになります。(閉経は最後の月経から丸1年経過した状態と定義されます。) 月経周期が止まり、卵巣からのエストロゲンの分泌も止まります。 閉経後には、小陰唇(腟と尿道の開口部を囲んでいる組織)、陰核、腟、尿道の組織が薄くなります(萎縮)。これに伴い、腟の慢性的な刺激感、乾燥が生じることもあります。おりもの(帯下)が出たり尿路感染症が起こる可能性が高くなります。閉経後には子宮、卵管、卵... さらに読む も参照のこと。)
性ホルモン濃度に対する加齢の影響は、男性より女性の方が明らかです。女性にみられるこうした影響のほとんどは、 閉経 閉経 閉経とは、月経が永久に停止し、妊よう性がなくなることです。 閉経前後の数年間は、エストロゲン濃度が大きく変動して月経が不規則になり、ホットフラッシュ(ほてり)などの症状が起こります。 閉経後は骨密度が低下します。 女性に1年間月経がなければ閉経と診断されますが、確認するため血液検査を行うこともあります。... さらに読む と関連しています。閉経すると、女性ホルモン(特にエストロゲン)が劇的に減少し、月経が永久になくなり、妊娠ができなくなります。女性ホルモン濃度の低下により卵巣と子宮が小さくなります。腟の組織が薄くなって乾燥し、弾力を失っていきます(萎縮性腟炎と呼ばれる状態)。このような変化がひどい場合は、かゆみ、出血、性交痛、強い尿意(尿意切迫 尿意切迫 尿意切迫とは、耐えがたい尿意を覚える症状のことで、ほぼ絶え間なく続く苦痛を伴ういきみ(しぶり腹またはテネスムス)のように感じられる場合もあり、膀胱への刺激によって発生することがあります。すぐに排尿しなければ、 尿失禁につながることもあります。尿意切迫は 膀胱の感染症が原因で生じることがあります。カフェインやアルコールの摂取も尿意切迫の一因となりますが、それだけで重い尿意切迫になることはめったにありません。まれではありますが、膀胱の炎症(... さらに読む )が生じることがあります。
乳房は張りを失い、線維化が進み、垂れ下がりがちです。これらの変化によって、乳房のしこりを発見するのが困難になります。
閉経時に始まるいくつかの変化(性ホルモンの減少、腟の乾燥など)が性行為を妨げます。しかし、ほとんどの女性にとって、加齢は性行為の楽しみを大きく損なうものではありません。妊娠を心配する必要がなくなるため、性行為が充実し、その楽しみが高まることがあります。
男性
(男性生殖器系への加齢の影響 男性生殖器系への加齢の影響 男性の性機能は徐々に変化していきますが、これが加齢そのものによって生じるのか、それとも加齢に伴う病気などが原因なのかは明らかではありません。勃起の頻度、持続時間、硬さは、加齢とともに徐々に衰えていきます( 勃起障害を参照)。男性ホルモン(テストステロン)の値が低下する傾向があり、それにより 性的欲求(性欲)が弱まります。陰茎(ペニス)への血流量が減少します。その他の変化には以下のものがあります。... さらに読む も参照のこと。)
男性では、性ホルモン量の変化はそれほど突然ではありません。男性ホルモン(テストステロン)の量が減少する結果、精子が減少して性欲(リビドー)が減退しますが、減少の速度は緩やかです。陰茎への血流が減少する傾向がありますが、ほとんどの男性は一生、勃起とオルガスムが起こります。しかし、勃起は長続きせず、あまり硬化せず、または持続させるにはさらなる刺激が必要です。次の勃起までに時間を要すようになります。加齢とともに 勃起障害 勃起障害(ED) 勃起障害(ED)とは、性交を行うのに十分な勃起を達成または持続できないことです。 ( 男性の性機能障害の概要も参照のこと。) どんな男性でもときに勃起に至らない問題を抱えることがあり、そのような問題の発生は正常なことと考えられています。勃起障害(ED)は男性が次のような場合に起こります。 一切勃起できない 繰り返し短時間は勃起するが、性交に十分な時間ではない さらに読む (インポテンス)が多くなりますが、病気に起因することが多く、通常は血管が侵される病気(血管疾患など)または 糖尿病 糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に生産しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 糖尿病は神経の損傷をもたらし、触覚の問題を引き起こします。... さらに読む が原因です。
内分泌系
(内分泌系への加齢の影響 内分泌系への加齢の影響 内分泌系は、ホルモンをつくって分泌することにより体の様々な機能の調節や制御を行う腺や器官の集まりです。ホルモンとは、体の他の部分の働きに影響を与える化学物質のことです。ホルモンはメッセンジャーとして働き、体のそれぞれの部位の活動を制御し、協調させます。( 内分泌腺も参照のこと。) ほとんどの ホルモンの血中濃度は加齢とともに低下しますが、高齢になっても同程度の濃度が保たれるホルモンや、より増加するホルモンもあります。ホルモン濃度が下がら... さらに読む も参照のこと。)
内分泌腺で生成されるいくつかのホルモンの量と活性が低下します。
成長ホルモンが減少し、それにより筋肉量が減少します。
アルドステロンが減少し、脱水が起こりやすくなります。このホルモンは、塩分と水分を保持するように体に信号を送っています。
血糖値をコントロールする助けになるインスリンの効果が低下し、また生成されるインスリン量が減少します。インスリンによって血中の糖が細胞に取り込まれ、そこで糖がエネルギーに変換されます。上述のようなインスリンの変化は、たくさんの食事をとった後に血糖値が上がり、正常に戻るまで長時間かかることを意味します。
ほとんどの人では、内分泌系の変化が、目に見える健康状態への影響として現れることはありません。しかし一部の人では、その変化によって健康上のリスクが高まります。例えば、インスリンの変化により 2型糖尿病 糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に生産しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 糖尿病は神経の損傷をもたらし、触覚の問題を引き起こします。... さらに読む のリスクが増加します。したがって、インスリンの作用を増強する運動や食事が、加齢とともにますます重要になります。
造血系
血球を生産する活発な骨髄の量が減少します。それに伴い、血球の生産量も減少します。しかし、骨髄は通常、十分な血球を生涯にわたって生産することができます。問題が起こるのは、血球の必要性が著しく増加したとき、例えば 貧血 貧血の概要 貧血とは、赤血球の数が少ない状態をいいます。 赤血球には、肺から酸素を運び、全身の組織に届けることを可能にしているヘモグロビンというタンパク質が含まれています。赤血球数が減少すると、血液は酸素を十分に供給できなくなります。組織に酸素が十分に供給されないと、貧血の症状が現れます。... さらに読む もしくは感染症が発生したり、または出血が生じた場合です。このような場合に、骨髄は体の必要に応じて血球の生産を増加させることができません。
免疫系
免疫系 免疫系の概要 人間の体には、異物や危険な侵入物から体を守る仕組みとして、免疫系が備わっています。侵入物としては以下のものがあります。 微生物( 細菌、 ウイルス、 真菌など) 寄生虫(蠕虫[ぜんちゅう]など) がん細胞 移植された臓器や組織 さらに読む 細胞の働きが遅くなります。免疫系の細胞は、細菌やその他の感染性微生物などの異物のほか、おそらくはがん細胞も認識して破壊します。この免疫系機能の低下によって、加齢に伴ういくつかの徴候を部分的に説明できます。
がんが高齢者によくみられる。
高齢者ではワクチンがより効きにくくなる傾向がある。しかし、インフルエンザ、肺炎、帯状疱疹のワクチンの接種は重要であり、いくらかの効果がみられる。
肺炎やインフルエンザなどいくつかの感染症が高齢者によくみられ、死に至ることも増える。
アレルギー症状が重くならない。
免疫系の反応が遅くなるため、自己免疫疾患は少なくなります。